火傷

 ラファエルさんは、少年の傷に川の水で冷やした葉を当て、火傷を少しでも治療しようと試みているようだ。しかし、少年は痛いのか怖いのか、か弱い声で抵抗する。

「少年、落ち着け…大丈夫だ…大丈夫だからな…」

 少年は声にならないかすれた声を絞り出して、涙を流していた。子どもらしく、声をあげて泣く気力もないくらい弱っているのは、一目瞭然だった。


 何かが、頭に浮かぶ。

 これは、幼い頃の私?


__このままでは殺される

 少年はそう思っているのではないか?あの時の私は、周りの大人みんな敵に見えていた。少年はきっと怖がっている。あの時私はどうして抵抗をやめたか?まだそれは確実に、感触が残っていた。

「大丈夫、大丈夫だから」

 私はそっと、少年の髪をそっとなでた。その瞬間、少年の瞼が少し開いたのが見えた。よく見ると、彼の目は茶色よりも少し赤かった。磨けば、情熱的で美しい瞳になりそう。

 段々と少年の抵抗が弱くなってきたように感じる。蹴ろうとしたり、噛もうとしたり、しなくなったようだ。安心してきたのか、疲れてしまったのか、私にはわからない。ただ、眉間に寄っていたしわがなくなっていた。

「…よし、痛みはだいぶ治ったみたいだな。ただやはり医者に見てもらった方がいい」

 いつの間にか応急手当は終わっており、ラファエルさんは少し申し訳なさそうな顔で私を見た。

「…ケイト、本当にお前には申し訳ないんだが…この子はギアナに連れて行かないか?パラマリボに預けるのは…危険な気がするんだ」

 きっとラファエルさんが心配していたのは、私がボランティア活動をできなくなるということだったのだろう。

「ボランティアのことなら、気にしなくていいよ。それよりも、この子の命の方が大事だから」

 少年の方を見ると、さっきの苦しそうな表情が嘘かのようにすやすやと眠っていた。ただ、少年の全身にこびりつくじゅくじゅくとした火傷の痕は、見ていられるものではなかった。見ているだけで身体中が熱くなり、溶けていってしまいそうだった。

「ケイト、またギアナに戻るぞ。俺から離れるなよ」

 ラファエルさんはそう言って少年をおんぶした。いつものキリッとした目とは打って変わって、父親のように優しくたくましい目をしていた。

 さっき来た道さえわからないほどの緑の多さに、くらっとくる。さっきまで美しいと感じていた赤い花々も、メラメラと燃え盛る炎のように思えて、今は見るだけで暑くなってしまう。

 チラチラとラファエルさんの顔を見上げる。汗だくで、顔は真っ赤。今すぐにでも熱中症で倒れてしまいそうだった。

「…ん?どうした、ケイト…」

 私の目線に気付くと、ふっと微笑んでくれる。だけど、すごく辛そうな笑顔。

「…ラファエルさん、私が…」

「いいんだケイト」

 私が言い終わる前に、断られてしまった。…いや、これはきっとラファエルさんなりの優しさだ。

 ラファエルさんの背中に乗っている少年の顔は見えないが、とてもおとなしいので、眠っているのだと思う。…眠っているだけ、だと思う。

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