一条さんには逆らえない~クラスの女王様な彼女に絶対服従な奴隷の僕。だけど、いつか絶対にわからせてやる~

八木崎

女王様な彼女と奴隷の僕


「ねぇ、ポチ。あんたさー、なんでアタシが怒っているか、わかる?」


「い、いえ……分かりません……」


 休み時間の真っ只中。僕―――犬塚一人いぬづかかずとは目の前で椅子に座りつつ、不機嫌そうな表情を浮かべる彼女―――一条有栖いちじょうありすに向けて土下座をしながらそう口にした。


 すると、チッ、と小さく舌打ちをする音が聞こえてくると同時に彼女は口を開いた。


「ふーん、そっかー、分からないんだぁー?」


 呆れたような口調で彼女はそう言いつつ、土下座をする僕の頭を平然と自分の足で踏み付けてきた。頭部にフッと伸し掛かる柔らかな感触から、上履きを脱いだ上で踏んだことは見なくても理解は出来た。もし脱いでいなかったら、もっと固い感触が僕の頭を襲っただろう。


 そして床の表面を見ながら僕は考える。今の彼女がどんな表情を浮かべているのかを。僕ぐらいのレベルになると、それは容易に想像出来てしまう。きっと彼女はニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべているに違いない。何故なら、僕がこうして床に這いつくばって謝罪している姿を見て楽しんでいるのだから。


 そう思うと、自然と涙が零れてきそうになる。だが、ここで泣いてしまえば彼女の思う壺だ。だからグッと堪えるしかない。それが僕に出来る唯一の抵抗だった。


「……ごめん、なさい」


「はぁ? なに謝ってんの? 別にアタシ怒ってないんだけど?」


「いや、そ、そんな訳……!」


 思わず反論しようとすると、それを阻むように僕の頭を踏んでいる彼女の足に力が込められた。


「ポチの分際でー、ご主人様に口答えする気?」


 そう言ってクスクスと笑う声が上から聞こえてきた。ここでまた何かを言おうものなら、彼女はさらに機嫌を損ねるに違いない。だからこそ、僕は黙って耐えるしかなかった。


 そうして僕が黙っていると、彼女は深い溜め息を吐いた。


「まぁ、いいや。で、物分かりの悪過ぎるポチに免じて、優しい有栖ちゃんからもう一度だけチャンスをあ・げ・る♡」


 そう言うと、彼女は僕の頭から足を退かしてくれた。ホッと安堵の息を吐き、僕が顔を上げると―――目の前には嗜虐的な笑みを浮かべた彼女の顔があった。


「じゃあ、もう一回だけ聞くねー? 有栖ちゃんがー、なんで怒ってるかー、分かるよね?」


 にっこりと微笑みながら問い掛けてくる彼女に、僕はゴクリと唾を飲み込みながら答えることにした。ここで答えを間違えたら何をされるか分からないからだ。


「……えっと、僕が一条さんに、無礼を働いたから、ですか……?」


 僕がそう口にすると、彼女は微笑みを絶やすことなく、僕を見続けていた。しかし、黙ったままで正解とも間違いだとも彼女は言わなかった。ただじっと僕を見つめ続けているだけだ。


 ど、どっちなんだ……? 沈黙が続く中、内心ドキドキしていると、やがて彼女は小さく笑みを零した。


「うんうん、そだねー。ポチにしては良く考えれた方かなー?」


「そ、それじゃあ……」


「でも、0点」


 彼女はそう言うなり、僕の額に目掛けてデコピンをしてきた。その衝撃により、僕は後ろに倒れてしまった。痛みに耐えながら額を押さえていると、彼女は椅子から立ち上がり、僕の目の前までやって来た。そしてしゃがみ込むと、僕の顎に手を当てて顔を持ち上げさせてきた。


「あのさぁ、その程度のことでアタシが怒ると思うわけ? ほんと、ポチっておめでたい脳みそしてるわよねー」


 嘲笑うように笑いながら言う彼女に対し、僕は何も言い返すことが出来なかった。


「じゃあ、そんな駄目なポチには……罰が必要よねぇ……?」


 耳元で囁かれるように言われた言葉にゾクッとする感覚を覚えた。その瞬間、嫌な予感が脳裏を過った。このままでは不味いことになると思った時にはもう遅かった。


「罰ゲーム、決定ぃ♡」


 ニヤリと笑みを浮かべる彼女を見て、僕は恐怖のあまり身体が震え始めた。そしてこれから行われるであろう出来事を想像してしまい、絶望感に打ちひしがれてしまうのだった。




 ******




 休み時間が終わり、授業に入った頃。僕は自分の席から遠くに座る一条さんのことを見ていた。彼女はノートを取る素振りも見せず、頬杖をつきながらこちらを見ている。


 その目からは、早く実行しろと訴え掛けているように思えてならなかった。しかし、そう簡単に出来る訳がないのだ。だってこれは僕にとってはとても勇気がいる行為なのだから。けれど、やらないわけにはいかないだろう。このまま彼女に睨まれ続けるよりはマシだ。


 そう思い、僕は覚悟を決めると行動に移すことにした。僕はノートの端を小さく破り取ると、そこに文字を書いていく。そして書き終えた後、僕は折り畳んで中の文字が見えないようにする。


 僕は折り畳んだそれを握り締めてから、隣の席に座る女子生徒に向けて小さめの声で話し掛けることにした。


「あ、あのさ……」


「ん? 何?」


「これなんだけど……」


 そう言いながら手渡すと、彼女は不思議そうな顔をしながら受け取った。


「なにこれ?」


「え、えーっと、それをその、一条さんの席まで回して貰えないかなって思ってさ」


「あぁ、そういうことね。いいよー」


 納得した様子で頷くと、彼女はそのまま横の席にいる生徒へ紙を渡した。それを受け取った生徒は不思議そうに首を傾げつつも、紙を回し始めた。


 前で教鞭を取る先生がこちらを見ていないタイミングを見計らい、僕の渡した紙片が一条さんの座る席を目指して回っていく。僕はそれを何とか無事に届くことを祈りながら、遠目で見守る。


 そしてついにそれは彼女の元へと辿り着いた。彼女は後ろの席から回ってきた紙片を笑顔で受け取ると、中を確認していた。それから少しして、彼女はチラッとこちらを見たかと思うと、ニヤリと笑った。しかも、受け取った紙片を広げた上でこちらに見せてきたのだ。


 そこには僕が書いた『スキ』という二文字が書かれていた。それを見た瞬間、顔が一気に熱くなるのを感じた。多分、今鏡を見れば自分の顔は真っ赤になっているだろうと思いながらも、どうすることも出来ずに俯くことしか出来なかった。


 くそっ、僕はなんて辱めを受けてしまったんだ……! これが今回の罰ゲームの内容……紙に『スキ』と書いて、それを一条さんの手元まで回すというものだ。


 かなり恥ずかしい内容な上に、思ってもいないことを書かされる始末。僕の羞恥心と自尊心を踏み躙るような最低最悪のゲームだった。こんな仕打ちを受けるぐらいなら、素直に殴られた方がまだマシかもしれないぐらいだ。


 そんなことを考えつつ、また一条さんの方に視線を向けると、彼女がニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべているのが目に映った。あぁ、全く。何という卑劣な女の子なんだ……。絶対にあの顔は、きっとこんなことを―――


『残念だったわね、ポチ♡ あんたの告白手紙回し童貞、アタシが貰っちゃった♡ ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ちなのかしら?』


 ―――って、感じのこと考えているに違いない! ああもうっ、本当に最悪だよ……!! あの悪魔みたいな女、どれだけ僕のことを弄べば気が済むんだろうか!? 僕は心の中で悪態を吐きながら、この屈辱に耐えるしかなかった。


 こんな感じで、僕はクラスの女王的な存在である一条さんによって苛められている。それは入学してから今までずっと続いていることだ。僕は毎日のように彼女の玩具にされている。


 例えば、ご褒美をあげるといってクラスのみんなの前でポッキーゲームをさせられたり、移動が面倒だからと言ってお姫様抱っこをするように命令されたり、後は一番酷いもので、昼休み中ずっと恋人つなぎをさせられたこととか、挙げるだけでもキリがないほどだ。


 僕がどれだけ一条さんに初めての経験を奪われてきたことだろうか。数え切れないほどであることだけは確かだった。それだけに、僕は彼女に対してやり切れない怒りを抱いていたのだ。


 なので、僕は復讐を決意する。今は無理でもいつか彼女に仕返しをしてやると心に決めたのだった。そうして虎視眈々と機会を窺い、来るべき時に逆襲をして彼女を屈服させてやる。


 だからこそ、今に見てろよ、一条さん……!  お前をいつか、僕が絶対にわからせてやるんだ!!













――――――――――――――――――


Q. 有栖ちゃんはどうして怒っていたのでしょう?


A. ポチが別の女の子をジロジロと見ていたから


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――――――――――――――――――


【★あとがき★】


 最後まで読んで頂きありがとうございました。


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 なにとぞ、よろしくお願いいたします


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