第5話 惹かれて気になる

 始まったレッスン。


 私はマネと2人、スタジオの隅に用意してもらった椅子に座って見学。


「帰りてぇ」


「声に出てるよ」


「声に出してんの」


 小声でマネに注意された。


 仕方ないじゃん。


 ホントに興味ないんだ。


 苦痛でしかないこの時間。


 早く終わればいいのに。


 そう思っていた。


 なのに、

「……キラキラしてる」

 どうしてだろう。


 Tシャツにジャージのズボン。


 可愛くもかっこよくもない姿。


 アイドルらしさゼロの服装。


 レッスン着なんだから当たり前なんだろうけど。


「貴女の目には輝いて見えるのね」


「……うん」


 音楽に身をゆだねて踊るその姿が。


 汗を流しながら蝶のように舞うその姿が。


 キラキラ輝いて見える。


 特に、センターのユミさんが。


 仕草一つひとつが光を放っていて、可愛い。


 この世の『可愛い』を凝縮した感じ。


 私とは正反対。


 可愛いの、好きなんだよなあ。


 自分が 地雷系とか量産型とか、そういう服は着たくないだけで。


 ぬいぐるみとか、可愛い人は好き。


 だからなのか。


 彼女に心惹かれてしまった。


「ユミが気になる?」


「うん」


 事務所に入ってからお世話になっているマネには、私の心はお見通しだった。


「貴女は可愛いものが好きだものね」


「うん」


 仰る通りです。


「『HANA-AKARI』はセンターを固定しているグループよ。ユミの妹が所属しているグループなんかは、センターが曲によって変わるんだけどね」


「へぇ、ユミさん妹がいるんだ」


 視線をユミさんに固定したままマネに相づちを打って、思い出した。


 見たことあるわ。


 だってさ、うちの事務所に所属するアイドルグループの中で一番売れてるんだもん。


「妹さんと何度も比べられてしんどいんだろうな」


「そうね。弱音は吐かないタイプらしいけど」


 心の中に溜め込む人か。


 どうやってストレス発散してるんだろう。


 私にとってはどうでもいいことはずなのに、妙に気になる。


 なんでだ。

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