第16話 【アネからノ謝ザイ】



本日、3話投稿


2話目です


※ここから少しの間、主人公の性格や言動に違和感を覚える展開があります。


少しすれば真相が分かりますが、せっかくなので、そこまで読んで頂けると嬉しいです。

明後日には分かると思います。


それまでは一日に三話ずつ投稿しますので宜しくお願いします。


三話目は19時に投稿します。



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「亮介……本当にすまなかった!!」


父親の謝罪から1時間も経ってない。

それなのに、まただ、同じ事が起きている。



「…………」


今度は姉が頭を下げて来た。

どいつもこいつも開口一番に頭を下げて来るんだよ。俺の気持ちも知らないで。


確かに、真っ先に謝って欲しい人間は多いだろう。

でも俺の場合は全然逆効果だし、そもそも俺がされてきた事は謝って済む話じゃない。


何も考えず、ただ謝れば良いと、そうすることで少しは前に進めると考えてるのか?


そんなの絶対に許さない……

前に進ませてなるものか……


俺はずっと一年間、高校一年生という大事で楽しい筈の人生を立ち止まったまま過ごして来たんだからな。


だから謝られた途端に終わりなんだよ。

そうされた瞬間から許す気持ちが失せてしまう──まぁ謝らなくても許さないけど。


謝罪されると100%の憎しみが150%にまで増幅する。


そう考えると生徒会長はマシだったかな?

憎しみが消える事はないけど、それ以上に膨れ上がる事はなかった。

上手いことやる女だぜ……そう考えるとなんかムカツクから生徒会長への憎しみを120%まで上げとこう。


いや、それは流石に可笑しいか?

でも考えが纏まらない、誰がどこまで打算的に行動してるか、まるっきり分からなくなっている。



「亮介……何か言ってくれ……」


「……ああ」


存在を忘れてた。

でも仕方ない……それどころじゃない。

俺は追い詰められている。

それにこの女も居ない者だと思ってたし。


俺は改めて姉の顔を見る。

一番俺を追い詰めた女……生徒会長や上級生達はコイツが先導し、俺を追い詰めていたと聞いた事があるし、実際にその場合を見たこともある……だからこそ許さない。



「……亮介」


そして、あの縋り付くような眼差しなんとかならないか?


気持ち悪いにも程がある。


なのに俺は何も言い返せずに居た。

人間は予期せぬ事が起これば硬直すると聞くが、どうやらそれは本当らしい。父と姉からの過剰攻撃には流石に心が耐えられなかったようだ。


吐きそうで仕方なった。

でも吐いて負ける気はない。

そんな弱気なモノは全部飲み込んでやる。



「私は酷い事をたくさん言ってしまった……それに、渚沙や涙子を止められなかったのも事実だ」


俺が黙ってるのを良い事に、姉は更に言葉を続けるのだが、その内容は想像を遥かに越える内容となった。



「……んん?何でそいつらの名前が出てくんの?」


「お前に酷い言葉を言おうとした時……止めてやる事が出来なかった」


雲行きが怪しくなって来た。


いったい何を言おうとしてるんだ?俺はお前が悪いと知ってるし、実際に見てるんだぞ?


まさかと思うが……違うよな?

取り敢えず聞いてみるか……流石にそこまで腐ってないだろう。



「……その二人が悪いって言いたいの?」


「ああ……渚沙は影響を受け易い部分もあったが、涙子はダメだ。率先してお前を貶めようとしていた……それに乗ってしまった私も充分悪い……しかし、生徒会長の涙子には逆らえないんだよ」


マジかコイツ。

責任を全部生徒会長になすり付けようとしてやがる。しかも妹の名前まで出しやがったぞ。


一見すると妹を庇ってるように聞こえるが、渚沙の名前を出すことで俺からの憎しみを少しでも逸らそうとしている。



「本当に渚沙が悪いのか?」


口も聞きたくないが聞かなきゃならない。



「そうだとしか言えない」


……この女。

真偽は分からないけど、あれだけ仲良くしていた妹を簡単に売りやがって……やっぱり俺からの恨みを渚沙に逸らすつもりだったか。



「じゃあ生徒会長も?」


「……ああ」


いやもう人間として汚いわ。

生徒会長を操ってたのは自分の癖によ。協力して俺を生徒会から追い出しただろ?


この話も本当かどうかはこの際どうでも良いし、渚沙も生徒会長も嫌いだから庇う気はこれっぽっちもない。

だけど俺だけじゃなく、今度はあんなに仲の良い二人まで裏切るのかよ……?



「私の行為は全てお前への愛の鞭だったんだっ!渚沙や涙子とは違うッ!それは分かって欲しいっ!」


「…………………」




かつて──



心から誰よりも信頼していた人物──


そんな血の繋がった姉の──


あまりにも悍ましい姿を見せられて──



………



………ぁ。



………あ。



………ああ。



──カチッと、心の中で何かが切り替わる。


そんな音が聞こえた気がした。


これまでの人生で、どれだけ酷い目に遭っても、決して壊れずに保って来た心にある大切なモノが……姉だったモノの醜い言葉に打ち消され、消えてゆく。


こんな人間が、本当に俺と血の繋がった姉なのか。


信じられない、信じたくもない、あり得ない、幾ら何でも酷すぎる。



………



………



変わる、全てに対する考え方が変わる、世界がカワル。


多分、いま、この瞬間、俺の心は欠けてしまった。


ずっと心の端っこで、俺が倒れないように支えてくれていた細い糸が、悪意の重さに耐え切れず遂に千切れてしまったみたいだ。



「…………ぁ」


その途端に気付かされる──俺の目の前に居るのは悍ましい怪物だったんだと。

こんな人間だと知らずに十何年も弟をやってたのか。俺はずっと化け物と暮らしていたんだな……なんて事だ。



【お前ヲ誰ヨリも本当に愛しテルっ!もうこの気持ちからニゲたりたりは死ないっ!どんな言う事でも聞クカら……だからドウカ許して欲シいっ!】


そう言って姉だった怪物は足元に縋り付いて来る。思いっきり振り払おうとしても、凄まじい力で巻き付いて離れようとしない。


どうしてここまでするのか解らないが、今日のコイツは何処かおかしい……行動が異常者そのモノだ。


本当に姉かと思える程に醜悪だった。

怖い恐ろしいでも負けない。



【これカラ先のジンセイ私は何がアッテもお前を信ジルっ!他の女に嫉妬もし死シナイと決めたカラっ!ダカラ側にニニ居てくレルだけで良いンダっ!だからどウカ頼むっ!最後にチャンスをヲヲくれっ!もうリョウスケケケの居ない生活には耐えラレそうにナイんダヨっ!】


俺は足元の悍ましい物体を睨むが、こちらと目が合うと嬉しそうに笑い掛けて来る……それも醜い笑顔を貼り付けて。

1年前から既にまともな人間と思ってなかったが、ここまで酷かったか……?


いや違うな。

本能的に察しているんだろう……生半可な言葉では俺に許して貰えない事を。この姉は異常にそういう部分で頭が回るんだよ。だって異常者の怪物なのだから。


……じゃあなんで俺の冤罪に気が付かなかった?


その答えは簡単だ。

というよりたったいま自分から口にした。

俺が知らない女を襲った場面を勝手に妄想し、勝手に嫉妬狂ってたんだ──つまり妄想と嫉妬を拗らせて俺を犯罪者に仕立て上げたんだろう。


そういう女に限って他人の感情や考え方が分からない。

俺の気持ちが分かるなら、謝罪を嫌がる俺の思考を先読みして絶対に謝罪なんてしない。


自分の事しか頭にないから、それが分からないし、気付きもしない訳だ。


この女は他人の心を理解出来ないんだ。

なんて哀れなんだ……こんな人間だと知らずに居た昔の俺も、そして未だに騙され続けている周りの人間も。


絶対に許す訳にはいかないッ!



「……どんな言う事でも聞くって本当?」


【あアッ!信じテくれっ!】


「じゃあ今から自分の右手小指を折ってよ……出来るでしょ?」


【もちロン……でも痛ソウだなァ】


それだけ言うと、楓は地面に置いた右手を躊躇なく踏み付ける……そしてそのまま左手で小指を強く引っ張った──!!



──ポキッ


乾いた音が廊下に鳴り響く。

直後、呻き声を上げながら楓が涙を流す。



【あウぅ……本当に痛イよぉ……うぅ……いだい……リョウスケ痛い……死ぬホド痛イイい………】



「…………ッ」



──もちろん本気で言った訳じゃない。


だけど《俺が言った通り》に姉は行動した。

思わず背筋が凍り付く……やっぱり姉だったモノは《俺が想像してた通り》のモンスターだったんだ!!



【いタイ……で、でも、リョウスケの……タメダトとオモウと、ウレシイヨ……】


ここまでイカれてるとは予想も出来なかった。痛い思いをして嬉しそうにされると復讐が大変だぞ。努力しないと恐らく空回りに終わってしまう。倒せなくなってしまう。



【……ぐぅ……なぁリョウスケぇ……びょ、ビョウインには……行ってモイイ……?】


「好きにすれば?」


──この姉はやっぱり手強い。

感情を押し殺して対応する……圧倒されてはダメだ、勝ち目がなくなってしまう。


認めるしかないよ。

生半可な事では勝てないんだ、やっぱり。

だって正真正銘の怪物なんだ。


俺も少し考えが甘かったかも知れない。

冗談でも骨を折れなんて言うべきじゃなかった。俺が命令し、痛い思いをした事で姉さんは気が楽になったに決まっている。


どうやら隙を与えてしまったようだ。

言葉に気を付けないとこの姉を満足させてしまう。怪物と戦うにはこちらも怪物にならないと……絶対に勝てない。



──じゃあコイツへの復讐はどうしようか?


無視は多分だが通じない。

黙ってると調子に乗って話し続けるだろう……悲しいが姉弟だから、そこは分かってしまう。


暴力に訴えるのも止めとこう。

今みたいに喜ばれる……俺から与えられるモノはたとえ『痛み』でも喜ぶ変質者だからな。



う〜ん……



だとすると………



そうだなぁ〜…………



………



………



あ、良いこと思い付いたっ!



「……姉さん……本当に反省してるんだね?」


【アアもちろんアハハもちろん!!】


骨折の痛みで涙を流し、鼻水とヨダレを垂らしながら頷く。こんな楓を見るのは初めてだったが、その醜態を見て亮介は内心ほくそ笑んだ。


そしてゆっくりと顔を上げた。



「……じゃあ姉さんを信じようかな?」


【え……コユビを折った程度でユルシてくれるノか!?】


「うん、だって凄く痛そうだし、俺の為にそこまでしてくれたのが嬉しかったんだよ」


【……リョウスケッ!!……本当にあリガトう!!嬉しイッ!!またこれマデみたいにずっとイッショニ居よウっ!】


抱き着こうとして来るが俺はそれを手で静止する。それに姉は不満そうな顔をするも無視して話を進めた。



「だけどお願いがある」


【ナンでも言っテくれ!次ハ中指カ!?】


「……違うよ」


【じゃあオヤユビ?】


「違うよ。一旦骨から離れて?」


マジで殺してやろうか。



「じゃあお願いとは何なのだ?」


「──急に仲直りしたら周りが変に思うだろ?」


「私は気にしないぞ?」


こんなに馬鹿だったかコイツ?

幾らなんでも今日は酷すぎる……でも我慢しよう、ここは耐える場面だ。



「俺が気にする……だから前みたいに話したりするのは二人っきりの時だけにして欲しい」


「……せ、せっかく仲直りしたのに」


「それが嫌なら許すのも無しだ」


「し、しかし──」


「ああもうしつけーなっ!俺の言う通りにしろよっ!?昔みたいに仲良くなりたいんだろっ!!だったら俺が良いって言うまで我慢しろよっ!」


「………あ、わ、わかった」



──怒鳴り声を聞いた楓は慌てて頷いた。これ以上怒らせるのはマズいと察したらしい。


順従な姉を見て亮介は『うんうん』と頷いていた。



「じゃあそういう訳で宜しく」


【アア!愛してるリョウスケ!ほ、本当に二人っきりの時はハナシカケテモても良いイイんだよナ!?】


「……いいよ」


俺は笑顔で頷いた。

少しの間、人間らしい会話が出来ていた気がしたけど、どうやら思い違いだったようだ。

今は怪物にすっかり戻っている。



(この姉は、ほんとに醜いなぁ)


そこにはかつて亮介が憧れていた姉の姿はない。あれだけ尊敬してた人物なのに、今では恥ずかしいこの体たらくだ。


自己防衛の為に義妹を売り、友達を陥れる。

何度目を凝らしてみても、姉は醜悪な怪物としか思えなかった。



「亮介……また宜しくな」


「……そうだね」



──コイツへの復讐は決まっている。

俺が完全に心を開いたと思わせて……最後に惨たらしく捨ててやる。


俺に対して気持ち悪い嫉妬心を抱いていたのだから、この姉には一番有効な復讐方法になる筈だ。


しかし、その為にはある程度は仲良くする必要がある。それが本当に辛いんだが徐々に慣れて行こう。


幸い、我慢する事には慣れている。

最後に致命傷を与えれるなら我慢しなきゃ。



──俺に会社を継がせると言った父親と、気持ち悪い言動を繰り返した姉……この二人への復讐は何よりも盛大なものにしよう……だから──



──少しの間は仲の良い家族として宜しくね?





『復讐』


言葉にするのは簡単だが漢字にすると難しい。だが何より難しいのが、それを実行すること……そして、それを実行しようと考えるまでに精神が追い詰められてしまう事だ。


ムカつく先輩が居る。

親に怒られたからイライラする。

店員の態度が悪い。

友達と喧嘩したから許せない。


そんな些細なことで人は復讐しようとは考えもしない。その時は憎く思っても、時間が経てば忘れるモノだ。それが家族に対してとなれば尚更だろう。


だけど亮介は家族相手に実行しようとしている。

並大抵な決断ではない……恐らく、常人には計り知れないほどの絶望を味わって来たのだろう。


恨みつらみには陰に籠もる……深く、そして静かに──



「………」


部屋に戻った亮介はスマホの電話帳を開き、大切な人達の名前をずっと眺めていた。


自分の行いが正しいのかさえ、亮介には既に分からなくなっていた。




ーーーーーーーーーーー


おかしな文章は仕様です。


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