第15話 父親の謝罪


本日、3話投稿


一話目です


※ここから少しの間、主人公の性格や言動に違和感を覚える場面があります。


少しすれば真相が分かりますが、せっかくなので、そこまで読んで頂けると嬉しいです。

明後日には分かると思います。


それまでは一日に三話ずつ投稿しますので宜しくお願いします。




ーーーーーーーーーーーーーーー




「……これまでのこと……本当にすまなかった」


「…………」


家に帰ると玄関先で父親が頭を下げて来た。それも深々と、まるで謝罪会見でもしてるかのように。


ああ楽しかったのに、せっかく碓井くんと遊んで嬉しい気分だったのに、せっかく昨日は麻衣の家に泊まってまったり過ごせたのに、何もかも全部台無しだ。


どうして出迎えてくれるのが母さんじゃないんだ?


それはしょうがないか、今日は麻衣のお母さんと出掛ける所があるって話してたし。


晩御飯までには帰って来るって話だけど……やっぱり母さんが居ないと、この家に居るのは辛い、こういった事があるんだから。



──かつて父親として信頼されていた男は、神妙な面持ちで話を続ける。

亮介の感情など、考えもしない。


「私に出来ることなら何でもする……私にこれまでの過ちを償わせてくれ……どうすれば良いか教えてくれないか……?」


「…………」


大して興味のない芸能人や俳優が行う、台本通りの謝罪会見をテレビで観る方が遥かに心に響く。

父の謝罪の言葉は何もかも薄っぺらく感じた。どうすれば良いのかを問い掛けてくる時点で終わりなのだ、何もかも終わり。


でも俺は優しいから答えを教えてあげる。

黙ってても良いけど教えてやろう。



「何でもするねぇ〜?じゃあ会社辞めてくれる?」


「そ、それは出来ない……!」


「え?何で?出来ることなら何でもするんじゃないの?会社辞めるなんて簡単でしょ?」


「いや……しかし、急に辞めるのは……」


「別に今すぐじゃなくてもいい。引き継ぎに時間を掛けても良いからさ」


「……だがそれだと生活が」


──なぁ?やっぱり薄っぺらいだろ?


実に素晴らしい父親だ。

息子へ見せる誠意が素晴らしい。

手のひら返しが素晴らしい。

生き様が素晴らしい。



『少し考えさせてくれ』


最低でもこれくらいの言葉は欲しかった。

簡単に会社を辞めれないこと位は理解出来る……だから、ほんの少しだけも良いから考えて欲しかった。


それにどいつもこいつも簡単に謝るなよ。



「そうだ……と、父さんの会社を継がないか!?」


「……………あ?」


「そうすれば私も会社を手放せる!一年遅れてしまったけど会社のノウハウをまた教えるから、ウチの会社を亮介が継いでくれっ!──そして亮介が一人前の社長になったら私は会社から姿を消そうっ!」


「…………………」


「引き継ぎに時間を掛けても良いって言ってくれただろ!?お前に引き継ぐ時間を欲しいっ!そんなに時間もかけないっ!お前が25歳になるまでには一人前にしてみせるっ!」


「……………………………………」


「もちろん私があれこれ口出しも絶対にしないっ!亮介だって社長に憧れていただろう!?だから亮介には社長の椅子を譲ろう──これがお前に対して出来る精一杯の謝罪だっ!」


本人にとっては心からの謝罪なのだろう。

定年まで社長として頑張るつもりだった山本和彦にとって、会社は宝なのだ。それを手放すのだから亮介も少しは許してくれる筈だと考えている。


『亮介だって社長に憧れていただろう!?』


こんなセリフ、見当違いもいい所だ。

冤罪事件の後に、亮介に渡した会社に関する資料を全て取り上げ、燃やして捨てた父親が口にして良い言葉では断じてない。



(お前の会社なんか、継いでたまるもんか)



「………………そうか」


しかし、和彦の発言は確かに亮介の心に変転を齎らした。父としての覚悟はしっかりと息子に伝わっている。



………



………



ただし、更にマイナスへと──これ以上ないほど父としての評価が堕ちる。限界まで堕ちていたと思っていたのだが、それでも底を突き抜けて行く。

この父親と血が繋がってると思うと、亮介は悔しくて堪らなかった。


確かに父の背中を追い掛け、たった一人で会社を大きく成長させた父親に憧れを抱く時期もあった。

だがそれも昔の話だ。亮介は既に父にもその会社にも興味がない。そんな簡単な事が和彦に解らない。



「分かったよ、お父さん」


「……ッ分かってくれたか!?」


車で凛花と話した時と丸っ切り同じで、この父親は言葉を都合良く受け取りがちだ。

今の亮介の『分かった』を肯定の言葉だと受け取ってしまっている。それが亮介には馬鹿馬鹿しくてしょうがない。



「うん、よーく、よぉーーく、解ったよ」


悔しい、ムカつく、俺を馬鹿にしてるにも程がある。


──でも、お陰で覚悟が決まった。

コイツには今までの復讐をするつもりだったけど、その復讐は家庭の中だけで納めるつもりだった。


あまりやり過ぎても母さんに怒られそうだし、それ位で我慢する気だったんだけど……もうそんな生優しい事は言わない。


社会的に地獄に堕としてやる。


ただ、その為には自分が母さんを養って生きて行くだけの力が必要だ。


……残念ながら今の俺にそんな力はない。

今は蓄えないと……この父親に対しての復讐は、もっと時間を掛けて絶望感を味合わせてやろう。


この親父が大切にしているモノ……それは家族ではない、自分の代でここまで大きく手掛けた自分の会社だ。

なんせ会社を守るために息子の言葉を封殺し、俺を見捨てる事で会社での立場を維持した男。


だったら返事は決まっている。



「俺は会社を引き継ぐよ」


「おお……りょ、亮介……本当にありがとう……もう私は絶対に間違えたりしない……ッ!もう一度チャンスを与えてくれてありがとう……ッ!」


泣きながら感謝の言葉を繰り返す。

間違いなく心からの懺悔──ただし、亮介の心には露ほども響かない。


──だが、この罪悪感は利用出来ると思った。

この先、例えどんな事があっても、父親が自分に逆らう事はないだろうと亮介は確信している。




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