第25話 夜の魔法の森

 1節 真夜中は意外と



 真夜中って意外と賑やかだ。



 車だからエンジンの音はもちろんあるのだが、それだけじゃない。



 窓を開けると、いろんな音が聴こえる。



 虫の声。



 風の音。



 川の音。



 遠くから聞こえる列車の音。



 全て小さいけど、とても綺麗だ。



 なんか詩的になってるような気がしないでもないが、まあ、思ったより夜って賑やかだよねって話だ。



 でも窓を開けてると普通に寒いのでさっさと閉める。



 そして運転に集中する。



 と言っても本当に運転は暇だ。みんな寝てるので曲をかけるわけにもいかない。



 窓を開けると寒いので開けられない。



 聞こえるのはエンジンのガラガラという小さな音だけ。



 僕は静かなだったりいつまで経っても変わらない音しかしない空間は嫌いだ。



 なんだか心が落ち着かなくなる。



 だから街中とか駅前とかの賑やかな雰囲気は好きだ。けど、そこはそこで人混みや周りの目があるので嫌だ。



 めんどくさいものである。僕が特別そうなのかもしれないが。



 そんなもんだから家の自分の部屋にいて、かつゲームも動画も何もしていない時は基本何かしらの音楽をかけている。



 時間は、22時05分。



 いつの間にかだいぶ時間が経っていたようだ。それはそれで助かる。0時くらいになったらさっさと矢矧を起こして代わってもらうから。



 こういう時、僕は大体頭の中に物語を作っている。



 主人公はなんて名前だ、その友達は誰でどんなやつだ、とか。



 他には、モノ作りゲームで建造した機関車とか車とかのスペックを細かく決めたり。



 全長、全高、全幅、最高出力、最高速度、全備重量、開発経緯、考えればいくらで

も項目は増える。



 僕は小さい頃から鉄道が好きだったので、機関車、特に蒸気機関車に関して知識が多い。



 だから、こんな他の人が見たら引くようなものでも考えるのが好きだ。



 子供っぽいかもしれないが、本当に列車は好きだった。



 なんかもう、ただ頭の中で自分のことを語っている痛いやつみたいになっている。

 まあ他になんかすることもないので諦めて景色を眺めながら走ることにする。




 2節 交代は意地でも断る!(By矢矧



 時間は24時00分。



 くそ遅い時間だが矢矧を起こして変わってもらう。



「おーい矢矧起きろー」


「んー?」


「運転代われ」


「やだ」


「代われ」


「やだ」


「あーまって助手席から引きずり出さないで」


「運転はわりとすぐいけるから」


「なんでだよやだよ」


「えー1人で運転しろと?」


「そうだよ」

「交代は意地でも断る」


「しゃあないなあ……」


「やったぜ」


「おのれ覚えてろよ」



 運転の交代はできなかった。絶対いつかやり返す。



 運転席に戻り再びエンジンを起動する。



 静かに回り出したエンジンは再び車を動かし始めた。



「暇だ……」



 そしてまた暇な時間が訪れた。




 3節 森の夜景と星の夜空




 でも、魔法の森は思ったより明るい。



 異世界に来た最初の夜もそうだったが、魔宝石の灯りがとても綺麗だ。



 1番多いのは前に採取した時は黄緑の草宝石だと思っていたが、昼の時見つけられなかっただけで、思いの外ほかの色も光っている。



 まあ、そんなに魔宝石ばっか見てたら危ないので前を見る。



 ——1時間後



 時刻は午前1時の15分。



 目の前に踏切が現れた。列車が来てると危ないので一応停車する。



 だが、木々が邪魔して線路の先が見えない。



 しょうがないので車を降りて左右を見にいく。



 車を見ても強力なハイビームライトでロクに見れないし見てもみんなの顔なんか明るすぎて全く見えない。ほんとどうやったら魔法だけであんな山奥で捨てられて何十年と経ったような車を直せるんだか。



 左を見る。列車は来てない。



 右を見て



「列車の音?」




「——っ!」




 それに気づいた数秒後、猛烈もうれつな速度で夜行列車が駆け抜けていっ

た。



 その列車が巻き起こした風によって線路沿いの木々と服が揺れる。



 流石にもう列車は来ないようなので、車に戻りまた運転を始める。



「〜〜♪」



 特にやることもなくて暇なのでエンジンでかき消せるくらいの音量で鼻歌を歌う。



 なんかものすごい痛いやつみたいになってる気がする。



 すぐにやめた。



「ずいぶん懐かしい曲だね」



「!?」



 一瞬めちゃくちゃ動揺した。なぜか睦月が起きていた。



「なんで起きたの?」


「急に止まった上にものすごい列車の音がしたから」


「起こしてごめん」


「いいよ別に。星見れるし」


「そんなに星好きだったっけ?」


「好きだよ?というかここの5人みんな星好きでしょ。特に坂田と時雨」


「まあ確かに」


「てことでわたすは天窓で星見てますわ」


「一人称おかしいぞ」


「夜だとなんかわたすになるんだよね。不思議」


「ほんとな」



 それからは星の話をしながら進み続けた。



 星の名前の話。星座の話。それにまつわる神話の話。どれもそれなりに続いた。



 今までの世界にもあったような一等星もいっぱいあるようだ。



“アルタイル”、“ベガ”、“デネブ”、“シリウス”、“ベテルギウス”、“スピカ”、“カノープス”、“アンタレス”。



 どれも明るく輝いている。



 そこから有名な星座もどんどん作られていく。



 北斗七星に、夏の大三角や、冬の大三角、オリオン座、さそり座とかの星座も綺麗に見える。




 その後は短いようで長いような不思議な時間が続いた。

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