2章 終われない旅は大平原から

旅の始まりと最初の街

第7話 最初の街




「じゃあ、果てのない旅に出かけるとしよう」



 クラッチレバーを押し上げると、エンジンの動力が全ての車輪へと伝わり重い音を上げながらゆっくりと走り出した。



 1節 バルラト大平原



 細かな振動が硬いシートを通して体に伝わってくる。ハンドルを持って変な方向へ曲がらないようにしながら、少しずつクラッチを繋いでいく。やがてそこそこの速さで景色が流れるようになった。



「おーはやーい!」



 速度計は時速60キロを指している。ドアのハンドルを回して窓を開けると涼しい風が入ってくる。



 軽快な音を出しながら、時々石を踏んで飛び跳ねながら、広い平原を進んでいく。



 遠くには動物たちも見える。



「そいえばここなんて言うんだ?」(朝凪


「本取るからちょっと待って」(如月


「うん」(朝凪


「……えっとねーこの平原は“バルラト大平原”って言うらしいよ」(如月


「大がつくだけはあるな。やたらとでかい。」(矢矧


「この平原は大陸でも2番目の大きさらしいよ!」


随分ずいぶん凄い場所に転生したみたいですね?」(時雨

「だね!やーこれからが楽しみだなあ」(朝凪



 こんななんでもないただの雑談でも楽しく思えてくる。



 そういえば音楽プレーヤーが装備されてたような?



 あった。


 矢矧にざっと見てもらった感じ、ボーカルなしの民族音楽フォークミュージックばかりのようだ。



 でも実際に聞いてみるとアップテンポの、まさにこういう世界にピッタリのファン

 タジックな曲ばかりで最高にテンションが上がる。



 だからといって速度を上げすぎたりしないように気をつける。



 強い風が吹いて草がなびく。それに合わせて車体も揺れる。全長6メートルの巨体は風の影響を受けやすい。まあそんな車を揺らすほどの風はたまにしか来ないが。



「——でさーそれでさ」(如月


「うん」(睦月


「ものすっごいでっかいバケモノが出てきたんだよ!」(如月


「え?大丈夫だったの?」(朝凪


「もちろん!私の両手剣で——」(如月


「変な話を作り出すな。んなもん来てないし一発も当ててなかっただろ?」(矢矧


「そーいうこと言わないでよ〜!」(如月


『あははははっ!!』(朝凪・睦月・時雨


「そんなこと言ったら矢矧の弾だって全部弾かれてたじゃん!」(如月


「少なくとも当ててるだけお前よりはマシだな!」(矢矧


「む〜!そんなことない!当たればただの初期装備みたいな弓矢より絶対強い!」(如月


「当たらなかったら意味ないんだぞ?」(矢矧


「〜〜〜!今度狩りに行く時は絶対何か倒す!」(如月


「今回は如月の負けみたいね」(睦月


「だね」(朝凪



 楽しいな。こういう風にただ友達と変な話をしてるだけでも楽しいが、『異世界』、『音楽』、『旅の途中』、この要素が組み合わさるとなんともいえない高揚感がなぜかくる。



「雑談と異世界と音楽と旅が合わさり最強に感じる」


「どっかで聞いたことあるなそれ」


「なーんのことだか」



 左には大きな川が見える。その川には橋が架かっていて、向こう岸へ渡れるようになっている。



 右にはゴツゴツした大きな岩がたくさんあって、その周りには青いスライムみたいなのがいっぱいいる。



 多分クエストとか受けられるとこがあるならあそこで狩るクエストがあるんだろうな。



 名前だけだとなんもなさそうに見えた大平原も、実は意外といろんなもので溢れているようだ。数は少ないが森もいくつかある。



 さらに遠くの方には黒くて長い線が動いてて、そこから煙が噴き上がっている。鉄道もあるようだ。謎の朝に見た線路はだいぶ幅が広かったから、近くで見たらものすごい迫力だろう。



「みんな!目の前に街がある!」


「ほんとだ!すご!」


「しかもそこそこ大きいですよ!」


「せっかくだし寄ってこうぜ!」


「そりゃあもちろん!僕たちの旅の最初の目的地はあの村だね!」



 2節 はじまりの街“ビレノート”



「おお〜でっかい街!」


「だね!これは面白いこと起きる予感!」



 僕たちが今向かっている街は、最初に見えた大都市のような蒸気機械などはなさそうに見える。でも見た感じは中世の街のような姿をしている。近づくにつれ、建物がはっきりと見えてくる。



 正直に言うと、めちゃくちゃオシャレだ。どの家も二階建てで、一階は石で、2階は、白い壁に木材の柱がある。



 そろそろ街の門のような場所に着く。ギアを3速から1速に変えて向かう。



 門の左右には門番のような人がいる。



「停まって入っていいか交渉してくるわ」


「頼んだ」



 エンジンはつけたまま、降りて門番へ向かう。



「この街に入っていいですか?」


「お前たちは何か危険物は持ってないな?」


「はい。持っていません」


「ならいいだろう。くれぐれも武器を暴動のために使うなよ。それと車の速度も出し

 すぎないようにな」


「わかりました」



 意外とあっさりとオーケーを貰えた。そんな簡単に知らんやつを入れていいのか?こっちとしてはありがたいけど。



「どうだった?」


「オッケーだって。入るよ」



 変速機トランスミッションは1速のまま、クラッチを繋いで門を通る。



「すご!ほんとにファンタジーの街じゃん!」(如月


「こんな異世界みたいな街ほんとにあるんだ!」(朝凪


「ここは異世界だけどな?」(矢矧


「あっそうだった」(朝凪



 街へ入ると、意外にも人ばかりではなく、蒸気で動いてそうな白い煙を吐き出してる車とか、僕らみたいなディーゼルの車もあるようだ。両者とも数は少ないが。



 それでも人は多くて、門番がゆっくり走れと言うのも頷ける。窓を開ければいろんな人達の話し声が聞こえる。



 ある程度進むと、お店のような建物がたくさん立ち並んでいる場所へ入った。



 見る限り、野菜屋、パン屋、肉屋や果物屋のような食べ物を売るような店から、武器屋、道具屋、魔法店に雑貨店のような物を売るような店もある。食べ物関係の店を通るたびいい匂いが漂ってきて食欲がそそられるので窓を閉じる。



 建物は大きなものが増えてきた。大きな塔のような建物から、長屋のような建物もある。



 大通りを進んでいくと、駐車場のような場所があった。そこに車を停めて、街を散策することにした。



 バック運転は慣れなかったが、なんとかどこかにぶつけたりはせずに停められた。今思えば頭から突っ込めばよかったかもしれない。



 適当に5人で街を歩き回る。すると駅が見えてきた。



「列車来るかな?」


「えっと次に来る時間は・・・11時。んで今10時50分だからそろそろ来るね」


「んじゃ乗るわけじゃないけど来るまで待つか」


「だね」



 ボーーーン!



 10分後、列車は定刻通り駅に到着した。

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