012 にゃーこやの店長、王宮でも出入り自由だってさ

「それにしても、『奇跡』を羨む気持ちは薄くなった気がする。キリがないからどこかで線引きをしてるんだろうけど、おれは大丈夫側だってことだろうしさ。頑張ってよかった」


 コネリーにも心配をかけたようなので、エアは今の心境を語ってみた。


「顔見てそれはすぐ分かったよ。まぁ、『奇跡』を起こす側にしてみれば、そこまで深く考えてなさそうだけどな。ちょっと情報を集めてみたら他国でもたびたび『奇跡』が起こるそうだし」


「他国まで?実はスゲーでかい組織とか?」


「どうなんだろうな?ああ、それと本当か嘘か分からんが、時々説教されてる医者や回復術師もいるそうだぞ。ポーションの使い方や処置がかなり間違ってるとかで」


「…はぁ?説教?…いや、それが本当なら言いたくなる気持ちは分かるけど。じゃ、どんな人か分かったのか?」


「分からん。余計に分からなくなった。平凡過ぎてもう一度会っても分からないと言う人もいれば、女性だったとかも」


「それは単に会った人が違うってだけじゃなくて?」


「それもあるんだろうけどな。『奇跡』を起こしてるのが人型なのが分かっただけだ。とんでもない魔力量らしいから精霊説が有力」


「精霊?人間を助けて何かメリットがあるのか?…あ、考え方が違うから人間以外だと?」


「ああ、それもあって。気付かれずに行動するのが上手いこともある。にゃーこやの店長、王宮でも出入り自由だってさ」


「…どうなってるんだ、警備」


「部外者でもそう言いたくはなるが、にゃーこやの店長がすご過ぎるだけだろ。

 去年の夏、かき氷の自動販売魔道具を狙って、相当数の強盗が挑戦しても、揃って返り討ちに遭って、王宮の中庭に首だけ出して埋められたそうだしな。見せしめも兼ねて」


 強盗たちが貴族の紐付きなのを見越してだろう。しかし……。


「…それってどうやって?」


「転移系の魔法が使えるらしいぞ」


「……はぁ?にゃーこやの店長って伝説の大魔導師か何かってこと?」


「さぁ?噂っていうのは多かれ少なかれ、色々と大げさになって行くものだしな。『奇跡』で治してもらった人は後日、集められて何らかの強制労働をさせるつもりだ、と言う人もいるし」


「それはないだろ。噂半分にしても、魔法も技術もすごいことは確かなんだから、普通の人たちを集めて何かさせた所で利益なんか出ないだろうし、今までの行動とそぐわない」


「同感だ。独占すれば莫大な利益を産むだろうに、あっさりと様々なレシピを商業ギルドに登録してるし」


「え?そうなんだ?」


「ああ。登録場所が様々なんで知らない人も多いがな。ラーメンの麺とか味の決め手のダシの作り方とか。変わった所ではガラスの替わりになりそうな魔物素材を組み合わせた合成ガラス」


「あ、砂時計の外側な」


 カップラーメンと一緒にエアも購入したので、机の上に砂時計を出した。カラフルな細かい砂ばかりで、エアが選んだのは黄色の砂のもの。容器は透明なのにガラスより軽くて丈夫だった。

 見てると和むので入院中も何度かお世話になっている。


「そう、それだ。色んな応用が利くから少しずつ商品が出てるよ。こっちまで来るのは、もうしばらくかかるだろう。焼きそばはもうこっちまで来てるがな」


「…ええっ?あれってにゃーこやのだったんだ?」


 パスタやうどんともまた違う変わった麺料理だとは思っていたが、カップラーメンの麺とは気が付かなかった。太さも様々あるからだろう。


「ああ。案外知らない人が多い。ラーメンの麺と野菜を一緒に炒めて味付けるレシピだな。他にもかつてない食べ物ばかりを登録してるから、料理人の間では『食の伝道師』とも呼ばれている」


「でんどうし?」


「伝え歩く人のことだ。焼きそばだって色んな味付け、具材があるだろ?そういった色々と工夫した料理を増やすのが目的なんじゃないかと、言われてる」


「へぇ。それはいいな。美味しい物が増えるってことだし」


「それにしても、欲がない気がするが」


「商人としてはその辺がひっかかる感じ?」


「そりゃな」


 エアが一杯奢ったからかコネリーは色んな情報を教えてくれた。

 久々に会った知り合いが元気そうで安心した。

 『奇跡』に除外された者同士、何となく仲間意識もあったのかもしれない。


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