011 一杯奢らせてくれ

 エアは布袋タイプのマジックバッグの容量いっぱいまでダンジョンに潜った結果、予想以上に買取金額がよかった。

 割と大きい容量のマジックバッグだった、というのもあるが、ちょうど不足している物が多かったらしい。


 鉱物ドロップが多く、採掘も出来るエレナーダダンジョンだが、マジックアイテムのドロップ品も多少は出る。

 エアが狙っていた結界を張るマジックアイテムもドロップしたので、満足な結果だった。

 これでダンジョン内宿泊でも安心して眠れるし、フィールドフロアにも行ける。


 換金率の高い鉱物は売らず、鍛冶屋へ持って行って身に着ける物に加工してもらうことにする。武器も荷物も失った場合の万が一の蓄えだ。

 鍛冶屋へ行った帰り、エアが左手を失って以来、疎遠になっていた連中と遭遇したが、これまた手のひら返しがすごかった。

 苦しい時は見てみぬふり、儲けた時はすり寄って来る。

 欲望に忠実過ぎて吐き気がする。


 適当に流してささやかな自分へのお祝いで飲みに出かけた所、エアは久しぶりに見る顔を見付けた。


「よぉ、エア君。何とかやってるみたいだな」


 入院した時、隣のベッドにいた商人のおじさん…コネリーだった。

 手招きされてカウンターのコネリーの隣の席に腰を下ろす。一人で飲んでいたらしい。


「何とかな。そっちの怪我はよくなったのか?」


 足の腱が上手く繋がらず、立てても普通には歩けず少し引きずるようになっていたのだが、もう杖も持っていない。


「そうなんだ。『奇跡』が起きたワケじゃなく、つい最近、中級ポーションを手に入れてな。何とか治った」


「それはめでたいな。コネリーさん、一杯奢らせてくれ」


 エアはマスターにコネリーが飲んでるエールと同じ物を頼むと、マスターがすぐに注いでコネリーの前に出した。エアはワインを頼む。


「そりゃ嬉しい。遠慮なくもらおう」


 お互い木のカップを軽くぶつけて乾杯した。


「エア君は義手を作らないのか?ちょっとしたツテがあるから紹介するぞ」


 傷口に包帯を巻いたままのエアの左手をちらりと見て、コネリーがそう申し出る。


「それは是非とも。どうせなら魔道具の義手を作ろうと思って金貯めてるんだよ」


「いや、ちょっと待て。魔道具はあいにくとツテはない。高額になるけど、大丈夫なのか?」


「多分。ソロの方が向いてたみたいで、結構稼いでるし。まぁ、おれが思ってるより高額じゃなければ、だけど、性能にもよるだろうしな」


「それはな。ソロの方が危険じゃないのか?」


「それはそう。でも、人に頼れない分、慎重になるし、色々スキルも覚えたし、レベルの上がり具合もよかったんだよ。ドロップ率もよくなったし」


「え?そうも違うものなのか?」


「だったらしい。おれも知らなかった。パーティに運が悪い奴がいると中々目当てのドロップが出ないとかは聞いたことあったんだけどな。自分の運がどうとかは考えたことなかったし」


 ゲラーチたちに何か変なスキルか魔法を使われていたようだが、エアの元々の運は結構よかった、と思っていいだろう。


「運がいいんだか悪いんだか、よく分からん時もあるよな。ドロップはしないことも多いんだから、明らかに『いい』だ」


「そうでもないぞ。ものすごくレアなドロップが出てパーティ内で喧嘩とか、殺し合いとか、実は呪いのアイテムで、とかもたまに聞くし」


 エアはそういった話を知っていたので、【鑑定モノクル】を手に入れるまでは、ドロップ品はすぐ身に着けず、冒険者ギルドで鑑定してもらってから、にしていた。

 もう今は【鑑定モノクル】があるので、ドロップ品鑑定だけじゃなく、採取も採掘もより効率的にやれるようになったワケだ。


「…よくない面もあるのか。パーティの仲間は命を預け合ってるんだから、固い絆で、とかはないのか?」


「長いこと組んでるベテランはそうだろうけど、若手はどうしてもな。元パーティメンバーたちなんか見舞いにすら来ない上、パーティ資金も有耶無耶にしようとしやがったし。そろそろ潮時だとは思ってたけど、予想以上に酷かった」


「ああ、噂で聞いたよ。よくそんな酷い連中と組んでたもんだ。エア君が攻撃や防御にも使える魔道具の義手を手に入れて更に強くなって、元メンバーたちを悔しがらせてやれ」


「そんなにすごい魔道具はさすがに高額過ぎるって」


 エアが思うより遥かに噂が回っていたらしい。


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