009 手のひらくるーり

 ダンジョン探索は順調に進んでいたエアだが、そこそこ稼げるようになったことと病院で素顔をさらしてしまったことで、街中では面倒なことになっていた。


「片手じゃ大変でしょ?ウチにおいでよ。お世話してあげるから。色々とい・い・こ・と・も教えてあげる♪」


「君、ドロップ率がかなりいいんだってね?あたし、キレイな赤の宝石が好きなの。安く譲ってくれるんなら、オマケにいいことしてあげてもいいわよ?」


「なぁ、ウチのパーティに入りなよ!高待遇するよ。ソロだとただでさえ限界があるのに、君、片手だし、早い所、パーティに入っといた方がいいって。どうどう?」


 エアが小汚い風を装っていた時は見向きもしなかった、見下していた、バカにしていた、連中が手のひらを返しまくったからである。

 『金ヅル』『利用価値大カモ』と認定されたらしく。


 稼げるようになった今はちゃんと装備を整えて、小汚い格好はしていないこともあるのかもしれない。エメラルドグリーンの目を少しでも目立たなくするため、色付きゴーグルだけはかけているが。


 当然、エアはどれもこれも断ったが、中々しつこく、宿屋の人を買収し出したので、更にダンジョンへと多く潜ることになった。

 「ウチの人は断ったけど、他の雇人を買収するかもしれないから逃げた方がいいよ」と教えてくれたのは、宿屋の女将である。


 とっくに成人していても見た目が幼いからか、この女将もエアに色々とよくしてくれた、くれているので、稼げるようになってすぐ小粒の宝石をプレゼントしていた。

 お礼であって他意はないので、そう高い物ではなく、ご主人の目の前で、である。アクセサリーの加工代はご主人が出すことになったそうだ。エアの目論見通りに。

 こんな時でもないと妻にプレゼントなんて、中々しないような性格のご主人だったので。


 ちなみに、ストーンタートルの討伐ドロップの黄色の宝石が付いた指輪は、マジックアイテムではなく単なる指輪だったが、希少石だったのでいいお値段で売れた。



 ******



 エアが左手を失って二ヶ月。

 片手で戦うのにも大分慣れて来て、日常生活もほとんど不便がなく色々と出来るようになった。


 『奇跡』は今でもあちこちで起こっているが、エアには起こらなかった。

 病院や治療院以外でも、四肢欠損している人は、ある日突然、治っていることもあるそうなのに。

 多分、不自由している人から優先なのだろう。


 何とか戦えていて若い自分は後回しで当然だとは思うものの、羨むひがむ気持ちもやはりあった。

 『奇跡』の目に留まらないとダメなのかと、木の義手すら付けてなかったのに。まぁ、切断面が時々痛むこともあったのだが。


 もう『奇跡』に頼らず、しっかり稼いで魔道具の義手でも作ってもらおう。


 エアがダンジョンに潜ることを多くしたおかげで、金ヅル、利用目的で近寄って来る連中も、最近、やっと諦めたらしく、接触して来なくなった。本当にやっと。


 エアの舐められ易い容姿と、ドロップ率がいいことがバレたせいで、中々諦めなかったのだ!


 せっせとダンジョンに潜っていたのは、稼ぐためもあるが、リハビリと鍛錬のためもあったので、レベルもステータスも格段に上がった。

 おかげで、追い払えるようになった、というのもあった。

 別に威圧したワケではない。

 果物を潰してジュースを作る所を見せてやっただけだ。



 「そろそろ40階以降の下層の依頼も」とギルド職員にもすすめられるようになったが、エアとしてはしっかりと稼いで装備もアイテムもより充実させたい。

 それに、怪我治療と入院で吹っ飛んだ貯金はとうに取り戻したが、万が一の備えはもっと増やしておきたい。

 二つ下の妹の様子をそろそろ見に行きたいので、その旅費も貯めたい。

 妹は二年前に年上の商人と結婚している。ここ王都エレナーダからだと、妹が住むスールヤの街まで、馬で一ヶ月ちょっとぐらいはかかるだろう。


 移動ついでに護衛依頼を受けて、というのが定番だが、そう都合よく護衛依頼も募集していない。地方の街で稼ぐより、ダンジョンの方が遥かに稼げる。大きな街程、色んな依頼がある。

 だからこそ、エアたちも王都まで出て来たワケだ。


 頑張って稼ごう。



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新作☆「番外編47 難癖から始まる女王戴冠」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093077128176703

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