005 予想外に稼げるようになった!

 冒険者ギルドの口座から金を引き出すついでに、エアが情報を集めた所、『奇跡』は病院、治療院以外でもあちこちで起こっていて、重傷重体患者優先で治しているらしい。


 やはり、全員が全員治るワケでもなく、間に合わず亡くなった人もいるそうだ。

 すると、やはり、『奇跡』ではなく、人為的なものの確率が高い。



「お前は残念だったな。タイミングの問題かも」


「元気出せよ」


「滅多に起きないから『奇跡』って言うんだしな。運はもうしょうがないって」


「死ななかっただけでも運がいいんだし!」


 助けてくれた冒険者たちに、せめてものお礼を渡した時も色々と慰められたが、追い打ちを駆けられているような気がした。

 ……いや、体調がまだあまりよくないので暗い方に考え過ぎた。

 うん。生きていればこそ、だ。



 ******



 エアが退院してから二日。

 やっと所属パーティーの四人を捕まえた。

 ギルド職員に伝言しておいたので、エアが大怪我して入院したことは確実に知っているハズなのに、病院にすら来ず、中々捕まらなかったのだ。どうやら、避けられていたらしい。


 やはり、エアはパーティから脱退になった。

 エアも脱退を考えていた所なのでそれはいい。

 だが、皆で出し合ってるパーティ資金の分配を、有耶無耶にしようとしたことは許せない!少なくない金額なのだ!


 リーダーで長剣使いのゲラーチ、口が上手い斥候のバニオが言いくるめようとして来たので、エアは本気で殺気をぶつけた。

 身体のバランスがまだ取れなくても、この至近距離で首を斬るぐらいは無造作に出来る。まぁ、首をねるまでは出来ないだろうし、転ぶだろうが、斬った後なら構わない。


 ゲラーチとバニオは真っ青だった。

 これは変なスキルか魔法があるという『黒』確定だろう。

 自分の実力に自信があるのなら、立ち向かって来るハズだ。



 冒険者ギルド併設の食堂内のことだったので、すぐに他の冒険者たちが仲裁に入った。

 どちらに非があるか明白だったので、パーティ資金の分配は、ギルド職員が立ち会ってすぐに適正金額が分配される。

 パーティ資金も冒険者ギルドの口座に入っていることもあり、やり取りはスムーズだった。


「あ、それと少ないけど、これ。何かの足しにでもして」


 そして、エアは馴染みのギルド職員から見舞金をもらった。人の優しさが温かい。

 なんという落差。

 そう思ったのはエアだけではなく、周囲から冷たい視線が集まったゲラーチたち四人は、そそくさとギルドを出て行く。

 たった半年程のつき合いだったが、エアは戦力としてしか思われていなかったのだろう。


 ……ああ、それと、搾取要員か。口の上手いバニオに散々言いくるめられていたことぐらい、エアはとっくに気付いていた。

 しかし、文句が言えなかったのは、弱い立場だという自覚があったからだ。

 危険は少ない安定優先の他のパーティに、エアが入るのは難しい。

 顔を隠したままだと胡散臭うさんくさい小汚いガキ扱いだろうし、顔をさらすと余計なトラブルになる。

 見た目より力はあり、攻撃力は高いのだが、見た目であなどられることも多かった。

 かといって、ソロでやって行く自信もなかった。


 身体もまだまだ出来ていないが、左手を失ってる冒険者をパーティに入れる所なんてあるワケがない。

 エアはソロで冒険者を続けることにした。



 ******



 左手のないエアは、片手剣だけではバランスが中々取れなかったので、左前腕に小型の盾を装着することにした。

 左手はないが、これなら攻撃をそらすことが出来るし、バランス的にもこの盾の重さはちょうどよかった。


 エレナーダダンジョンの浅層ならソロでも大丈夫、どころか、前よりも身体が軽くドロップ率もよくなった。

 パーティで潜るよりソロの方がドロップ率も上がるらしい。

 …いや、変なスキルや魔法の影響から脱したのもあるのだろう。


 エアは逃げられないよう敢えてギルドで騒いだので、ゲラーチたちの悪行は広まっており、白眼視に耐えられなかったのか、ゲラーチたち四人はエレナーダから出て行っていた。

 またどこかで会うことがあれば、変なスキルや魔法を問い詰め、場合によっては叩きのめそう。

 身体がよく動かなかったからこそ、左手を失った、という理由もあるのだから。



 退院してから約二週間、リハビリがてらダンジョンに潜り続けていると、エアは予想外に稼げるようになった。

 ソロというのは安全性は下がるが、他のメンバーを気にしなくてもいいのは気楽だった。

 ドロップ率だけじゃなく、レベルの上がり具合もよくなり、盾スキルも色々覚えて、そうなると中層にも楽に進めることが出来たのだ。


 これが普通なのか?と不思議に思ってギルド職員に訊いてみた所、ソロの方がレベルが上がり易いのは普通のことだったらしい。

 魔物を倒した経験値はパーティならパーティ人数で分けることになるが、ソロなら全部自分に入るから、だと。


 エアはそんな詳しいことは知らなかった。

 やはり、勉強は色々と必要なのだろう。


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