004 カップラーメンの人たち?

「なぁ、コネリーさん、どう考えても人間の仕業しわざだよな?」


 騒ぎが一通り治まると、エアは同室の商人のおじさん…コネリーに確認してみた。

 右足の腱断裂や酷い打撲だけじゃなく、肋骨も折れてるそうだが、この人の怪我も治っていない。


「そうだと思う。死にそうな人から助ける辺り、霊薬や魔力の都合かもしれん。でも、恩に着せるでもなく、誰にも知られないよう行動する理由も分からん…でもないが、何が目的なのやら」


「知られたらマズイってのはおれにも分かる。霊薬なら奪い合い、ものすごく有能な回復術師でも同じくだろうしな」


「回復術師か…あっ!ひょっとして、あの人たちかもしれん」


 コネリーは自分の思い付きで興奮したのか、少し顔が赤くなっていた。


「どの人たち?知り合い?」


「いやいや、まさか。そうじゃなくて、あちこちの違法奴隷を解放した上、当分の資金や必要な物まで持たせた団体だよ。違法だからこそ、酷い扱いで瀕死だった人も多かったと聞くし、それを治したとすると」


「でも、それ、誰がやったのかは分かってないよ?」


 そこで、口を挟んだのは向かいのベッドの足を骨折したお兄さんだった。初めて話しかけて来たので、素性は聞いてないが、多分、冒険者だろう。


「確かじゃないが、多分、あの人たちだろう、と言われてる話は知ってるか?」


 コネリーがそう言うが、知らない人の方が少ないんじゃないだろうか。エアもそれぐらいは知っている。


「カップラーメンの人たち?」


 略しすぎたせいか、病室中の患者、エアを除いた五人全員が吹き出した。


「自動販売魔道具でカップラーメンを売ってた『にゃーこや』な」


 コネリーが足りない言葉を補い、屋号を教えてくれた。

 そうそう、そんな商会の名前だった。

 名前の通り、猫の獣人や猫の妖精ケットシーがやってる商会、ではなく、魔導人形らしき二足歩行で色んな柄の猫型『にゃーこ』がたくさんいる商会で、そこのマークが『にゃーこ』だった。

 三毛猫にゃーこの絵が真ん中で、その周囲をぐるっと円状にロゴが入っている。


 にゃーこがあまりに可愛く、誘拐されそうになったこともあるため、もうあまり街中には連れて来ないらしい。

 代表の店長は人間だそうだが、他の店員と混じっているのか、目撃者の証言がバラバラのため、容姿は曖昧である。


「自動販売魔道具で小冊子も売ってるよな」


「かき氷やカップラーメンのインパクトには及ばないけど、あれもすごいよな。絵付きで分り易いから読み書き計算出来る人が一気に増えたし」


「おれも買った。でも、違法奴隷の解放はちょっと方向性?が違う感じがするけど」


 エアが感じたことだが。


「違法奴隷商人やその他悪人たちに自首させることまで出来るのは、他に誰が出来る?採算度外視で、という消去法だな。違法奴隷だと分かったということは、かなり精度の高い鑑定持ちだろうし、患者の容態も分かるんじゃないのか?」


 コネリーの説得力にあふれた言葉に皆頷く。


「…あ、なるほどな…」


「でも、霊薬を持ってるとかすごい回復術師とかいう話は聞いたことないぞ?」


「にゃーこやの店長の仲間でもいいだろ。サファリス国の大雨災害の時、十数人の仲間と一緒に救援に行ったそうだしな」


「…え?あれ?SSランク冒険者の話じゃなくて?」


「そのSSランク冒険者、にゃーこやの店長と友達だって話だぞ。神獣様を通じての友達とか」


「……それって本当の話?神獣様じゃなく、誰かの従魔だったってだけの話じゃ…」


「神獣様自体、伝説だしな…」


「救援も復興もにゃーこや店長とSSランク冒険者とその仲間たちでやってたのは確からしい。たった数十分で温泉掘って脱衣所だの洗い場だのの施設も作り、百部屋以上ある仮設住宅を建てたのは、大げさな話だろうけど」


「どこから調達したのか分からない大量の物資を無料提供した話の方が嘘っぽい」


「それ、嘘とは思えないよ。カップラーメンの店舗で販売していた時は?まとめ買いする人ばっかでも大丈夫な程、ものすごく大量にあったし」


 その時にエアもまとめ買いしたが、美味し過ぎてアッという間になくなっていた。


「その食材も容器の材料もどこから?って話だよな。人里離れた所に大規模な農場とかあったり?」


「かもなぁ。ダンジョン内に自動販売魔道具を設置してるぐらいなんだから、そこらにいる魔物なんて余裕じゃないかと」


「え、何それ?ダンジョン内?」


「下層に設置してるぞ。カップラーメンの自動販売魔道具。出入り口側にわざわざ看板が立ててあるし」


「…知らなかった」


 エアは少し前までそこそこ長い護衛依頼を受けていたので、最近、ダンジョンには行ってなかった。


「何で下層?ダンジョンに呑み込まれないのか?」


「セーフティスペース、ルームなら平気らしい。結構前にダンジョンで実験してたって聞いた。ついでに丼屋をやってたって。数日限定でにゃーこも一緒に」


「にゃーこ?」


 骨折のお兄さんが聞き返した。その名前に聞き覚えがなかったらしい。


「猫型の種族、なのかな?魔導人形?まぁ、小柄な人間ぐらいの大きさで二足歩行して、丼によそうぐらいは普通に出来て可愛いかったそうで」


 コネリーがそう説明する。


「あ、にゃーこやのマークがにゃーこ?」


「そう、そのにゃーこだと思う。色んな柄のにゃーこがいたそうで」


「それは是非、見たかったなぁ」


「で、そのにゃーこやの人が奇跡の回復をさせた人なら、自動販売魔道具の補充に来た時に治療を頼めばいいって話?」


 話がそれて来た所で、コネリーの隣のベッドの腰痛の人が軌道修正し、そうまとめた。


「それだ!いつ来るか分からんから、張り紙するのもありかも」


「いや、それ、迷惑だろ」


 エアは思わずツッコミを入れる。


「かも?であって、確実じゃない話だしな。まぁ、いい薬は持ってるかもしれないけど」


 他の患者も「張り紙は迷惑」だと賛同する。


「そもそも、この病院の患者だけに奇跡の回復をしているのかどうかも分からないワケだし。ほら、違法奴隷の時はかなりの国でほとんど一斉だったそうだし」


「あー他の所でもあるのかも?」


「待っていれば治してくれるかもしれないしな。どうせ、まだ入院してないとだし」


「そうだよな」


 しかし、翌日もそれから数日経っても、新たな『奇跡』は起きなかった。


 エアはめまいを起こさず歩けるようになったので早めに退院した。


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