第31話

「大量の悪魔が現れる時とは、、です」

「……!」

「大顎、掌、大翼……彼らが打倒された時、ウロサマも怪我をしています」

「暴論だ。戦闘で怪我を負うのは不思議な事じゃない」

「いいえ。他に誰もしていないのです。学校での大顎の被害者はウロサマだけ。さっき襲われた時だって、怪我、しましたか?」

「……悪魔を倒した時って話じゃないのにゃ?」

「それは先程の戦闘で覆りました。他の悪魔が出現した時、大顎は倒されていない。何か体に変化があったのは、大顎とウロサマのみです」

「じゃあ、大顎の怪我に……」

「それで来るなら、もっと早く来ていたでしょう……安心してください。私達は離れて生活するだけです。見張りは付けましょう」


 正直、この論理に一番納得しているのは、私だ。


 悪魔たちは、ずっと私を狙っていた。

 原因は不明だけど、デルコマイとか思い当たる節は多い。


 なら……。


「いや……なら出てくよ」

「え?」

「受けられるメリットとデメリットが釣り合っていない。なら好きにさせてくれ」

「それは……」

「君達に迷惑がかかるわけじゃないし、いいだろう? むしろ必要な食料が手に入ってwinwinの関係じゃないか」

「駄目だ。危険すぎる」


 否定してきたのはイササ先輩。

 彼はまっすぐにこちらを見つめて、語り掛けてくる。


「ウロを置いていくのにも反対だ。もし襲撃されても俺が何とかする」

「うん! 独りぼっちなんて悲しいよ!」


 ヒルメが声を張り上げた。

 

「そういう問題ではありません。危険な存在は遠ざけ、且つ観察が一番合理的です」

「そういう話じゃない。道徳的な話だ」

「いや、出てくって言ってるんだからそれでいいじゃないか」


 ずっと思っていたが、なんで私の行動を決められないといけないんだ。


「私にさせたい事があるなら、なんにせよメリットを提示するべきでしょう。カイのやり方のようにね」

「……」


 カイはずっと黙っている。


「メリットって……仲間と一緒に居られるだろ!」

「いやぁ、なんか、ノリが合わないんですよ。前から不満はありました」

「安全と、安定した食料はメリットになりませんか?」

「ならないね……黒貌はもっと、個人にも目を向けるたらいいさ」

「……力づくでも止めるぞ」

「なんでです? 私の勝手じゃないですか」

「孤立するのは、悲しい事だ! 疑われた怒りとかで、今は”別にいい”と思っているかもしれないが、後でお前は公開してしまう!」

「人の幸福を勝手に決めてはいけませんよ。その来歴を知らないんだから」


 私は彼らに背を向けて歩き始める。

 

 さあ、どこへ行こうか。

 気になるのはやはり東、悪魔が出現する方角だ。

 いや、ここからでも見える山も気になるな。頂点に島が刺さっているような、そんな不思議な形をしているし。


 ワクワクが止まらない。

 これから誰にも縛られず自由に動けるって思うと、感極まって破顔してしまう。


 と、その冒険心に陰が差した。

 前に現れたのは、イササだ。


 彼は私に右手を伸ばし、言う。


「戻ろう。お前の問題は何とかする」


 ……めんどうだ。

 

「……今、一位の座を奪ってもいいんですよ」

「存分にやれ。怒りを受け止めてやる」

「私も協力する!」

「ありがとな、ヒルメ」


 ふむ。


 身長が高い。筋肉質。美形。好かれている。リーダー気質。成功者。全体的に上から目線。自分の正義が絶対。


 つまらないな、この人。


「喧嘩をする気はありませんよ。力で納得させても仕方ないので」

「ああ、いいぜ」

「そうですか。”龍の怒りオーバーフロー”」

 

 私がそう言うと、イササは倒れ伏した。


「――え?」

「1位と言ってもこの程度。やっぱこっちの方があってるなぁ」


 彼の後頭部を見て呟く。いつの間にか、横に居た女も消えている。

 

「ま、待ってください! 今何をっ!」


 また止めてきたのは黒貌。

 彼女に流していたテレパシーは、出て行く事を決めた時にはもう切ってあった。


「テレパシーの応用だよ。いや、基本かな?」

「どういう……!」

「まぁまぁ、どうだっていいじゃないか。今臨採関わらないんだし。じゃあね、帰れる事を祈っておくよ」


 最後に、チラリとカイをみた。

 正直に言えば、彼女だけは惜しい。

 ずっと居心地の悪かったグループで、カイとはちゃんと友達になれた気がする。


 しかし彼女は、ずっと俯ている。

 何か思うところがあるんだろうか。

 

 テレパシーを使おうか迷ったが、私が友達と認識している人に、あまり無礼なことはしたくない。

 大人しく、想像するだけにした。


 私は歩き始める。

 好奇心の赴くまま、自由に。

 一人だと、面倒な点前もなくて楽だ。


 危険だから隠れよう、とか。このままだと死ぬから移動しよう、とか。

 そんなものはなくていい。


 気になるから、洞窟に入る。

 気になるから、平原を横断する。

 気になるから、動物と戦闘する。


 それだけだ。

 好奇心だけでいい。

 結果として、新しい物を発見できて。

 癖になって辞められなくなる。


 他の何を犠牲にしてでも知りたい。

 足を斬られてでも、首を折られてでも。

 ああ、ワクワクする。

 これからはそんな生活が送れるんだ。


 とりあえず目的地を決める為、ゼブルくんの視界を借りた。

 ……そういえば、蠅にも寿命がある。

 確か30日くらいだったような。

 なら、地球に帰らないダメだ。

 私も偵察機の1つや2つは欲しい。

 でも1か月ごとに地球へ帰るのはちょっと面倒。

 雌雄を地獄に解き放ったら、勝手に増えたりしてくれないだろうか。

 ま、とりあえずの目的地は決まったな。


 もう1回、学校へ戻ろう。

 地球へ帰って、蠅の補充だな。


 でも同じ道を通るのはなんとなくいやなので、ピラミッドの方向へまず向かう。

 こっちのルート、ずっと逃げていたのであまり観察ができていない。

 道を覚えているわけではないけど、もう学校の位置は特定してあるから大体わかるだろう。


 空を見ると、もう日が沈みつつあった。

 月は浮かんでいないが、一番星がもう見える。


「――ウロ!」


 と、声が聞こえた。

 

 振り返って見ると、クルア先輩が走ってきていた。

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