第30話

 殴打に次ぐ殴打。

 無理して噛みつこうとしても、イササは触手に守られる。


 このまま、樹海の外に押し出せば圧勝だ。

 太陽の光を直接吸収し、その力で大顎の悪魔を屠ってしまうだろう。


 ゼブルくんの視界に意識を移す。

 今私が警戒すべきは、他の悪魔。

 周囲にはいない。

 しかし、遠く。さらに言えば東の方角はどうだ?

 高度を上げ、空から索敵する。


 悪魔は――いた。


「大量の悪魔出現! また、東からです!」

「なっ!」


 まただ。また、この展開。

 だが違う点がある。

 

 悪魔はまだ、倒れていない。


 つまり、ここまでの何かに反応して――


「距離はっ!?」

「3㎞程です!」


 今は今の事に集中しないと。


「どうする!? 退却か!?」

「もう樹海を出ます! すぐにイサササマの力で焼却、その後逃げましょう!」

「了解!」


 黒貌の指示を受ける。

 私は距離の把握に注視。

 出来る事はもはやない。


 イササのラッシュはどんどん早く、速くなる。

 

 太陽光に、近づいているのだ。

 もはや一片の隙も無い。

 ラッシュ、ラッシュ――


 そして、森を抜けた。


 「来たァ! ”アマテラス”――八咫鏡!」


 晴天直下、光は彼の元に収束する。

 

 それは純粋なエネルギー。

 何に代わる事もなく、ただそれだけで成立する完全の形。

 

 光は弧を描き、鏡を生成した。

 やがて光量が高まり、熱を発生させる。

 木を燃やし地を燃やし、悪魔を燃やす。

 大顎は逃げ出した。だが遅かった。


 いや、違うな。

 光が、速すぎたんだ。

 

 瞬間、光の爆発。

 目を塞いでもなお貫通する物。

 直接喰らっては、網膜が耐えられないだろう。


 残像が消えて、そこに現れた物はただ一つだけ。

 イササだ。

 よく見ると、焦げた跡が彼の前に残っている。


「――終わったぜ」

「……おぉ」


 大顎の悪魔が、消滅した。

 再生はしないだろう。もはや元手が存在していない。


「イサササマ、すごいです! 助かりました!」

「いいって事よ。当然の事を当然のままやっただけだからな」


 本当に、助かった。

 私が大顎と戦闘をしていたら、ここまで早く終わっていない。

 今は他の悪魔が迫っている。

 なるべく早く逃げた方がいい。


「にゃー、アタシの事忘れてにゃいかなー?」

「あっ燈篭さん」

「イササ君に言われてここで待ってたら、まさかこんにゃの連れてくるにゃんて。言ってくれればアタシも加勢したのににゃ」

「危険っすよ。燈篭さんは燈篭さんの役目を全うしてください」

「確かに偵察員として連れてこられたけどにゃー」

「ごめんなさいなんですけど、今は悠長に雑談できません! ウロサマ、悪魔との距離は?」


 言われて、ゼブルくんで確認する。


「2㎞強ですね。この速度だともうついてしまう」

「って事です! 急いで帰りましょう!」

「なら全員俺に掴まれ! ぶっ飛ぶぜ」


 イササはかがんだ。

 おんぶをするときのポーズだ。


「……」


 いや、文句は言えない。

 救ってもらった恩もあるし、しばらく悪口を言えないな。


 気が付いたら、他のみんなはもう乗っていた。

 急がないと。

 

 積まれた布団のようになっているイササをよじ登る。

 一応、まだ残っている触手で全員巻き付けた。


「ありがとな! じゃあ行くぜ!」

「樹林出た所で止まってぁああぁぁー」


 黒貌が何かを言った瞬間、イササは出発した。

 タイミングが悪かったんだろう。

 テレパシーで見ても舌を噛んだ様子は無いし、放っておいていい。

 イササにもちゃんと伝わったようだし。


 それよりも、この景色。

 行きにあれだけ苦労した樹林、その全てを砕きながら進んでいく。

 最初からこれで良かったでは? と思わなくもないが、まあ色々あるのだろう。


 速度は、化け物形態の私を超えている。

 それどころかまったく敵わないな。

 髪が後ろになびく。というか、抜けてしまいそうだ。


 そんな取り留めのない事を考えながら、樹林を抜けた。


「ここだな! よいしょっと!」



 高い速度からの急加速。

 頭をシェイクされる感覚があった。

 しかも4人分。


 シダ植物が生えた地面に、触手で皆を下ろす。

 最後の黒貌を下ろしてすぐに、触手は消えた。

 

「おぇ……あ、ありがとうございますイサササマ」

「ありがとにゃー」

「……」


 燈篭さんはもう回復していて、カイはまだまだグロッキーだ。


「悪魔の様子はどうですか?」

「もう着いたね。学校から、大顎と遭遇したところまで分散している」

「ふむふむなるほど……」


 黒貌は口に手を当て、考え事をし始めた。


「で、なんで止まったんだ? 用事か?」

「ああはい、ウロサマを置いていこうかと」

「……その手の冗談は嫌いだぜ」

「冗談じゃないので嫌いにならないで下さい。ちゃんとした理由もありますので」

「……」


 ふむ。

 気づいてしまったのか?


「結論から言います。ウロサマは裏切り者ではありません。しかし危険です」

「……続けて?」

「大顎に右手を奪われた事、またその慌てようから、少なくとも悪魔と繋がりはないでしょう」

「なら危なくない」

「まあ聞いてください、カイサマ。情報を整理しましょう」

「……うん」

「大量の悪魔が現れた時。その共通点がわかりますか?」

「強い悪魔を、倒した時」

「確かにその通りです。しかしもう1つあります。それは、、です」

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