第13話

 浮いているような沈んでいるような、そんな感覚があった。

 目を開けてみると、視界いっぱいの灰色。

 さざ波の音が聞こえて、なんだか懐かしい感じ。


 けど、遥か上から声がする。

 私を呼び出す声がする。


 憎悪とか恐怖とか、いろんな感情を混ぜた声。


 気になった。

 気になったから、行くことにした。


 泳ぐように足を動かし浮上する。

 

 軽い、軽い。

 

 誰かに、さっきまで掴まれていたみたい。


 上に行っても、あまり景色が変わらない。

 或るものから離れている、と言う感覚をだけを頼りにそこへ向かう。

 

 他には何も考えない。

 邪魔だから。


「遅い、出迎え、だ」


 そこに居たのは巨大なたこ

 此処の灰色とは違う、くすんだ緑色をしている。

 身が5つぐらいあって、全部黄色に光っていた。


「だれキミ?」


 なぜかフランクに接してしまう。

 どうみても、私の敵う相手ではないのに。


 また気になる事が増えた。

 意識が流れそうになったけど、頑張って引き戻す。

 このたこは、今だけな気がするから。


 よく見れば、この蛸には鱗のようなものがある。

 地球の生物と言うより、地獄の悪魔に近いような。


「記憶、がないか。まぁいい。初め、に謝罪、を。少なく、とも下の身分、ではないだろう」

「はぁ……」


 何のことだかよくわからない。


 だから、テレパシーで深堀しようとした。


「っ!」


 瞬間、鋭い痛み。

 思わず中断してしまう。


「……? まぁいい。だが、貴様、には責任、がある。」

「……責任?」

「私、を殺した、責任だ」


 もっと分かりやすく言って欲しい。

 ただでさえ意味の分からない状況なんだから、もっと優しく接されるべきだ、私は。


「償いが必要だ」

「しかし力が足りない」

「なので与えよう」

「我らは同格」

「よって、其れ以って契約とする」


「我が肉体を、甦らせよ」


 そう言って、銀の海の中に彼は沈んでいく。


 一息で、勝手に話を終わらせてしまった。

 文句の1つでも言いに行こうか。

 私が同意していない以上、間違いなく契約ではないのだし。


 しかしそれは敵わない。

 次第に夢から覚めていく。

 遥か昔の懐かしさから離れて、今へ――



 起きた。

 意外だ。さっきの夢を覚えている。

 こういうのは忘れる物だと思っていた。


 とりあえず、今の状況を確認するため目を開け――?

 開けられない。

 というか、目が無い?

 触って確認しようとした所で気が付く。

 手の場所がわからない。

 触覚がないのだ。

 いやそもそも、音が無い。臭いが無い。

 

 とにかく、今を確認する術がない。

 思い出すと、どう考えても死ぬ所で私は寝た。

 植物状態にでもなってしまったか?


 まぁそれでも、私は大丈夫だ。この体が使えなくったところで、他の視界を見ればいいだけ。

 というわけで周囲を確認した所、4つほど反応があった。

 一番場所が近い人間を使おう。


 さて、この状況は何だろうな。


 目に映ったのは、悪魔と化け物。

 悪魔は怪訝そうに、折れた木の前を見つめていて。

 そこに化け物が立っていた。


 基本は人型。しかしその頭は黒く、逆円錐の形になっている。

 胴体は、グレーというだけの普通の人間に近いが、両腕が生えていない。その代わりに、背中から6本の触手が生えていて、それぞれに膜が張ってあった。


 そいつには目が無い。手も、無いな。

 

 一応、一応だ。確認の為に、自分の右腕を動かした。


 やはり、と言うべきか。まさか、と言うべきか。

 化け物の背中に着いた触手、その右側がすべて動いた。


 あの化け物、私かよ。


(みんな、聞こえますか?)

(ウロちゃん!?)


 チヒロの声だ。


(はいウロちゃんです。目が覚めたら物凄いことになってました。心当たりはありますか?)

(こっちのセリフだけど!?)

 

 意外といい突っ込みをする。

 

 ……駄目だ、なんだかテンションがハイになっている。

 今はどう考えても緊急事態。そんな場合ではない。


(失礼しました。私が悪魔に襲われてから、どれくらい時間が経ちました?)

(経ってない! キミが潰されて、直ぐにそのイカみたいな化け物が現れた!)


 イカ! このボディがイカだと!

 ……言い当て妙な気がする。


 いや、真面目にやらないと。

 私は立ち上がって、大翼の悪魔に向かい構えた。

 

 動かして気が付く。この体、元の体より性能が良い。

 例えるなら、ファミコンのコントローラーから次世代機のコントローラまで一気にレベルアップした感じだ。


(さて、悪魔を倒す……のは無理だとしても、足止めをします。逃げてください)

(まさか、戦う気?)

(誰かがやらないといけない。けど今やれるのは私だけ。仕方ないですよね)


 言うや否や、私は悪魔に飛び掛かった。

 やはり動きやすい。反応もそうだけど、身体能力がひととかけ離れている。


 あと今気が付いたけど、この体足が4本生えている!

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