第5話

 轟音と揺れ。

 それを感知して飛び上がった。


「ウソ!?」


 チモ先輩の悲鳴。


「今度は何!?」

「テレパシーで調べます!」


 学校の地形を思い出す。

 洞窟の一番奥から、ゲート、寮、図書館、体育館。

 とりあえず紹介されたのはこれだけだ。


 近くの、誰かの視界を盗み見る。

 キョロキョロしていて落ち着きがない。さっきの音に反応しているようだが、異変は見当たらない。

 

 少し遠くの人間。

 図書館の中に居る。多数で固まって行動している。異変は見当たらない。

 

 一番遠くにある体育館。

 ここには異常が――多すぎる!


「さっきの体育館に悪魔が――十数体!」

「じ、じゅう!? 駄目だ逃げよう!」

「どこへ!?」

「地球! 通路確認して!」


 小さいポーチだけを持ち、チモ先輩はドアを開けた。

 

 私もかばんを取ってそちらに向かいつつテレパシーを続ける。

 地球とのゲート……寮から少し移動した場所の屋上だ。

 

 テレパシーで人の数を確認する。

 残念ながら、ゲートに近づく連れ人が少なくなっていた。

 

 単純に、行き来する人間が少ないだけか、それとも……。


 情報を探す。幸いにも、生徒の数は多い。

 すぐにゲートを見る視界を見つけられた。

 嫌な予感が当たった。


「駄目です! 抑えられてます!」

「抑えられてる!? ゲートが!?」

「はい、大翼の悪魔に!」


 廊下を走って、寮の裏口に出る。

 

(ウロ! どこにいる?)

(! 寮の裏口に向かってる。カイは?)

(同じ場所!)


「いた!」


 カイ、クルア先輩と合流する。

 ひとまずこれで、私の知り合いは全員揃った。


 全員が息を切らして会話する。


「どうするチモ」

「……ゲート、抑えられてるみたい。ひとまずは先生を見つけよう」

「了解」

「私、テレパシーで探します」


 入学初日から凄い目にあっている。特別手当が出るに違いない。


 意識を切り替えて、人探しに集中。

 体育館を確認すると、誰もいなくなっていた。既にどこかへ逃げたようだ。

 なら、意識が集まっている場所を探せばいい。

 普通、避難するといえば体育館だ。しかしそこは真っ先に潰されている。

 ではどこへ?


 ――見つけた。図書館だ。そこに先生もいる。


「図書館です! 先生も、他の生徒も行ってるみたい!」

「ウロちゃんお手柄ー!」

「もちろん!」


 全員で走り始める。

 急ぎつつ、しかし慎重に。

 寮の壁を沿って音を殺す。


 私は片目を閉じて、周りの情報を得続ける。

 人の意識が少しずつ減っていくのを感じた。

 近くでも、また消える。

 これが表すのは、近くで人が――いや。

 

「近くに悪魔がいます!」

「!」


 全員停止して、構えた。


 と、轟音が響く。

 金属の壁を破壊して、瓦礫をまとった何かが現れる。

 悪魔だ。しかし煙が舞って、その姿を捉えられない。

 警戒する。

 カイは爪をだし、クルア先輩は青白く光る剣を出した。


 砂埃を晴らして、その姿が見える。


「こいつ――さっきの!」

「なんでっ!?」

 

 そこに居たのは、巨頭の悪魔。


 冷静に考える。勝てるか? 逃げられるか?

 無理だ。

 既にダメージを受けていたから倒せた。

 反応できない速さで現れた。


 奴はこちらを凝視する。

 目標を見つけたんだろう。口を開けた。

 そのまま勢いをつけて向かってきて――


 私たちのそばから、が出現した。


「――は?」


 それは勢いをつけて、向こうの悪魔に突っ込んだ。


「お姉さん方、安心して! ボクが助けに来た!」


 後ろから現れたのは、華奢な体で白髪の人物。

 それは自信満々に登場し、右手に持った鏡を構えた。


 が、打ち破られる。

 巨頭の悪魔の噛みつきで、彼女の能力で出現したらしい悪魔は霞になって消えた。


「うっそぉ! だ、誰か水出せる!?」


 カイが反応して、水球を浮かせた。

 

 すごいな、水も出せたのか!


「ありがとう、小さい子! 横に伸ばして悪魔の方へ!」


 視線を水球に移す。

 水面は、悪魔と私たちを歪めて映し出している。

 映し出して――立体になった。


 その形が巨頭の悪魔を押しつぶす。


「やったぁ無力化成功!」


 なんだこの能力、見たことない!

 好奇心故か、珍しい能力を見ると興奮してしまう。

 思わず深堀しようとして、生成された形に目を移した。


 が、ひびが入っていた。


「うわぉパワーつよ! 壊れる!」

「と、とりあえず逃げよう!」


 チモ先輩の号令にうなずき、また図書館へ走り始める。


「水球あれば足止めは出来るよ!」


 彼女の声にこたえて、カイは水球を出しながら逃げた。



 先にテレパシーで助けを図書館に呼ぶ。

 目標はさっきの先生とローグさん。

 軍人候補生の教師と、警備隊隊長だ。

 助けないとクビだろう。


 しかし、どこにいるのかがわからない。

 非難してきた人間がぎゅうぎゅう詰めだ。


「あいつヤバい! どんどん距離詰められてるよ!」

「私たちで足止めするからチモ! 先に行って助け呼んで!」

「……っ! わかった!」


 チモ先輩が走っていく。

 不甲斐ない。私の力不足のせいで責任を負わせてしまった。


「テレパシー、視界の援護くらいならできます!」

「おっけっ! ”ツクヨミ”!」


 直後、クルア先輩が淡く発光して――轟音。


「なにっ、が――」


 図書館だ。

 轟音はそこから響いた。

 思わず振り返る。

 

 そこにあったのは、瓦礫。

 図書館は、既になかった。

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