(3)指輪

 初めてのセックスは「正しい愛情」のないもので、

世間的に見れば最低最悪。


けど、そんな行為が私達をいびつに真っ直ぐに成長させた。





 言葉と時間を掛けた愛情を信用できないのは、

お互い様だったのかもしれない。


形のないものを信用できない、

「形を残そうとしてくれる愛情」を無我夢中むがむちゅうに欲していた。





 親から愛されずに形成されてしまった人格、

私は遼介りょうすけにだけ理解してもらえれば何でも良かった。


それは遼介りょうすけもそうだったんでしょ?





「痛い…?」


「痛いけど、違うの、」


澄香すみか、スミ…」





 遼介りょうすけのペニスが私の肉を引き裂いたとき、

飢えていた愛情を錯覚さっかくして泣いた。


荒い息と共に吐かれる自分の名前、

私の耳には愛おしげに届いていた。





「っすけ、リョウ、」





 私を見下ろしていた、出会った日と同じ泣き顔。


繋がったまま手を握り合い、

糸が切れたように二人して泣いた。





 なんの理由もなく愛されたいって。


「あなただけしかいない」と苦しんでほしいって。


今でもずっと思ってる。


何度体を重ねても、何年の月日が経っても、

遼介りょうすけが居なくなっても。





「あぁッ あッ…」





 過剰かじょうあえいで髪を乱したとき、

握られた右手に食い込む指輪が映った。


シーツにおぼれる私達を監視する、

埋め込まれた小さなダイヤ。





「スミッ出る…」





 ああ、変わらないのは私だけなのかもしれない。


涙腺が緩んだ瞬間にリョウは吐精とせいした。


生温なまあたたかくて気持ち悪い汁気、

ペニスを抜かれると尻に向かってこぼれていく。


落ちたところからシーツに染みる精液は、私をとにかく惨めにさせた。





「スミ、大丈夫?」


「…ティッシュ頂戴ちょうだい


「…うん」





 体を隣にずらし、

細い腕を反対側のサイドテーブルに伸ばすリョウ。


ティッシュを5枚ほど取ると私に渡してくれた。


無言で受け取り、色気もなく股を拭き取る。


下腹部しきゅうに力を入れると更に出てきた。





 中出し自体は何年振りだろう、

リョウ以外とは生でした記憶がないや。





「ごめん、タバコ吸っていい?」


「全然いいよ」





 リョウはバスローブを羽織り、

机に置いていたタバコを持ってベランダを開ける。


久々の熱気は全て外に流れ、

冬の冷たい空気が舞い込んできた。


寒いけど、鼻に抜ける外気がいきが心地良い。





 私は私で上布団にくるまり、

サイドテーブルに置いたかばんからポーチとペットボトルを取り出す。


ポーチに入れていた小さな錠剤じょうざいを開封し、

舌に置いてペットボトルの水で流し込む。





「それ、アフピル?」


「うん」


「高いでしょ、払おうか」


「いやいいよ、常備してるだけだし」





 タバコの匂いが外気がいきと共に入ってくる。


バスローブ姿でタバコを咥えるリョウ、

成人してからは結婚式を合わせて2回しか会ってないから変な感じ。





 そうは思いつつ、アフターピルを常備してる自分も客観的に見たら「そう」なんだろう。


二人して大人になってしまったことを痛感した。





「シャワー浴びてきなよ」


「うん、ありがとう」





 よそよそしい会話、

あの生温なまぬるい雰囲気はもうない。


昔からピロートークなんて無駄なこと、

したことなかったな。





 ベッドから出て立ち上がると鳥肌が立つ。


汗まみれで外気に当たるとやはり寒い。


そそくさと脱ぎ散らかしたスーツをハンガーに掛ける。





 シャワー室に入る前、私はリョウに声をかけた。





「まだ、似た者同士で安心したよ」


「…当たり前じゃん、幼馴染なんだから」





 左手でタバコを持つせいで、嫌に指輪が目立つ。


ダイヤの光から目を逸らすように、私はシャワー室の扉を閉めた。

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