08.二本目の刀

 墨田ドスコイズ事務所、社長室――


「というわけで、今のところアンダー二層の手掛りは見つかってません」


「知ってるわ、観てたし」


 佐正の報告を揺はつまらなそうに聞いている。


「しかしですね。社長、入手したんですよ。こちらの"刀"を……!」


 佐正はこれみよがしに揺に刀を見せつける。


「知ってるわ、観てたし」


 しかし、揺は先程と同じ反応だ。


 そう、昨日、陽炎蜥蜴の尻尾から出たトレジャーボックスからはまさかの"刀"が発見されたのである。


「社長、片手落ちではありますが、これで手を打ってくれませんか。正直、もう地下籠りは発狂しそうです」


 佐正は揺にぐいぐいと近づいて、囁くように言う。


「……」


 揺は少々、不満そうな表情を浮かべてはいる。


「ミカゲも同じか……?」


「え……えーと」


 ミカゲは自身に意見を求められると思っておらず、少し考えてしまう。


「自分はぶっちゃけまだまだいけますけど……」


(単純作業の繰り返しは慣れてるし……)


「み、ミカゲさん!」


 佐正は裏切りにあい、慌てた表情を浮かべる。


「はは……」


 ミカゲ、苦笑い。


「でも、束砂はちょっと辛いみたいなんで、少し気分転換してもいいかなと……」


「ミカゲさぁん!」


「ふむ……まぁ、二層については、そんなにすぐに見つかってたまるか……というのもある」


(ちょ……!)


「そうだな。最低限、一本の刀は手に入れたようだし、少し考えておく」


「しゃぁあああ!!」


 佐正は思いっ切りガッツポーズするのであった。


 ◇


「それじゃ、早速、入手した刀の覚醒……していきましょうかね」


「うん」


 揺への直訴を終えた二人は応接スペースに移動していた。


「にゃー」


 応接スペースに来ると、おにぎりがトコトコとやってくる。


(おにぎりも興味あるのかな?)


「さて、いきますよ」


「お願いします」


(二度目の覚醒……一回目は何が起こるのか全くわからなかったが、二回目の今回はなんとなく何が起こるかわかる……どんな刀になるのか……)


 ミカゲはちょっとわくわくしていた。


 佐正は刀に両手をかざす。刀がほんのりと光る。


「完了です、このまま鑑定しちゃいますね」


「頼みます」


「ふむふむ……どうぞ」


 佐正からメモが渡される。


 ==========

【刀:和温わおん

 Lv0

 攻撃:AA

 防御:B

 魔力:A

 魔耐:A

 敏捷:A


 効果:温度変化

 ==========


和温わおん……なんか優しそうだな。能力は温度変化か……)


「温度変化……熱くしたり冷たくしたりできるってことですかね」


「そうだな」


重熾じゅうしもそうだけど刀の特徴として攻撃が高めで防御が低めなのかな……)


 ==========

【刀:重熾じゅうし

 Lv0

 攻撃:AAA

 防御:B

 魔力:B

 魔耐:A

 敏捷:AA


 効果:重量変化

 ==========


(これを集鞘しゅうそうに納刀できるんだよな……)


 集鞘しゅうそうは一つの鞘で刀を複数収められるという宝物で、揺からの餞別せんべつとしてもらったものである。

 とはいえ、今まで刀は一本であったため、普通の鞘としてしか使ったことがなかった。


 ミカゲは恐る恐る、すでに重熾が収まっている鞘に和温を収める。


(よかった……入った……)


 ミカゲはほっとする。


(あれ……でも少し重たくなった気がするな……)


 刀を二本格納すると一本の時よりも幾分、重量を感じた。


(え……? ってか、出すときは?)


 ミカゲは焦る。今は、最後に納刀した和温の柄が見えている。


(重熾……重熾……)


 ミカゲが心の中で重熾を思い浮かべると、柄が重熾に変化した。


(ほっ……めっちゃ便利で助かった……って、あ……)


 真っ先に言うべきことを言い忘れていたことに気付く。


「束砂……有難うございます」


「いえいえ」


「にゃー」


(あれ……?)


「どうかしました?」


「いや、おにぎりもちょっと光ってるなーって」


「えっ? お、おにぎりぃいい、大丈夫かぁあ!?」


「にゃー」


 おにぎりはほんのり光っているが、ケロッとしている。


「む……ひょっとして……」


 佐正はおにぎりを凝視して、鑑定する。


「マジか……」


 佐正は目を丸くしている。


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