連作短歌「世界が終わった次の朝まで」

猫村まぬる

二十首の歌でぼんやりとえがいたなにかが終わってゆく物語

おはようは終わりへ歩む道のりの途中の途中の途中の途中




君の手も息も眼鏡も自転車も118種の元素の手品




牛乳が飲めないわたしをどこまでも抱えて歩け骨太の君




こころってよく分かんないこのほかになにをすべきか教えてくれる?




不安定なわけじゃないのよ素直なのハッピー消えたい死ねよ大好き




忘れてく伝えたいこと今朝の夢それにつけてもおやつはカール




7月の午後のはげしい雨のなか手に手を取ってゆけばよかった




夜明けまで「もす・かう! もす・かう!」泣き濡れてマイクを握っていた夏休み




手をのばしいちばんやわらかいどこかに二人きりなら触れられたのに




モナ王を買った深夜のコンビニに感じたロマンも消えたの今は



     *



メディアでは報じませんがその裏で校舎の裏で離れた手と手




想い出は痛みの向こう校庭で眼鏡の君と見た二等星




恐竜が絶滅した日も月曜で漫画喫茶で手をつないだね




遠い日の記憶の中の君だけがきなこまみれの眼鏡で笑う




イヤフォンで注ぎ込んでよ濃い歌をリチウム電池が果てる朝まで




過ぎさった時間ばかりが美しい夏の死骸が横たわる空




宗教のように眼鏡よ導いてとぼとぼ歩くあの子をずっと



   *



「レシートをお取りください」「レシートをお取りください」引きちぎる夜




この夏も秋冬春もとびこえてにおいのしないものになりたい



   *



神様も知らない場所でキスをする世界が終わった次の朝には

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連作短歌「世界が終わった次の朝まで」 猫村まぬる @nkdmnr

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