十六話 霧斗は、口座の残高を思い浮かべ。感謝を促す


 学校の文化祭のように。


 PTA・生徒会から、予算が、出るワケではない。


 予算は出す。


 だから、なにか、学生らしい、祭りをやって見せろ。

 と、言われているわけではないのだ。


 誰かに用意してもらった壇上に、乗るだけ。


 準備で苦労はするだろう、だが。

 それが、どんなにラクな、コトかと、霧斗は、思い知らされる。


 全て、コチラの世界のルールに、従うしかない。


 スポンサーもなく、手元に、ナニもなく。


 発想と知識、技術しか、この場にはない。


 ナニをするにも、お金が必要で。


 この世界の、お金がないから。


 エリスは、妹を奴隷商に、売る話になっている。


 金が、かからず、簡単に作れ。


 強度が高く、高い戦果を上げる、巨大ハリボテ。


 なんと、うさんくさく、聞こえることか。


「霧斗、くん?」


「手詰まりだ…」


 霧斗は、壊れたパーツを見つめ。

 静かに呟いた。





「う~ん」


 霧斗は、ノートに向かい、声を上げていた。


 いくら、手詰まりとは言え。


 霧斗の世界に、この問題を持って行けば、解決デキてしまうだろう。


 全くないものを、用意しようと、いうわけではない。


 組み合わせが、作り方が、素材が、問題になっているだけだ。


 今回の問題を、段階別に並べると。


 資金問題が先に立ち、材料確保、構造問題、製作法と並んでいく。


 SFか、ロボットが出てくる世界設定に、軍事が多いのは、この問題を解決するためだ。


 問題、一つ一つを、コウして、実際に目の前にすると、非常に複雑である。


 霧斗は、金銭問題で、門前払いを受けている段階だ。


 解決した先に、材料の選定問題が来る。


 構造等々、それは、手前が解決されてからだ。


 材料が用意できなければ、デザインもナニもない。


 小遣いでプラモを買い、少しづつ道具を揃えていった、記憶がよみがえり。


 どれだけ、恵まれていたのか。


 橒戸家の両親に、感謝が沸いてくる。


 そんなことを考えていても、問題は消えず。


 霧斗のノートの上で、主張し続ける。


「お金が、必要なの?」


 手が止まり、シャープペンで、つついていた横から。


 エリスは、ノートを、のぞき込んでいた。 


「木材を買うためには、必要なんだろ?」


「そうだねぇ~。林業の人たちの、お手伝いする?

 そうすれば、木材は手に入るよ」


「建材に使うヤツか?」


 木にも、種類がある。


 構造物は、例外なく。

 いくつもの種類の、木の組み合わせで、成り立っている。


 強い木材で、骨組みを作り。


 弱い素材で、表を化粧して、塗料やワックス等で仕上げる。


 コウすることで、手触りが良く、丈夫な家具ができのだ。


 こと、ゴーレム制作に、関してだけ言えば。


 丈夫で太い丸太が、大量に必要なのだ。


「薪木にするヤツだけど」


 雑草のように、邪魔な木を伐採したモノが、大概、薪になる。


 ほとんどが、若木だ、細く、柔らかい。


 化粧材として、キレイに見えない材料なら、利用価値なく、薪として消費される。


「手伝いだけで、買えるだけの金額を稼ごうとすると、ドレぐらいかかる?」


「この量でしょ? 三ヶ月じゃ、無理だよ。

 それこそ、比較的安全な戦場に行って、二ヶ月は戦うか、働かないと、無理だよ」


「さすが、戦争経済。普通の仕事との差が、スゴいな」


「命かけてるもん。戦いに行く?」


「無理だ。生きて帰れる気がしません」


 にこやかに、羽交い締めにされ。


 身動き一つ、取れなくなり。



 猫のように、椅子に座らされているのだ。


 エリスの身体能力を、ベースに考えれば、霧斗は、子供以下だろう。


「自慢じゃないが、体力・体育には、全く自信がないからな」


「今、胸を張って言うコトじゃないよ、ソレ」


 霧斗の持久走順位は、後ろから数えた方が早い。


 手を抜いて、完走しているとは言え。


 全力でやったところで、結果は、たいして変わらないだろう。


 なら、今から、戦場に行く為に、体力をつけるのか。


 それまで、いったい、どれほどの時間と、労力が必要だろう。


「ダンジョンに潜ろうとする、異世界主人公は、異常だな、マジで」


「それも、今、言うコトじゃないよ」


「生き物を殺すとか、たえられる気がしない」


「はぁ…。丸太一本の値段は、太さで変わるし。


 コレ、作ろうとしたら。


 太さ1メートルのモノを使って、ようやくだし。


 胴体とか、手とか、太さ2メートル級じゃないとダメだよ。


 建材に使うような木を、全部買うとなると、十金じゃ、きかないよ」



 鉄板・鉄・銅・銀・金。


 日本の貨幣価値に直すと、1金が一万だ。


 下がるほど、ゼロがなくなり、鉄板が一円だ。


「十万以上、するんだな…」


「倍は、見といた方がイイよ。そんな、太い木の丸太なんて、

 そうそう、売りに出ているモノじゃないから」


「二十万以上か…」


「そんな、お金があったら。6年は、ナニもしなくても、生活できちゃうね」


「二十万で、6年もプー、デキるのか…」


 サラリーマンの平均年収を、この世界に持ち込めば。


 一生、働く必要がないレベルである。 


 それだけ、買うものが少なく。


 自給自足に日常生活が、寄っているというコトだが。


 病気や、ケガにでもなったら、目も当てられない。


「まぁ、資金問題は、オレの世界の物品を持ってきて売れば、解決なんだけどな」


 事件になったエルフが、やったことを、そのまま、やれば良いのだ。


 霧斗の預金口座を、資金源として、この世界で売りさばく。


 一番、安易に、稼げる手段だろう。


「それなら、スグに、お金を集められるね」


 売り物を買うのは、霧斗のポケットマネーな、ワケだが。


「市場は、4日に一度やってるから、ソコでお店、開けば良いよ」


 布一枚を敷いて、商品を並べれば。


 店としての体裁が整うのが、異世界らしいと言えば、異世界らしいのだろう。


「商品選びは、任せるからな」


「分かった!」


 霧斗は、口座の残高を思い浮かべ。


「マジで、オレに感謝してくれ、エリス」


「いくらでも、サービスするけど?」


「エロエルフ、もっと別の形で、感謝を見せてくれ」


 じゃあ、と。


 エリスに、指さされるベット。


 冗談でも、何でもないと、エリスの目が言っていた。


「もう、そういう冗談、やめないか?」


「本気だもん」


 霧斗は、目くじらを押さえ。


「あ~。家に帰りてぇ…」


 問答の末。


 エリスは、本気で嫌がる霧斗の肩を、優しく揉むのだった。


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行き帰り異世界模型 熱帯雨林駆けるエルフゴーレム オレの学園ラブコメは 間違い続ける。 赤の章  chickenσ(チキンシグマ) @Hetare_seisakujo

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