十三話 会話してくれないと、シメ落としちゃうぞ?
「えっと、ココが、ココで…」
「なぁ? 料理中に、別のコトするの、やめないか?」
「トトトンっと」
長細い薪木が、テーブルの上で、ブツ切りに、されていく。
「なに、そのナイフの切れ味…」
「うん? 風魔法の応用で、木の枝とか、切り落とすヤツだよ」
「フ、フ~ン」
見ている側としては、気が気じゃない。
かまどベースのキッチンに置かれた、まな板の上で。
スーパーで、見たコトのない野菜が、刻まれていくが。
エリスの目線は、机の上のノートを、凝視したままだ。
何かをしている手元に、いっさい、目線が落ちていない。
それでも、切られた野菜は、鍋の中に消えていく。
なんの肉か分からないモノが、ぶつ切りになり、また、鍋へ。
真下で燃える炎に、手をかざし、薪をくべると。
焼ける良い匂いが、鼻に通ってくる。
「なぁ? エリス、それ、ナンの肉だ?」
「ん~? 蛇的なヤツだねぇ~」
的って、ドコまでを、含んでいるのだろう。
「なんて、野菜だ?」
「ほうれん草的な、ヤツだねぇ~」
草は、どこまで、ほうれん草に属するのだろう。
「ナニ作ってるんだ?」
「蛇草のスープ」
ついに、断言された。
「帰る! 飯食ってくる!」
「デザートは、マンゴー的なヤツなのに?」
「的って、なんだ?」
「その方が、伝わりやすいでしょ?」
思いついた全て、以外だった。
「帰る!」
「なんで?」
「オチが、オレには見えた!」
「ハイハイ。座っててね、今、デキるから」
デキて、欲しくないのである。
「いりません、帰してください」
「ハイ、橒戸君。全力パンチ~」
「コノヤロウ!」
ノートに、目を落としたまま。
エリスは、振りかぶり、打ち出した霧斗の拳を掴み。
「逃げられないからね~」
いとも簡単に、実力差を思い知らされる。
「イタタタタタタタ」
握る力も、エゲつないのである。
夕食を食べるために、帰ろうとしてみれば。
エリスの抵抗に遭い。
いくら説得しても、帰してもらえそうにないので。
逃走を図ろうと、してみたが。
首根っこを捕まれた、猫の気分を味わうコトになり。
大人しく、着席を命じられてしまったのが、今である。
「力加減なんてしなくても、別に痛くないから、次から全力ね~」
そして、言われるがまま、反抗すれば。
コノありさまである。
「…なんで?」
「パンチは、ね。勢いが、死んだところを掴むと、痛くも、なんともないんだよ?」
さすが、手先器用な、エルフの面目躍如。
そんなことを言っている暇なく、霧斗の拳は、握りつぶされる。
「イタタタタタタタタ」
「握るだけで、向こうの男の子は、ノックダウンよ」
エルフは、生物的に、上位のようだった。
「昏倒させて、襲う気か!」
「そうならないように、平和的に悩殺しようとしてるんだよ~」
怖い事実だった。
「いずれにしろ、ツライ未来しか見えない」
「腹上死だっけ? 前の事件のとき、かなりの騒ぎになったねぇ~」
「オマエらの体力、どうなってんだ…」
「もたないって思ったから。
いろいろ飲ませたり、食べさせたりした、みたいだよ~」
本当に、怖い事実だった。
彼女たちに手を出しては、ならない。
本物の、性欲お化けである。
サキュバスが、彼女たちだと言ったら、信じられてしまう。
「今、作ってるヤツか?」
「そうだねぇ…。あっ」
エリスの顔が上がって、目線が泳いだ。
「ドコが、平和的なんだ? エロエルフ!」
「それはそうと、橒戸君」
「スルーするな。そして、料理をやめろ」
エリスは、ノートを指さし。
「コレ、大きいんだよね?」
「そうだな」
「ん~。まぁ、作って見せた方が、分かりやすいか」
テーブル上で、ブツ切りにされた、薪木は。
ノートに書かれた、形通りに、ナイフで削られていく。
それでも、料理は。
滞りなく、進行していく恐怖感に、君は耐えられるか。
その合間に、タンスからヒモを取り出し、テーブルの上に置かれ。
短時間で、形になっていく、ミニチュアゴーレムは。
霧斗の中の、どうでも良い、模型屋魂に、火をつけた。
洗練された、エリスの手元の動きに、釘付けである。
「早ぇ…。ナイフ一本で、この精度」
「見直した?」
「うらやましくて、たまらない…」
模型制作で、パーツ一つを、キレイに作り上げるのには。
様々な工具と、時間が必要だ。
ソレこそ、欲しいモノにするまでに、数日以上、かける場合もある。
それを、何の気なしに。
ナイフ一本で、やりきるエリスの技術は。
全国のモデラーが、うらやむモノだ。
少しでも、エリスから技術を盗もうと。
霧斗の目線が、釘付けになるのも、仕方ないことだろう。
「エヘヘ、なんか、嬉しいな」
可愛く笑っている、エリスの顔なんて、いっさい目もくれず。
霧斗の目は、エリスの手元だけ向けられ。
話すことすら、忘れているようだ。
何を言っても、生返事しか、返さなくなった、霧斗の目線は。
エリスの手元の動きだけに、反応し。
エリスは、手元を顔まで持ち上げる。
「橒戸君?」
「えっ…。なんだ?」
「嬉しいな」
「良かったな」
霧斗の目線は、エリスの顔を一瞬みて、手元に戻っていく。
「ねぇ? 橒戸君?」
「今、良いところなんだ。早く作ってくれ」
「会話してくれないと、シメ落としちゃうぞ?」
霧斗は、旅立っていた。
エリスの手元を見ているようで、何も見ていない。
聞いてもいない。
心、ココにあらず。
エリスは、テーブルに置いたモノ。
持っていたモノを、全て、地面に払い捨てた。
「ギャアアアアアアア!」
霧斗の悲鳴である。
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