十一話 希望の現代科学は、霧斗に見せつけた


 愛理先生に連れられ、初めて行った、特別クラス棟。


 隔離されていると、聞いてはいたが。

 実際に、行ってみれば、その通りだった。


 外出そのものが、許されていない。


 一般学生に会うことさえ、先生の許可が必要で、困難だ。

 愛理先生に仲介を頼んだのは、大正解だった。


 その中でも、エルフの活動圏は。

 更なる、隔離が徹底されていた。


 全て、カードキー管理。


 クラスも、奥の奥にあり、学生寮も、一本道。


 窓はあるが、鉄格子が張られ。

 監獄と言っても、差し支えのないレベルだ。



 自由に出入りできるのは。

 こっちの世界と、霧斗の世界を繋ぐ、扉ぐらいの、徹底ぶりだ。



 どうやって、生活しているのかと思えば。

 そもそも、生活の半分以上、自給自足を、してきている、異世界人達だ。



 ライフラインが整備された環境、ふかふかのベット。

 三食のご飯が出てきて、毎日、気が済むまで風呂には入れる。

 天国のように、感じているだろう。



 それ以外で、欲しいモノは。

 全て、ネット通販に、依存しており。


 商品受け取りも、本人に直接、届くわけではない。


 ほんとうに、徹底されており。



 愛理先生に、連れて行かれた場所ですら。


 同じ学園の中だというのに、別の世界に感じられるほどだ。


「下心隠さない、オジさんとか。エルフ的に、サイコーなんだけど?」


「マジか? そこまで、見境ないのか?」


「不良に回されるとか、エルフ冥利につきるよね?」


「同意を求めるな? むしろ、オレに聞くな!


 そんなこと言ってるから、コンビニ一つ。

 行かせて、もらえないんだろうが!」



 このエロエルフを、一匹、駅前に解き放ったら。

 ピンク色に染まること、請け合いだ。



 フィクションに良くある、ピンク色の設定を現実に変える、婬魔。



 言い過ぎでは、ないだろう。



 全て、駅前に一人で、そろえてしまうだろう。


 そんなことになれば、社会問題だ。


 突き詰めれば、学園側の責任が問われる。


 そうなれば、特別クラスの全てが、露見し。


 ロクでもないことになる、未来しか見えない。

 

 このエロエルフどもを、なめていると、痛い目に遭うのは。


「男の人産んだら、英雄だもん」


 声をかけられた、男性である。


 彼女たちは、全力で、妊娠を望んでいるからこそ。


 行き過ぎた、夜の活動に。


 声をかけられた男性が、翌朝か、次の日の朝か。


 道ばたで、倒れていても不思議じゃない。


 そして、言えることは一つだ。


 姿に騙され、手を出したら、最後である。


「聞いてない、本当に、聞いてないぞ。


 人工授精で手を打て、オマエらは」


「あ~。ソレは、無理みたいなの」


「…は?」


「私達には、生理がないんだけどね?」



 前提が、重かった。


「もう、保健体育は、お腹一杯だから、要点だけにしてくれ」


「えっとね、卵子だっけ? ソレが取れないらしいよ」


 彼女たちの世話を焼く、人々は。

 さぞや、ガッカリしたことだろう。


「じゃあ、どうやって、子供がデキるんだよ?」


「えっと、一年前、問題になった事件、覚えてる?」


「一年前…」


 霧斗は、ため息を吐き出した。


 フワッとした、尾ひれ・葉ひれがついた、作り話のような噂。


 あまりにも、現実離れしすぎていて、くだらないと、聞き流したが。


 インパクトだけは、一級品だった。


「エルフの一人が、抜け道見つけて、お金稼いでたら、妊娠した話のヤツ」


「容姿端麗、エロ女子高生、大淫行、成金事件…」


 こうして、エリスが、目の前に居るからこそ。


 噂ではないと、思えてしまうのが。


 エルフが、エルフたらしめているのだろう。


「稼いだオカネで、ネット通販して。

 商品が手に入ったら、コッチの世界で売ってたの」


 霧斗は、認識が甘すぎたと、目を閉じた。



 全て、彼女たちの都合の良いように、思うように動くと。

 こうなっていくんだと。


「望んだことで、お金が稼げて。

 大体のことは、お金で解決できちゃうし。


 妊娠して帰ってきたら、手厚い保護を受けられるの。

 こんなに、良いコトなんて、ないんだよ?」


 エルフの立場が弱い。

 牧場の牛と例えたが、あながち間違って、いなかったのだ。


「そのおかげで、妊娠する、メカニズム、だっけ? ソレが分かったの」


 コトの顛末を聞き、見た、先生方は、驚愕しただろう。


 これ以上なく、ヒドいことをされていると、思えば。


 彼女たちは、笑って喜んでいるのだから。



 道徳なんて、生やさしい話ではない。


 彼女たちは、そういう世界に生きているという現実を、先生方に突きつけた。


 もう、コレは恐怖だ。


 批判してしまえば、彼女たちは、元の世界で生きてはイケない。


 海外留学生が、中・高エスカレーターとは言え。


 6年しか、面倒を見ることが、デキないのだから。


 彼女たちの常識や、文化を汚すことはデキない。


「排卵・着床だっけ? 私達は、徐々に体が、準備するみたいで。

 継続的に続けると、あるとき、ポンと排卵されて、スグに着床するんだって」


 生き物としての違いも、大きく。


 彼女たちを救いたい一心で、妊娠のメカニズムを、洗ったのだろう。


 調べてみれば、物理的に、卵子を確保することが、不可能だと分かった。


 彼女たちの卵子は、確実に着床する瞬間にしか、排出されない。


 準備期間あるなら、中途半端な性行では、妊娠できず。


 彼女たちの体内に、精子がある状態でしか、排卵されないというコトだ。


 取り出そうにも、もう、有精卵になってしまったモノを、取り出す意味がなく。


 彼女たちは、やっと授かった命を、守ろうとするだろう。


 こともあろうに、準備期間中の性行が、引き金になっている。


 卵子を排出するシチュエーションを、一人では作れないとなれば。


 話が、一周する。


 彼女たちは、エロエルフでないと、子供が授かれない体だと。


「私達には、分からなかった、橒戸君の世界の知識で判明した、コレはね?」


 ああ、本当に。


 ドウしようもない。


 かける言葉も、見当たらない。


 エルフの妊娠率が、低い理由は。


 そもそも、妊娠する条件が、かなりハードだからだ。


 だが、彼女たちにしてみれば、自分の体の事だ。


 ひいては、自分の種族が抱えてきた、問題に対する答えでもある。


「数が、減り続けている私達には、希望なんだよ?」


 明確な方法が、分かったなら。


 あとは、欲しい結果に向けて、なぞれば良い。


 へたに、判明させてしまったから。


 彼女たちは、自分のため、種族のために、全力でなぞる。


 立場の弱さも、あいまって。


 エルフ妊娠メカニズムが、男性、誰もが、一度は、夢想するソレなら。



 心などすり抜け、彼女たちは、性の前に、へりくだり、かしずくしかない。


「なぁ、エリス?」


「なに? 橒戸君」


 口にしようとした言葉を、霧斗は、飲み込み。


 イヤじゃないのか、と。


 声に、する間もなく。


「良いも、悪いも、ないじゃないかな?」


 そう言うモノ、なんだから。


 当事者で、あるからこそ、飲み込むしかない。


 希望と言い切った、エリスは、本当に強い。


 そう感じているのすら。

 ただ、別の生き物だから、仕方ない、と。


 希望の現代科学は、霧斗に見せつけた。

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