九話 名前は カプたんにしよう! 同意を求めるな?


 病院すら、敷地内禁煙の、ご時世に。


 学園内に、一カ所だけ、異質に存在している、喫煙所。


 茶色に染まった、白い壁。


 液だれのような、まだら模様が、らしさ、を目に訴え。


 安い茶色のソファーと、丸形の灰皿が。


 どこか、店のバックヤードを、彷彿とさせる。


 そのソファーに、ドッカリと座る女教師は、大きく煙を吹き出し。


 霧斗を見つけると、手で招く。


 引き戸を開けば、紙たばこ独特の匂いが、鼻につき。


 霧斗は、眉をひそめた。


「キミから、私の所に来るとは、珍しいことも、あるじゃないか」


「帰らずに、コンナ所で、タバコを吸っているほど、ヒマなんですか?」


「言ってくれるじゃないか」


「言いたいことは、たくさんありますよ」


「そうか。家に帰りたがりのキミが、私に何の用かね?」


「エリスに会わせて下さい。

 ついでに、連絡先も、交換できれば良いのですが」


「彼女たちが、スマホなんて、持ってるワケが、ないじゃないか」


「なら、会う段取りを、つけてもらえますか? 今スグに」


「ソレは、かまわないが。…ソレだけかね?」


「聞いたら、答えてくれるんですか?」


「それでも、聞くのが、若者だと思っていたよ」


「右に左に避けられるのは、目に見えてますし」


「長い付き合いも、考えモノだな」


「それに、聞いたところで。

 今回の件には、あまり重要じゃ、ありません」


「ハッハッハ。その通りだ」


「アトで、全力で、問い詰めますけどね」


「ソレは、怖いな。

 橒戸君、私のフルネームは、知っているかね?」


「知ってますよ。布衣宮 愛理(ゆいみや あいり)先生」


「なら、結構。向こうに行っていれば、どうせ分かるコトだ。


 その時にでも、問い詰められて、あげようじゃないか」


 愛理は、ソファーから立ち上がり。


「思ったより早く、ココまで来た、キミに応じなければ、ならんだろう。

 ついてきたまえ」


「たばこ臭いですね」


「コレが、昭和の匂いと言うモノだよ」


 扉を出て歩く愛理に、霧斗は、押されることもなく。

 後ろを歩いた。





 エセ・フローリングは、よく見るが。


 土足で踏みならす、木板の床も珍しい。


 大きなテーブルの椅子に座り。


 霧斗は、テーブルの上に並ぶモノを見て、目くじらを押さえる。


「本当に、驚いたよ~」


「……」


「初めて、ブラジャーに、出会ったぐらい」


 ピンク・青・黒のランジェリーが並び。

 恥かしげもなく、エリスは笑っていた。


「ドレが好み?」

 整いすぎている顔は、本気だ。


 キレイな長い金髪を揺らし。

 聞いてくる姿に、グッと、こなくもないが。


「ホント、オマエ。キャラ、ブレないな?」


「そっかぁ~。やっぱり、腰の下ではく、パンツの方が__」

「出すな!」


「使用済みだよ!」


「なお、悪いわ!」


「やっぱり、ストライブか…」


「そういう話を、してねぇから!」


「え? 覚悟が、できたから。

 お呼び出し、してくれたんでしょ?」


「あ~。話したくない。めんどくさい」


「じゃあ、なんなの?」


「コレだよ」


 霧斗は、ノートで。


 並ぶ、ランジェリー達を押し返し、開いて指さした。


「なにコレ、カワイイ」

 人に、よるだろう。


「エリスと話すと、会話の知能レベルが、底辺に落ちきるな」


「こんな、丸々で、カワイイのが、ゴーレムなの?」


 丸い胴体、地面を引きずるほど、長い腕。

 極端に短い、足。


「実用的だぞ。転んでも、スグに立てるし。

 手で、体を転がせるんだから」


 物理攻撃、全フリである。


 飛び道具がなく。

 体で戦うゴーレムとしては、これ以上も、ないだろう。


「強いの?」


 見た目は、球体に、手足が、ついただけだが。


「コレが、5メートルサイズになったら、転がる質量だっての」


 ダンジョンでおなじみの、転がる岩球。

 それに、手足がついて転がってきたら、驚異だろう。


「手を振り回したら、スゴそうだね」


 何かを、掴む必要などない。


 関節として、二の腕は、あるが。


 手から先は、大きな凹凸のある、棍棒だ。


「手先が、木製釘バットみたいなモノだからな。

 グルグル回って、当たったのが人なら、原型なんて、ないと思うぞ」


「スゴォ~イ。名前つけようよ」


「…バカにしてるだろ?」


「名前は、カプたん、にしよう」


「同意を求めるな? オマエ、知ってて、言ってないよな?」


「ん?なんか、カップとか、ボールとか、そっちの調理器具に似てるじゃん」


 ドコがだろう。


 きっと、感性だ。


「完全に丸いから、ボールの方が、合ってるんじゃないのか?」


 救命ポットに、砲門つけただけの、姿が。

 霧斗の頭の中を、通り過ぎるが。


「なんか、可愛くない」

 ナニが、だろう。


「そおっスか」

 霧斗は、命名の話題から、下りることにした。


「どうやって、作るの?」


「その前に、コレが、戦いに使えるかどうか、教えてくれ」


 エリスの顔は、キレイな笑顔を保ったまま。


 ノートを覗く目線が、槍のように鋭く、紙を貫く。


(怖ぇ…。戦いが絡むと、コレだから、やりにくい)

 一瞬でも、長く感じるのは。


 エリスの体から感じる、オーラが。

 霧斗を、萎縮させるからだろう。


 エリスの表情筋は、スグに動き出し。


「使えるよ。

 戦場で、この絵のモノが、そんな大きさで動けば。

 もっと、大きければ、これ以上ないぐらい」


「その大きさで、たぶん、一杯一杯だ。

 木の固まりを、つなぐモノが、どうやっても持たない、と思う」


「木で作るの?」


 エリスの自宅は、大きな木の上にある。

 エルフの森と、言えば良いのか。


 周辺には、木々が、ビックリするぐらい生えている。


「木製だ。もっと、分かりやすく言うと」


 肩・二の腕・腕・手先の鈍器、四パーツ。


 太もも・ふくらはぎ・足の三パーツ。


 コレを、人が乗れぐらい、大きな丸い胴体に、繋げ。

 作り上げようと、しているのが。


 木製レンタルゴーレム、カプたんである。


「あとは、木の固まりをどうやって、繋げるかだ」


 ソコまで、思いつかず、保留していた問題だ。


 関節素材は思いついても、この世界に存在するか、分からない。


 この世界を知らないことが、ゴーレム制作、最大のネックだろう。


 エリスは、はじかれた下着を掴み。


「このパンツに使われてる、ゴムとかは?」


「恥ずかしげもなく、広げるな!」


「ここが、男性皆さんが欲情する__」


「さっさと、かたづけろマジで」


「そんなコト言いながら、一部を、ガン見されても」


 霧斗も、男の子だった。


 エリスの、目線が逃げ、顔が逃げ。

 頬を染めていく、姿は、可愛い。


「恥ずかしいなら、最初からやるな」

 どこかで聞いた、セリフである。


「じゃ、じゃあ。このブラの、ヒモとかは?」


 もう、やめれば良いのに。

 やめそうにないエリスを、霧斗は、スルーすることにした。

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