プロローグ 2 生補部 生クリーム、補充部にならないか?


 生徒指導室を、通り抜け。


 無駄に広い、学校の別棟。


 通称・部活棟まで、霧斗は、押して行かれ。


 その、一番奥の空き教室の扉を開くように、指示を出される。


「先生、開けたくないんですが」


「もう、だいたい、想像がついただろ?

 私は、部活顧問も、しているんだ」


「部活とか! マジで、言ってるんですか?

 そんな時間なんて、オレには、ないですよ?」


「すべこべ言わず、早く開けたまえ」


「愛理先生、すごく素敵な笑顔ですね」


「そうか。そんな、私の言うことを聞けるなんて、霧斗君は、幸せ者だな」 


 霧斗は、観念して、扉を開けると。


「霧須磨(きりすま)~。入るぞ~」


 望まない声が、室内に向かって放たれる。


 積まれた机、椅子。

 教室並みに、広い室内で。


 長い黒髪の、霧須磨と呼ばれた。

 椅子に腰掛ける女生徒が、凜とした顔を上げる。


「愛理先生が、普通の…人を連れてくるのは、珍しいですね」


(今の間は、なんだ)


「喜べ、新入部員だ」


 霧須磨の目線は、霧斗を一瞥すると、スグに愛理先生に戻っていく。


 彼女の名前は、不健全な学生の霧斗でも、知っているほどの有名人だ。


 長い黒髪、高すぎない身長、スッとした立ち姿。


 清楚女子、全ての要素を兼ね備えた彼女は。

 かなりのステータスを、貼り付けている。


 成績優秀どころか、学年別テストのトップを、とり続け。


 帰国子女であり、知事の娘という、オーバーキルまで、見せつける。


 霧須磨 楓(きりすま かえで)


 それで、男子にモテれば、イヤでも、学内の有名人に、なるのも仕方ない。


 霧斗も、初めて聞いたときは、ドラマの話だと思ったが、どうやら事実のようだ。


 目の前に立っている、彼女の細かい所作から、育ちの良さが伝わってくる。


「彼が、ですか?」


指を指さず、手のひらで、確認する姿も、見れたものだ。


「そうだ、橒戸 霧斗(うんと きりと)君だ」


「先生、今、ワザと間違えようとしましたね?」


「君は本当に、悪意には敏感だな」


「名前通りの男子を、私一人の部活に、入れると?」 


「霧須磨さん。今、想像した、俺の名前を、口にして下さい」


「このように、名字を読み間違えに、うるさい男だ」


「クラスは?」


(オレと、会話する気すらないわけだな、コイツは)


「F組だな」


「まさか、成績を上げてやってくれ、などと、言われませんよね?」


「まさか。

 彼は、本来なら、Bクラスに居ても、おかしくないと思っている。

 霧須磨が気にするほど、霧斗君は、バカじゃないよ」


 霧斗は、愛理教諭に、肩を叩かれ。


 嫌そうな顔を返しても、もう、逃がしてくれないようで。


 霧須磨が、なんと言おうと、押し切る体制だ。


 一年の最初からズッと。


 ご指導、賜った経験が、あがくだけ無駄だと、告げていた。


「お褒めにあずかり、どーも。オレは、全力で、帰りたいんですが?」


「本人も、そう言っているようですし、帰らせて良いのでは?」


「霧斗君、部活に、入っていないよな?」


「当たり前じゃないですか。

 作業する時間が、なくなるじゃ、ないですか」


「なんで、模型部に入らなかった?」


「部活に入って、何か、メリットあるんですか?

 漫画も絵も、模型だってソウです。


 家に、作業環境が、そろっていれば、入るメリットなんて、ないでしょ?

 部活なんて、めんどくさい所で、ワザワザ、やる意味がない」


「こうして、リスク管理が、徹底していて。

 同じ趣味の友達すら、いらないと言う人格の持ち主が。

 キミの、思うようなことを、するとでも?」


「わかりませんよ?」


 愛理先生は、見覚えのあるプリントを。

 スッと、スーツから抜き出し、彼女に渡す。


 霧須磨は、二つに折られたプリントを広げ。


 文字を追い始めた彼女の目が、途中途中、止まるのが見え。


「なる、ほど」

 本当に感心されていた。


「愛理先生、保留にするって、言いましたよね?」


「誰かも見せないとは、言ってない。

 キミという人間を、霧須磨に、納得させる方法として。

 これ以上のモノが、あるとでも?」


「クソっ。そういえば、オレが、納得すると思ってますね?」


「しちゃうだろ、キミは。

 コンナ理不尽な環境だって、ご自慢の建前で、逃げおおせると思ったら、大間違いだよ」


「…チクショウ、何にも言い返せない。この部は、ナンなんですか?」


「楓君、説明してやりたまえ」


 ため息を吐き出す所作すら、キレイなのが、やりきれない。


「ようこそ、生補部へ」


(うわぁ…。よく分かんねぇ名前が、飛び出した)


「知ってると思うけど。

 この学園は、海外留学生を受け入れ。

 各クラスを、偏差値で分けて、入学させ、A~j組に分けて、授業を行う。

 1クラス三十人、三学年のマンモス校よ」


「少子化の中、無駄に、広い敷地を、強引に埋めに行った、苦肉の策だろうが」


 楓は、素直に関心を示し。


「そういう男だ、桐須磨」


「その、生徒会となると、多忙なのよ」


「生徒会補佐部、マジで勘弁してくれ…」


「アナタがいるような、底辺クラスから。

 Aクラスまで、授業内容が分けられ。

 学生寮まで、あるウチの学校の生徒会が、多忙なのは、分かるでしょ?」


「俺には、関係ないところで、やってくれないか?」


「生補部は、無理やり人数を、そろえた、この学園の。

 生徒会を補佐する、部活よ」



(名前通り過ぎる…)


「今から、生クリーム、補充部にならないか?」


「見苦しいわね、橒戸君」


「とりあえず、二人で活動に当たってくれ。

 一つの仕事につき、詳細レポート提出厳守だ」


 幽霊部員化が、閉ざされた。


「分かると思うが、成績に直結する。見える形で、な」


 毎日参加が、強制された。


「入ったら、デメリットしか、ないじゃないですか…」


「そうでもないぞ。

 成績が良ければ、来年のクラスが、変わる可能性大だ」


「嬉しくねぇ…」


 強制、時間外授業に、参加させられているようなモノである。

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