第8話 好きとはなんだろう(続)
大輝は気持ちを吐き出してスッキリしたのか、
心なしか表情が明るくなった気がする。
そんなことを思いながら食べていると大輝が言った。
この店うまいな。
普段は居酒屋とか定食屋ばっかだから、
こんなシャレたイタリアンの店来ないから。
この店よく来るのか?
俺は言った。
嫁さんが好きでさ。
俺が独身だったとしたら、絶対こんな店入れない…
というかイタリアンの店なんて探しもしないよ。
俺だって会社のランチは定食屋が定番だよ(笑)
お前とゆっくり話すなら定食屋より、こっちかな?って。
夜は嫁さん実家から戻ってくるし、昼間に食べながらゆっくり話せる店は…って考えたらここしか思いつかなくて。
すると大輝が言った。
たまにはおっさん同士でこういう店もいいな。
何よりうまいぞ。
実は俺、甘党だからデザートも食べたい(笑)
無邪気な大輝の姿に俺は何だか嬉しくなった。
あのさ、こんな歳にもなって変な奴って思われるの承知で聞くんだけど…
その…
大輝のいう嫁さんを想う好きの好きってどういう気持ちなのか聞かせてほしいなって。
大輝の手がピタリと止まり、口からパスタが飛び出したまま俺を見上げる。
俺は慌てて言葉を付け足す。
いや…そのさ、俺は人生で二人しか経験ないのは言ったよな。
どっちも俺からじゃなくて相手から言われて始まったことも。
それで、自分から好きになるって経験ないし、
大学時代の彼女も嫁も、一緒にいて好きだなー、
なんて感じたことない気がして…
そもそも好きっていう感情にピンと来なくてさ。
大輝は口からはみ出したパスタをゆっくりフォークで口に押し込んだ。
フッ(笑)
お前、そんな真剣な顔をして何を聞くかと思えば。
あっ、ごめんごめん。
笑うとこじゃないよな。
そうだなぁ…
あくまで俺の場合だけど最初は見た目。
顔が好みのタイプかどうか。
相手に興味が湧くときって、完全に初めは見た目だな。
まぁ、一目惚れみたいなもんだからそのあと二人きりとか、グループ単位で遊ぶ度にもっと知りたい、また会いたいって思えて、会ってないときも気がついたらその人のことばっかり考えちまってたり。
頭の中に毎日ちらちらその人の事が思い浮かぶようになってたら外見だけじゃなくて中身も含めてちゃんと「好きだな」って自覚するね。
直樹も相手のことが気になって仕方がないってときあっただろ?
そう聞かれて俺は考え込んでしまった。
即答で「あった」とも言えない。
思い返せば、毎回デートの誘いも、キスをするときも、その先に進むときも、情けないことに嫁がきっかけを作ってくれて流れのままにって感じだった。
俺から積極的に何か行動を起こそうと思ったことないかもしれない。
俺は大輝に正直に言った。
俺は相手が気になって仕方がないとか、
また会いたいと思ったりとかないかもしれない…
いつも受け身で俺自身は何も考えてないっていうか、嫁が言葉に出してしてほしいって言われたことでやれることはやるっていうか。
言われたことをしてあげることに抵抗もないし嫌だと思うこともなく。
俺、自分のことなのによくわかんないや…
大輝は子どもを見るような目で俺を見た。
なるほどな。
直樹はもしかすると本当の意味で好きな人に出会ってないのかもな。
お前さ、恋愛経験云々よりも人付き合いに自信がないだろ?
俺と仲良くなるのだって相当時間かかったくらいだし(笑)
自信がないから自分なんて…って初めから色々諦めてるっつうか、そもそも壇上に上がる気もないって感じかな。
そうだな、例えるなら雑草みたいな。
道端でゆらゆらひっそり小さな花咲かせて風に揺れてて。頭の中は空っぽ、無感情で。
だけどたまたま通りかかった人が見つけてくれるのを待ってるみたいな。
結婚してるやつにこんな事言うのも不謹慎だけど、直樹には心がかき乱されるくらい誰かを好きになるって感情、味わってほしかったなー。
そう言うと大輝は残りのパスタを一気に平らげた。
俺は大輝の言葉のひとつひとつを頭の中で噛み砕いていた。
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