第26話 助言

 どうも、皆さんこんにちはー。いや、今はこんばんは、ですかね。

 北紅葉高校オカルト研究部、期待のルーキーこと、熊手浴くまであびるです。


 いやー、ライトさんはああ言ってましたけど、何やら部長さんと進展があったようで、恋のキューピットとしては喜ばしい限りです。

 今もこうやって二人並んで、仲睦まじげに眠っているんですから、さっさとくっついちゃえばいいのに。皆さんもそう思いません?


 とは言っても、素直にそういう仲になろうとしないのは、むしろ部長さんに問題があるみたいですけどね。全く、往生際が悪いなあ。


 それはそうと、お二人ともよくこんなところで熟睡出来ますね。相当疲れていたんでしょうか。

 あの神様が神社の本殿を貸してくださったんですが、案の定オンボロでしたね。中を見た途端「お前ん家、おっばけやーしき!」と叫びそうになりましたよ。ま、崩れずに立っているというだけで十分ですし、野宿なんかよりは大分マシなんですけどね。


「どうした、まだ起きておったのか?」


「?」


 おや、僕としたことが、不覚にも背後から声をかけられてしまいました。

 振り向くとそこに居たのは、なんと霊の、ではなく例の神様でした。名前は確か……、すみません、よく話を聞いてなかったので忘れてしまいました。


「そちらこそ、まだ生きていらっしゃったのですね」


「ああ、お主らと出会った影響かもしれんの」


 人の思いが神を生かす、と言うやつですか。

 焼石に垂らした水も、全くの無駄ではなかったということですかね。


「それで、何か僕にお話でも?最期を看取って貰いたいと言うなら、喜んでその栄誉にあずからせていただきますけど……」


「別にそういうつもりではないんじゃがの、一つ、おぬしに言いたいことがあるのじゃ」


「ふーん?」


 言いたいこと、ですか?僕達そんなに仲良かったでしたっけ?花火をしている時も、一言二言しか話していないはずですけれど。

 僕が首を傾げていると、神様は不意にこんなことを言ったのでした。


「……おぬし、人間ではないな?」


「おや」


 これはこれは、


「まさか気づかれてましたか。流石ですね」


「巧妙に気配を消しておったようじゃがの。そう簡単に同族の目は欺けんぞ」


「同族だなんて、恐れ多い」


「ふん、心にもないことを。おぬしは祟り神と同様の、邪悪な存在な一つじゃろう」


「ご名答、です」


 まさかこんな場所で正体を暴かれるなんて、微塵も思わなかったなあ。

 色々と反省を活かして、できる限りバレないように工夫していたんですけど。やっぱり、部長さんは凄いですね。


「それで、どうするおつもりですか?血の花火大会でも開催しますか?」


「なんじゃその物騒な言葉は……。先にも言ったじゃろう、言いたいことがある、と。元よりおぬしをどうこうする気も、そんな力もないわい。ただ、この世から消えてしまう前に、先人として一つ助言をしてやろうと思っての」


「助言、ですか。あなたが言うとそれはもはや神託ですね。祟り神託です」


 そんな言い方をすると、縁起が悪い感じになってしまいますね。


「それで、どのような助言をして頂けるのでしょうか?」


「うむうむ、有難く聞くが良い」


 すると彼女は後ろへ振り返って、僕に背中を見せながらこう述べたのでした。


「おぬしが何の目的であやつらに近づいているのかは知らんがの、……人間にあまり情を移してはならんぞ」


「……ほう。二人にではなく僕への心配ですか」


 意外ですね。てっきり部長さんとライトさんに手を出すな、的な話かと。ああでも、それじゃあ助言にならないか。


「そしてその心は?」


「うむ、……まあ、今更こんなことを言っては、笑い話もいい所なんじゃがの……」


 神様はゆっくりとこちらに顔を向け、。


「……やはり、寂しいのじゃ。村の記憶やお前たちとの絆が絶えてしまうのが」


 そう言う神様はぽろぽろと涙をこぼしていました。


「……泣くほど、ですか」


 僕が尋ねると、幼女は無言で頷きます。

 ほんとに、面白い話です。人とは比べ物にならないほどの力を持った神が、人と関わることによって涙を流してしまうだなんて、どんなコメディですか。


 痛いですよ。片腹が。

 でも、せっかくのご神託です。ありがた〜く受け取っておくのが礼儀というものでしょう。


「ありがとうございます。是非参考にして頂きたく……って、あれ?」


 気がつくと、もうそこに神様の姿はありませんでした。

 ただ、彼女が立っていた床に垂れた涙のシミが残っているばかりでした。


 人間に情を移すな、ですか……。


 あはは。そうですね。

 到底ありえない話だとは思いますけど、僕もいつか、そうやって感涙にむせびたいものです。


 それでは皆さん、大変お見苦しい光景をお見せしてしまいましたが、おやすみなさい。


 次回、超絶怒涛のクライマックス、最終回『ライト、死す』でお会いしましょう。











 安心してください、悪い冗談ですよ。

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