第24話 後悔してももう遅いその2

フェイラ「…あ」


ロック「来たか」


騎士たち「ああ、あれは」


フワリと橋の欄干に何者かが音もなく着地する。


その者は太陽を背に十字架の意匠の施された白銀の全身鎧フルプレートを身に纏っており、金糸で細かい刺繍の施された純白のマントを羽織っている。


風を正面から受けマントをたなびかせるその姿はさながら気高い白鷹のようであった。


逆光で顔に深く影を落とし相貌はわからない。しかし、その場にいる誰もが確信していた。


騎士たち「英雄!!偉大者!!勇者殿!!……」


兵士たちは歓喜に満ち溢れた顔で呼びかける。


「皆、ここまでよく耐えた」


勇者は優しく兵士たちを讃える。


勇者の賛美にある者は雄叫びを上げ、ある者は咽び泣いた。


ロック 「来るのがおせぇんだよ!」


エニア 「ホント、もう少し早く来て欲しかったわよ!」


二人は安堵から勇者に軽口を叩く。


勇者は困ったように苦笑する。


勇者は不意に二人から視線を外し、遥か遠方の橋下を見据える。


(多いな...殲滅には時間がかかりそうだ。で、あれば優先すべきは貧民窟の住民ひいては国民の避難が最優先...か。)


勇者は皆の方に向き直りスゥっと大きく息を吸い込むと声を張り上げた。


「みんな、ひと仕事終えた所悪いがもう一度僕に力を貸してほしい!」


「見ての通り今、この国は未曾有の危機にある!この数の化け物を全て殲滅するにはそれなりの時間を有する。よって、国民の避難を優先したい!」


「意見のあるものは挙手してくれ!」


「「「・・・」」」


皆、神妙な面持ちでただただ勇者の言うことに耳を傾けていた。


「意見がないようなので話を進める。まず作戦として真下の貧民窟を僕の炎で囲い、周囲から隔絶する。その後、僕が貧民窟内の化け物を橋上から各個撃破していく。みんなは住民達を探し橋の方へ誘導してくれ!」


「ロック、フェイラ、二人は橋下から住民を橋の上に上げてくれ!」


「「「了解!」」」


ロック 「うっす」


フェイラ 「OK〜」


ロック 「はぁ〜無能の集まりの貧民窟の連中なんて助けたってしょーがねぇだろうよォ・・むしろ助けない方がこの国にとっては有益なんじゃねぇか?」


フェイラ 「コラ、聞こえるわよ」


ロック 「はぁ〜・・・じゃま、一仕事しますかねぇ」


始まってしまえばなんということはなく、貧民窟の住民の避難は怖いぐらい順調に進んでいた。


兵士A 「こっちだ〜こっち!瓦礫に埋まってる!」


兵士B 「わかった。すぐ向かう!」


ロック 「よォ〜し、コイツで最後だな。しっかし、ほとんど死んでたおかげかすんなり終わったな。」


「・・・」


ロックの不躾な発言にフェイラが腰を肘で小突く。


ロック 「お〜い住民の避難完了したぞー」


勇者 「よし、それじゃあ王都全域の国民の避難を────」


言いかけたところで突如として視界が白く染まる。


凄まじい衝撃波と地響きが王都全域に轟く。


「わぁぁぁあ」 「た、助けてくれぇぇ」


フェイラ 「キャア」


ロック 「うおっ...なんだ!?」


勇者 「こ、これは!?」


衝撃が収まると橋は崩壊しロック、フェイラ、勇者の3人を除き皆爆風に飲み込まれ無惨な姿で辺りに散在していた。


勇者は身を起こし何が起こったのかと周囲を見渡す。


勇者の視線は上空で固まったように動かなくなる。


そこには巨大なきのこ雲が濛濛もうもうと立ち上っていた。


「そ、そん...な」


勇者は膝を落としただただその光景を眺めることしか出来ずにいた。


一瞬か永遠か束の間の沈黙は突如として破られる。


カツ、カツ、カツ──────────


何者かの靴音がこちらに向かって一定の足取りで近づいてくる。


「いやぁ...大変でしたなぁ」


煌びやかに宝石の装飾された服。人を食ったような細くつり上がった目。小綺麗に整えられた髪は後ろで結われている。


勇者は苦虫を噛み潰したような表情でその男を睨みつけた。


「おぉ怖い」


男はそっぽを向き大袈裟に両手を胸の前で降って見せた。


ロック「あ、アイツは..!!」


彼こそギルデティア王国第1王子イレン・アールスト・アイナスその人である。


「ッ...お前ェ!?」


勇者は歯を食いしばり王子を睨みつける。


イレンはそんな勇者の様子を見てつり上がった目を細めて不気味な笑みを浮かべた。

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異世界風天者達の†ブラッドトリガー† 多銅勝 @tadou_masaru

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