ひとを愛した人魚のうた

汐海有真(白木犀)

ひとを愛した人魚のうた

青海はどこか屍に似ている 暮れの頃だけ生き返るよう


にんげんは真っ赤な手をしているらしい 祈りも救いも全て壊して


ひと? さかな? わからなくなるときがある叫び出したくなるときがある


隔たりのある存在を愛そうとしていたわたしはとても愚かね


目を閉じて優しい水を漂ってしあわせの意味を掴もうとする



紺の夜恐ろしくなり息を吸うこのまま永遠にひとり、なのかと


海底に真珠のような色があり近付いて、……ああ にんげんだった


赤くないマリンスノーの手を握る 余りの柔さに心が跳ねた


開かれた瞳はまるで赤珊瑚 きみは微笑み名前を告げる


理性では駄目だとわかっているけれど口が勝手に「愛して」と言う



蒼天を見るのが好きときみは言う マリンブルーの青しか知らない


くちびるとくちびるが触れる儀式さえ愛おしいのが不思議だった


ひとは陸、人魚は海、関わるな そんな決め事どうでもいいの


幸せにきみの隣で眠ってた もういない母に首を絞められた


この世には数え切れない呪縛があるその全てを呪い返したい



繰り返す逢瀬の度に少しずつ塞がれていくきみとの未来


にんげんは白くて綺麗とささやいた どうしてかきみは笑っていた


終焉は前触れもなく訪れる 煌めく刃物と殺意の薫り


熱かった 自分の腹からとろとろと赤を零してきみを抱きしめる


泣いているきみの涙を舐め取った 海に似ていて、……でも甘かった

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ひとを愛した人魚のうた 汐海有真(白木犀) @tea_olive

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