一年前の天気予報

相園 りゅー

【二十首連作】一年前の天気予報




身動ぎも出来ないでいる軒下の僕らに見向きもしない長雨


鈍色のくらげの腕に包まれてゆっくり冷たくなっていく街


今日流す涙の跡が来年の今ごろにまで残ればいいのに


今しがた誰かが去ったベランダで とろりと甘い陽炎が立つ



つゆくさの群れ咲く野辺にいるはずだ 見えない21グラムたち


野茨に袖を引かれて振り向けば 今しも夏に映えゆく山野


君の手の白さを思い出しながら真昼の蔭の妖怪になる


思っても見ませんでした溢れ出るほどの何かが僕にあるとは




僕たちが寝ているうちに洗われた町をご覧よおうろらがあるよ


折りたたみ傘を忘れた腹いせに助走をつけて水たまり踏む


ひとつだけ揺れ続けてる吊革のリングの向こうにターミナル駅


明日から僕のまつげは白色だ 燃えさかる目で君を見たから


この恋が人類最後の恋だって思いたいんです 世界よ滅べ



ごうごうと八重の花弁を戦慄かせ 嵐みたいに咲くわすれ草


半夏生 花ではなくて卑しくて 半分しろく貴方をさそう


曇天の朝にしらけた野の末で蟹の鋏がそこだけ赤い


雲たちの金色に染まる音がして背中に羽が欲しい夕暮れ



凡人のためのぶ厚い雲があり空を見なくてすむ月曜日


少しだけ重たいビニール傘ひろげ 昨日の水玉くるりと飛ばす


それなりの日々を木箱に納めては「それなりの日」とラベルを付ける



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一年前の天気予報 相園 りゅー @midorino-entotsu

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