3.戦う理由
「特訓?」
「はい!わたし、あなたたちのように魔女と戦いたいんです!」
「ふぅン」
ベラさんの雰囲気が変わった。こちらを見定めようとする鋭い目だ。一気に身体に緊張が走る。
「アズちゃん、先生に言われたでしょ!」
「ラミコ、お願い。どうしても譲れないの」
わたしは戦いたい。そう思う理由が、譲れない目標がある。
「戦った経験はあるがけ?」
「あります。わたしが倒したわけじゃありませんが」
「魔法はどんながや?」
「まだ無い……です。訳あって簡易魔法もできず、魔力形成だけで対応しました。」
「そう。戦いたい理由は?」
ベラさんの雰囲気がより一層険しくなった気がする。この返答次第では切って捨てられそうなほどだ。
「人……を守りたいからです」
これは建前だ。心臓がドクドクする。手が震える。この人の前でこんな嘘は通じないかもしれないと身体が騒いでいる。
「それ、ほんまの気持ち?そうやとしても無能な善人はいらない」
「……っ!」
嘘を見抜かれた。そして実力が足りていないという事実を叩きつけられ心臓が跳ねる。
「おいベラ、あまり言いすぎんなよ」
「ヴルカ、そういう世界やろ」
「あー、まぁそうだけどよ………あっ、あんま気にすんなよ!な!アタシらはもう行くから、気ぃ付けて帰れよ!」
2人は踵を返して歩みを始めた。少しずつ背中が遠ざかっていく。
でも、ここで引き下がりたくない。
「すみません!わたし、嘘吐きました!」
「……何がや?」
「わたし、人を守りたいなんて立派な目標持ってないです。本当は、事故とはいえ魔法で家族を殺めた自分を許せなくて、魔女と同類なんかじゃないって証明したくって……とにかく、自分のためだけに戦える力が欲しいんです!お願いします!」
これだって建前といえばそうだ。しかし、心の奥底の、本命の本音でないだけで、本音の一部であることは間違いない。せめてこの、嘘ではない正直な気持ちで答えたい。
「えらい我欲にまみれた理由やね。」
「やっぱりダメ……でしょうか」
「なーん、無能な善人よりかは貪欲な凡人の方がいくらかましやちゃ。いいよ、面倒見てあげっちゃ」
「…………!ありがとうございます!」
良かった。これでわたしは目標に近づける。
「アズちゃん……わたしはそんな風に戦ってほしくないよ……」
「ラミコ……」
ラミコの心配ももっともだ。でも、どうしてもこれだけは。
「わたしはこの前魔女に襲われたとき逃げることさえ出来なかった。きっと、いざという時戦える力がないと何も出来ないんだよ。それが事実なの」
なんとかラミコを説得する。しかし、これほど心配してくれてる友達に嘘は言ってないけど本音は明かしてない……なんて、なんだか騙しているようで心が傷んだ。
「ま、身を守るだけの力が欲しいってンならアタシも賛成だ」
「それじゃあここじゃ何やし、も少し開けた場所行こまいけ」
「はい!」
わたし達は街外れの平野にやってきた。ここなら戦っても問題はないだろう。
「前に戦ったときはどうやって戦ったがけ?」
「あのときは……」
魔女襲撃の際の事のあらましを話した。
「なるほどねえ、つまりはほとんど自分では戦っとらんがや」
そう、わたしは先生を助け出しただけで、自分からは攻撃も防御もまともにできていない。
「固有魔法がない魔法使いや一般人が魔女を倒せた例は無くはない。ただそれは幸運やっただけやね。あんたは逃げれるだけの力が欲しいんやろ?まずはウチが攻撃するから防げるだけ防いでみ。安心しぃ、手加減はしとくわ」
「はい!」
剣聖と呼ばれるほどの人の戦い、一体どんな……と、そこまで考えた瞬間、ヒュッと音がした。
「!」
とっさに魔力の糸を張り剣を受け止める。危なかった……!
「よう反応したねえ。でも戦いに雑念はいらんわ。」
ベラさんは瞬く間に剣を引き抜き間合いを詰め、その剣を振り下ろしていた。さらにはわたしが余計な思考を挟んだことまで見抜いていた。
戦いにおいての実力が圧倒的に高いことを否応なく感じさせられる。
「それと」
「っ!」
剣を受け止めようと精一杯張っていた糸はあっけなく断ち切られた。
「その魔力形成には強度の問題ありやね。」
あまりにあっさりと自分の無力さを示された。
「攻撃は防げない、でも敵は攻めてくる。どうするが?」
現状では防御力に問題がある。今できる糸の形成ではどうしようもない。考えろ……!
「ほら敵は止まってくれんよ」
そう考える間にもベラさんは次々と剣を振る。糸で防いではいるが当然糸を切らないように手加減してくれているのだろう。どうする?どうすれば……!
「ほらほらこのままじゃ何も変わらんよ!」
(わたしに固有魔法があれば……!)
無い物ねだりだとしてもつくづくそう思ってしまう。魔法があれば、魔法がない自分は、と。どうしたら魔法が発現してくれるかもわからないのに……!
『魔法はイメージの力だ』
ストリィ先生の言葉を思い出す。魔法はイメージの力、糸では強度が足りない。ならば
ガキィン!
「ふぅン」
わたしは魔力で糸よりも強固な鎖を形成し、腕に巻き付けて剣を防いだ。鎖をモチーフとすることで魔力がより硬くなるようにイメージできたわけだ。
「ま、及第点てとこやね。並の攻撃ならそれで防げるんやない?」
パキン!
「並やったらね」
鎖は断ち切られてしまった……。
「ベラ……お前そーいうとこだぞ」
ヴルカさんが呆れたように言う。厳しいけど、これもベラさんなりの忠告なんだろう。実力相応に気をつけろという意味の。
「魔法は無いし、まだまだやけど、センスはある方や。いざとなったら身を守るくらいはできるやろね」
まだ戦って勝つだけの力は無い。でも、戦えないよりましだ。
「ウチらはそろそろ戻るわ。気ぃつけて帰られ」
「ありがとうございます!」
今はまだ遠くても、力を磨いていつか自分で戦えるようになるんだ。その先にわたしの目指すところがある。
ベラさんたちの背中を見送ろうとした矢先
「ベラ!連絡聞いたな!?アズリア!ラミコ!今はまだここにいろ!」
「えっ、ど、どうしたんですか!?」
「魔女が出たんや。今は街に戻らんほうがいい」
魔女。戦いたいわたしにとっては願ったり叶ったりだ。
「あのっ、わたしも連れてってくれませんか!?」
「アズちゃん!?」
「さっき身を守るだけの力はあるって言いましたよね。お邪魔にならないよう隠れてますから!」
「アズリア」
わたしの懇願はヴルカさんに真剣なトーンで制された。
「アタシらはな、お前らを守りながら戦えるだけの力はある。でもな、わざわざ戦いに巻き込む理由は無ェんだ。じゃあな」
どうしようもない正論を放つとともにヴルカさんたちは走り去ってしまった。
「アズちゃん、今は2人の言う通りここで戦いが終わるまで待ってよう?ね?」
その通りだ。それが正しい。絶対にそうするべきなのはわかる。でも
「ごめん、ラミコ」
わたしの譲れない本音は絶対に正しくないことだから。
「あ、アズちゃん!?待って!」
2人の後を追って走り出す。わたしは、過ちを犯したくて戦いたいんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます