第5話

東京駅に着き数十分ほど構内をうろついていたがなんとなく関東よりも遠くへ行きたいと考えて新幹線乗り場口の自動券売機のところに来て路線図や乗車時間が表示している電光掲示板を眺めていた。


「秋田か……」


僕は先日連絡が来た祖父母の事を思い浮かべて秋田行きのチケットを購入し東北新幹線の改札口に向かいホームへと上がっていくとまばらにいる人たちの目線を見ながらしばらく待っていた。やがてホームに新幹線が来て停車すると清掃員が中に入りその後車内へと急ぐように入っていった。

指定された番号を確認して座席に着き他の席を見渡すと今日が土曜日ということもありほとんど満席に近い状態で人で埋め尽くされていた。数分後に新幹線が動き始めてゆっくりと都内の景色が消えていくように視界から流れていった。


一時間以上経ち福島を通過した頃眠っていた響がぐずりだしたのでトイレへ行きおむつを替えてあげてから座席に戻り、彼が何か言葉を発するとそれに合わせて身体を撫でてあげた。更に時間が経ち盛岡に着いて一旦ホームに降り反対側の停車している新幹線に乗り換えをして乗車し、窓の景色を眺めていると隣に座っている七十代くらいの女性が僕に声をかけてきた。


「かわいい赤ん坊ですね」

「ああ、はい……」

「秋田まで行くんですか?」

「そうです。実家があるものですから……」

「お父さんそっくりだね」

「似て……いますか?」

「ええ。目元とか優しい眼差しをしている所とかね。良い子ね」

「ありがとうございます」

「あのこれ、よかったら飲んでください」

「お茶ですか……あなたは飲まないのですか?」

「ちょっと多く買ってしまって。荷物になって申し訳ないけど着くまでの間それでゆっくりしていた方が良いですよ」

「わざわざありがとうございます。いただきます」


その後大仙市の大曲駅に到着して、改札口を出た後に市内にいる遠縁で叔父の従兄弟にあたる坂城航大に電話をかけてみた。すると妻の詩織が出て僕の声を聞いて驚いていた。


「大曲に来てる?何さどうしたの?」

「事前に連絡できなくてすみません。とりあえずそちらに伺いたいんです。行ってもいいでしょうか?」

「まあ、いいけど……とにかく気をつけて来なさいよ」


それから三十分ほどかけてタクシーで航大夫婦のところへ向かい家に着いてインターホンを鳴らすと、詩織が出迎えた途端に響の姿にも驚き今時期に来た事が珍しいがとりあえず中に入れと言い上がることにした。


「いやびっくりしたわぁ。突然こっちに来るしいつの間に子どもが出来てたなんて腰抜かすような事をして」

「本当にすみません。僕も突破的に来てしまって宛てがないので詩織おばさんのところに来たんです」

「いつ以来だっけ?もう中学生とかあの辺りから会っていなかったでしょう?」

「はい、そのくらいです。それから母がずっと年賀状や電話でやりとりしていたくらいですよね」

「早速聞くけど、何でウチにしようって決めて来た?」

「……この子、自分の付き合っていた彼女との間にできた子なんです。ただ向こうが育児がいい加減で話を聞いているうちに僕が引き取りたくなって誰にも言わずに連れて来たんです」

「それ……下手したら誘拐扱いにならないか?」

「たしかにそうです。この子を見ていたら……身体が自然に動いて遠くに逃げたくなったんです……」

「逃げてまで連れて来ても後々警察に追われるよ。その彼女のところに事情を話すように連絡したら?」

「嫌です。今、凄く気が動転していて誰にも知られたくないんです。お願いします、今日ここで泊まらせてください」

「全く……その歳になって子どもでもしないようなことをしでかして、どうかしているよ?」

「明日になったら彼女に……琳に連絡します。一日だけ勘弁してください」


すると玄関からこちらに向かって航大が来て僕を見ては彼も驚いて、詩織に伝えた同様の話をすると行く宛がないのなら家に泊まっていいと承諾してくれた。


「そうか、響か。一歳にしては随分落ち着いているなぁ」

「手間のかからない子で僕も驚いています。人の話していることが分かっているかのように大人しいんです」

「まあいい。遠い東京から来て疲れているだろう。母さん、二人を風呂に入らせてやれ」

「ええ、今沸かしに行くわ。もう少しここで待っていてちょうだい」

「はい」

「う……う……」

「響、どうした?」

「ははっ。まだ遊びたがっているみたいだな。俺も抱っこしていいか?」

「はい。響、航大おじさんだよ」

「いやまあ、偉い子だなぁ。初めて抱くのにぐずることもしないな。そうか、膝の上好きか。良い顔しているな」


航大も自分の孫のように何だか嬉しそうに響をあやしていた。その後夕飯を摂ってから浴室へ行き彼の身体を洗ってあげて浴槽に入ると僕にしがみついて少しだけ怖がっていたが湯の温度に慣れてくると声を上げて笑っていた。

それから浴室からあがり身体を拭いて衣服を着てからリビングへ行くと詩織が寒天のゼリーを出してきて響に食べさせなさいと言ってきたので小皿のゼリーをスプーンですくい彼の口元に持っていくと食べては頷いて喜んでいた。


しばらくするとうとうとと身体を揺らしていたので詩織が敷いてくれた布団に寝かしつけて居間から出ると航大がビールを飲もうと言い出してソファにかけてグラスに注がれたビールを飲んだ。

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