第19話 退院と映画の約束


「それでは静井さん、退院おめでとうございます」


 お世話になった看護師さんから、そんな言葉を受け取った俺は病院を出て、教えてないのに、俺が退院した事をどこからか聞き付けた恭弥パッパが手配してくれた車に乗り込み、家に帰っている最中だ。やっぱり俺の事少しは心配してくれたのかな?

 にしても、あの刺された日からたった2日程で退院出来るとは思わなかった。

 ていうか2日間も学校行ってなかった訳だし、余計クラス内で孤立するやんけ…… にしても七宮美鈴がアイドル活動一時休止ねぇ、ゲーム内でこんなイベントあったけな?まぁ、俺はゲームの内容ほとんど覚えてないし、良く分からないが、もしかしたら何らかのストーリーに関わるイベントでも発生したのだろう。


「ん?」


 AINEアインの通知音が鳴ったので、開いてみると輝夜と愛華からメッセージが来ていた。

 あ、分からない人の為に説明すると2人とも昨日お見舞いに来てくれた時に交換したんだよ!って、俺は誰に説明してるんだ……というか、何々?「明日学校終わったら2人で映画見に行(きませんか)かない?」だって…2人とも同じ様な内容のメッセージだが、2人でって言ってるし、恐らく偶然内容が被ったのだろう。


「困ったなぁ」


 どっちかを選ぶなんて選択肢は……後々怖い事になりそうだし、何故だか嫌な予感がする。

 これは3人で見に行くルートが正解かな。にしても何の映画見に行くんだろ?


《何の映画見に行くの?》既読


 既読付くの早くない?両方送ってから1秒も経たずに既読付いたんですけど……まぁこれが普通なのかな?


愛華【君の名前を叫んでという恋愛映画よ】


輝夜【あの木の下でっていう恋愛映画です!】


 どうせ同じ恋愛映画なら、愛華も輝夜も同じタイトルの映画を見たいって言ってくれよ……何で同時期に恋愛映画が2つもやってるんだよ、どうせB級だろ。なんて思いながらfoutubeで君の名前を叫んでと検索してみる。


[映画『君の名前を叫んで』予告編(60秒)]

  237万視聴 2ヶ月前


 うん…?めっちゃ再生されてるなぁ、出てる人達もこの世界ではめちゃくちゃ有名な俳優ばっかだ。

 めちゃくちゃA級映画じゃないですか…B級とか言ってすいません…脳内で映画の制作陣に謝罪をして、動画を閉じ、次にあの木の下でと検索する。


[映画『あの木の下で』予告編(90秒)大ヒット公開中]

  280万回視聴 3ヶ月前


 こっちもめちゃくちゃ再生されてる……君の名前を叫んで同様、出てる人達が有名な俳優ばっか。

 マジでどうしようか、どっちもめちゃくちゃ人気な映画だし、3人で見に行くとして、どっちかを選ぶかって聞かれたら…答えられない。

 あ、ていうかメッセージ返してなかった。早く返さなければ…そんな使命感に駆られAINEを開こうと、ホーム画面に戻ると、AINEのアイコンの右上に30という数字が表示されていた。 

 あれ?さっきは何も表示されてなかったのに、アイコンをタップしてAINEを開いてみると、愛華からは12件のメッセージが来ており、輝夜からは18件のメッセージが来ていた。


「え〜……まだ2分も経ってないんだけどなぁ」


 先にメッセージの件数が少ない愛華の方から開いてみると、こんな感じのメッセージが来ていた。


《どうかしら?》

《行かないの?》

《少し返事が遅くない?》

《今誰かと一緒にいるの?》

《退院したのよね?》

《もしかして輝夜ちゃん?》

《何で見てくれないの?》

《早く返事してくれないかしら》

《ねぇ》

《ねぇ》

《早くして》

《早く》


うーん、少し怖すぎないだろうか?ていうか愛華ってゲーム内でヤンデレ属性なんか入ってたっけな。まだ会って5日ぐらいで異性に向けて良い好意じゃないんだよな。

 いくら100円の中古エロゲだからとはいえ、ヒロイン達がチョロすぎるんですが……まぁエロゲだし、中古だし、常識は通用しない的な?(笑)


《ごめん、少し映画の詳細を確認してたんだ、というか同じ様な誘いを輝夜からも受けててさ、もし愛華が良ければ3人で見に行こ》既読


 まぁ、返信はこんな感じで良いだろう。愛華とのトーク画面を閉じた瞬間、愛華から新しいメッセージが届くが、とりあえずは輝夜への返信を優先する事にしよう。

 さっきまで18件だったのが、25件に増えている。


《先輩、少し返信遅くないですか?》

《そういえば、今回の恋愛映画って先輩と後輩の関係を主軸にストーリーが展開されていくらしいんですよね〜!》

《し!か!も!予告で見たんですけど、どうやら不良達から主人公がヒロインを守るシーンがあるらしいんですよ!》

《これって完全に私と恭弥先輩の、あの日の出来事と一致してないですか!?何か運命感じちゃいますよね!》

《それにしても、先輩本当に返信遅いです》

《もしかして誰かと一緒にいるんですか?》

《愛華先輩とか》

《返信早くください》

《早くしてください》

《早く》

《早く》


 こっちも同様で酷いな…まぁここで一つ言っておくと、俺は別にヤンデレヒロインは嫌いではない。むしろ好きでもある、ていうかヤンデレヒロインなんてエロゲでは定番中の定番属性だからなぁ。

 まぁ一度俺は輝夜と自分の意思で関わったのだ…それで輝夜が俺に好意を向けてくるからには、それに対して責任を取るのは必要な事だ。

 どれだけ重い愛を向けられようと、俺はそれに応える必要がある……まぁ、付き合うとかどうかは別の話だが、だって今2人から病むレベルでの好意を向けられてるんだし、どっちかを選ぶなんて事をすれば後ろから刺されるのは確定だ……まぁそれは冗談だとして、何か良くない事が起こる可能性は高い。


《ごめん輝夜、少し映画の詳細を確認してたんだ、というか同じ様な誘いを愛華からも受けててな、もし輝夜が良ければ俺と愛華と輝夜の3人で映画を見に行かないか?》既読


《そうなんですか、分かりました!では3人で見に行きましょう!沢山メッセージ送っちゃってすいません!》


 納得してくれて助かった……ここで「3人は嫌です。2人が良いです」なんて返されたら、返す言葉に困って、またもや輝夜からの連続メッセージが届く…なんて事態になるかもしれなかったからな。

 そういえば、愛華は何て返事してくれたんだろ。


《そう、分かったわ。本当は2人で見に行きたかったのだけれど、今回は諦めるわ。3人で見に行きましょう。見に行く映画はあれで良いのかしら?》


《その件だけど、輝夜が見に行きたいと言ってるあの木の下でという映画で良いかな?本当は愛華が行きたいって言ってた映画の方も見に行きたいんだけど、あの木の下での主題歌が気に入っちゃって》既読


 これは本当だ。映画の予告の最後の方で流れた主題歌で、男性と女性の歌声が綺麗にマッチしていて、物凄く耳に残る程良い曲だったのだ。


《それで良いわ、ただし!来週の日曜日に私と2人で君の名前を叫んでを見に行く事!》


《あぁ、了解》既読


 まぁこれに関しては了承しても大丈夫だろう。多分…輝夜にもメッセージを送り、返信で了解です!と返ってきたのでスマホを閉じ、視線をスマホから離し、車の窓から見える景色に目を向ける。


「ふぅ…ハーレム主人公って大変なんだな」



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ヤンデレって書くのむずいな〜


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