さまよえる首なしおばちゃん 前編(怪談)

 私がまだ中学2年の頃の話ですわ。


 通学途中に踏切があって、何度か人身事故ありましてん。



 電車にはねられ、遺体が1週間ほど、誰にも気が付かれずそのまんまになっとったということもあった。


 また、その踏切に入った車が暫く停車したままで、そこへ電車が……。ということもあった。

 目撃した同級生の話によると、カップルが乗ってたままらしく、全てが粉々になってたと聞いた。心中かな。


 そんないわく付きの踏切事故の話をひとつ。


 大阪夏の陣では戦場になっとったとか、戦時中はどこそこが死体置き場になっとったとか、古墳から、防空壕まで残ってるようなケガとも地元民は言うてた。

 私は小学生の頃、熱海から引越して来てんけど。

(ケガレチは、調べてみたら〈気枯地〉とも書くらしい)


 何かちょっと、奇行癖があるおばちゃんが当時、その踏切の近くに住んどった。


 昼間っから働くでもなく、ワンカップ片手に顔を赤くしてたり、わけの分からん奇声を上げてたり的な。


 長屋に住んどって、どうやって生計立てるんか分からん謎なおばちゃんやった。



 その、おばちゃん、何でかよう分からんねんけど、踏切りに飛び込んでしもてんな。

 自殺やったんか、イカれたんか判らへん。


 結果、バラバラの遺体になってしまった。



 でも、バラバラになった遺体を回収しても、頭部だけが見つからんかってん。


 どんなに探しても見つかれへんかったって。




 その後、夜にその踏切の界隈を歩いとったら、背後からポンと肩叩かれて、振り向いたら、首の無いふっくらしたおばちゃんやったって、首なしおばちゃんが陽が暮れてくると出るという噂が流行った。


 自分の首はどこ? と尋ね回ってるとかそんな噂やった。

 発声器官がないから、テレパシーを使うのか、身振り手振りで尋ねるのか? とか思ったりした。


 

 ちょっと待ってよ! 私、塾の帰り、すっかり真っ暗になってから、そこを通らなあかんやんか!

 めっさ怖い……!

 せやから、同じく怖がりの同級生の女子、ナオちゃんと一緒に帰るようにしとった。



 私も怖かったけど、ナオちゃんもずっと私の腕にしがみついとった。


 塾が週に何回あったのか、もう憶えてないねんけど、そらもう、しょっちゅう恐怖でガクブルせなあかんかってんな。



 そんなわけで、遂にたまりかねたのかナオちゃんは、私に言った。


「なぁ、私とコックリさんやろう」


 私は、またなんで? と返した。


「首なしおばちゃんの首さえ、発見されたら、もう出えへんようになると思うんよ」


 つまり、発見されてないままになってる遺体の頭部は一体何処に在るのか、コックリさんに尋ねてみよう、というわけやってん。



 今思えばナオちゃんて、オカルト大好き女子やった。

 怖がりやのにホラー漫画やイカレた漫画が大好きやったり、丸尾末広から澁澤龍彦も読んどって、私はその辺はナオちゃんから影響受けたんやった。ちょっと変な女子やった。

 メンヘラな感じはないけど、今で言うと病み系趣味みたいな。昭和の人なら『宝島』読んでる感じの子と言えば伝わるかな。


 私はコックリさんなんて気味悪いし半信半疑やったけど、頼まれたらイマイチ断られへん性格やったから、仕方なしに、放課後の私とナオちゃんしからんようになった教室で、コックリさんやってんな。

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