第21話 炎01

 疲れ果てたレインは自室へ戻るとすぐにベッドへ横になった。そして、どのくらい眠っただろうか……遠くから聞こえてくる兵士たちの喧騒で目を覚ました。兵士たちは怒鳴り合い、騒ぎは大きくなってゆく。


──酒盛りでもして暴れているのか? いい気なものだな……。


 レインは結婚式への緊張とアレンに対する心労が抜けない身体を起こした。月明かりが差しこむ窓辺へ近よると、眼下に広がるウルディードの街並みが赤々と揺らめいている。


──ま、街が燃えてる!?


 レインが思わず身を乗り出すと同時に扉がけたたましく叩かれた。かと思うとジョシュ、ダンテ、ベルが慌てて入ってくる。3人とも甲冑を着こみ、抜身ぬきみの剣を持っていた。



「レイン、ウルディードでいくさが始まった。早く着替えろ!!」



 ジョシュは部屋へ入るなり剣立てに置かれたつるぎをレインへ手渡した。ベルは部屋に置かれた甲冑を急いで持ってくる。レインは状況を飲みこめないまま甲冑を装着した。


「みんな、いったいどうしたって言うんだ……」


 戸惑っていると、鎧の装着を手伝うベルが顔を見上げる。


「僕たちもまだ混乱しているんだ。でも、街中で戦闘が始まって、火の手も上がってる。僕たちはレインを守るためにかけつけたんだ!!」

「戦闘?? 敵は誰なんだ!?」

「……」


 レインが尋ねるとベルは困り顔になる。すると、ダンテが進み出た。


「敵は帝国軍です。詳細はまだわかりませんが、ウルディードで帝国軍同士が争っています。小競り合いという程度のものではありません。戦火は間もなくウルディード城内にも広がるでしょう」

「……」


 レインが言葉を失うとダンテは切れ長の目をいっそう細める。



「おそらく、誰かが反乱の兵をげたものと思われます」



 ダンテはいつも通り冷静に告げる。だが、レインにはダンテの顔が少しばかり喜んでいるようにも見えた。



──このウルディードで反乱……いくさが始まったのか……。



 レインはまだ事態を把握できないでいる。顔色は真っ青になるばかりで、どうすればよいのか見当もつかない。狼狽ろうばいして帯剣に手間取っていると、ジョシュが肩を強くつかんできた。



「おい、もたもたしている場合じゃねぇぞ!! 俺たちのウルディードが攻撃されているんだ。兵士を集めて反撃するぞ!!」

「……わかった」



 レインは大きく息を吸うとジョシュへ力強く頷き返した。すると、窓から外を確認していたダンテが声をかけてくる。



「兵士たちには中庭に集まるように指示を出してあります。まずは手勢を率いてガイウス大帝の寝所へ向かいましょう。きっと、ロイドさまご夫妻も駆けつけておられるはず。急ぎましょう!!」

「「「……」」」

 

 レインたちは互い頷き合い、駆け足で中庭へと向かう。進むにつれてレインの周りには兵士が増えてゆく。誰もが物々しい雰囲気で、深刻な顔つきをしていた。



✕  ✕  ✕



 ウルディード城内にはいくつもの家屋かおくや兵舎が築かれ、それらを囲むように小さな城壁も築かれている。似た建築物が連なる入り組んだ小路こみちはまるで迷路のようだった。それらは外敵の侵入に備えてわざと迷うように造られている。


 レインたちは見知った小路を抜けて階段を駆け上がった。中庭は高所に造られており、周囲を囲む建築物の他に砂岩でできた塔も隣接している。中庭では数十名の兵士がレインたちを待っていた。しかし、兵士の少なさにジョシュが眉を顰める。


「これしか集まっていないのか? 他のみんなはどうした?」

「それが、敵は城内にも侵入したもよう。各所で戦闘になり、思うように集まりませんでした。誰が敵かもわからない有様です」

「何がどうなってやがるんだ……」


 部隊長を務める壮年の兵士が答えるとジョシュは舌打ちをする。しかし、すぐに中庭へ通じる別の入口を見て目つきを鋭くさせた。



「『誰が敵かわからない』って? 向かってくるヤツが敵だ」



 みんながジョシュの視線を追いかけると、帝国正規軍の甲冑を着た一隊がこちらへ向かってくる。全員が殺気立った様子で、先頭を歩く手斧を持つ男はこちらを見ながら大声を上げた。



「ウルドの狼どもだ!! お前ら、狩りの時間だぞ!! たんまり稼げ!!」



 男が叫ぶと後ろに続く連中も一斉に抜刀し、問答無用で襲いかかってくる。敵が迫るとジョシュはレインたちの陣頭に立ち、大剣を振りかざして叫んだ。



「帝国正規軍だからって気後れするな!! レインを守りつつ攻勢をとれ!! 俺に続け!!」

「「「おう!!!!」」」



 ジョシュは先陣をきって斬りかかった。ダンテやベル、そして兵士たちも気勢を上げて斬りかかる。敵味方が入り乱れ、怒号と悲鳴が飛び交う乱戦となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る