ピーナッツ

 仕事帰りに俺はピーナッツを食べながら歩いていた。チンピラ風の若い男が電話をしながら俺の前を通りすぎた。チンピラは財布を落とした。俺は財布を拾ってチンピラを追いかけた。肩を叩いた。

「落としましたよ」

「おお、悪りいな」チンピラはいった。

 会社近くの駅のホームで外国人がパスポートを落とした。俺はパスポートを拾って外国人を追いかけた。肩を叩いた。

「落としましたよ」

「オオ! センキュー!」外国人はいった。

 自宅近くの駅の改札を出たところで、老人が定期券を落とした。俺は定期券を拾って老人を追いかけた。肩を叩いた。

「落としましたよ」

「あ、どうもすんません」老人はいった。

 まったく日本人はどこまで親切なんだと我ながら思った。誰かが俺の肩を叩いた。

「落としましたよ」

 俺は振り向いた。その人はピーナッツをつまんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る