23 アラシ

「…というわけだ、国際テロ事件にかかわっていたグレイローズこと灰原薔薇世、または池井ケイだが、本名がやっとわかった。ロスアンジェルス在住の鶴倫子(かくともこ)だ。またやつらは、アメリカの大企業の共同体がもとになった組織だと思われる」

「大企業の…しかも共同体ですか?!」

若い刑事が、さらに矢場に質問した。

「矢場さん、もう一度確認します。奴らの犯行決行日は明日で間違いないんでしょうか?」

矢場は慎重に答えた。

「…そこなんだが、なぜその日が決行日に選ばれたか、当初徹底的に調べた。するとその理由がわかった」

「と、言いますと」

「その日の午後から、温泉パークは全体のメンテナンスを行うことになっている」

「メンテナンス?」

「ああ、一年に2回だけの日で、機械の点検や内部洗浄、浴場のクリーニングなどが大々的に行われる。温泉パークの温水プールもジェット風呂などの各種浴槽、、大浴場や探検風呂、ローマ大浴場もすべて入場禁止になり、誰もいなくなる」

「なるほど、いざというときの逃亡経路が広がる可能性がありますね」

「温泉客でにぎわう山道も、午後以降はほとんど人が通らなくなるし、それに温泉パークは広くて、中が入り組んでいる。そこに逃げられたら厄介だぞ」

どうやら日にちはその日で間違いない様だ。

だが、山道に人通りが無くなるこの日を狙って動き出したもう一つの集団がいた。

それは卑劣な農園泥棒たちだった。いろいろ情報を集め、収穫時期が近くなるとそっと偵察に行き、ちょうどいい時期に、ごっそりと高級果実などを持ち去ってしまうのだ。

みんな闇夜に紛れるような黒っぽい服装で固め、カメラを警戒して顔を出さず、熟した高級な果実だけを見分ける目を持ち、短時間で運び出すチームワークを持っている。リーダー格の幹部の中には自分でも果樹農園をやっているプロが混じっていて、仲間に熟した果実の見分け方や傷のつかない収穫方法、さらに盗んだ後の売りさばく闇ルートのことまで、徹底的に叩き込む。そして時期が熟せば、闇夜に紛れて農園に近づき、監視カメラからうまく逃れて、根こそぎ奪い去るのだ。

「今回のターゲットは高級イチゴだ。それに新しい品種のイチゴもあるみたいだから、それは鉢ごといただいていく。高く売れるぞ」

独特の土地勘を持ち、警察や農家の目を盗んで闇に紛れて忍び込むとんでもない奴らはまちがいなくこの日、温泉パークのビニールハウスを狙って動き出していた。

さらに近くの山の中で不気味に動く影があった。2メートル近くの巨体、鋭い牙、猛烈な突進力、そいつの通った後の田畑は掘り返され、食い荒らされ、すべてがなぎ倒された。まるで嵐の後のような光景から、そのオスの猪はアラシとよばれて近隣の農家から恐れられていた。賢く獰猛だが、用心深く、罠をせせら笑い、ハンターの気配を少しでも感じれば遠ざかり、身を隠した。アラシは人里に下りればたやすく餌が手に入ることをおぼえ、この温泉パークの自然農園に目をつけ、今夜こそはと牙を研いでいた。そして群れのメスや子供たちを引き連れて、山から徐々に下りてきていたのだった。

そしていよいよ当日の朝となった。秋空は気持ちよく澄み渡り、山の上はもう紅葉で彩られていた。今日午前中まで平常営業する温泉パークは、人であふれていた。葛飾内蔵たちは上下のつなぎの作業着に着替え、葛飾ホールディングスのグループ会社、葛飾アフターサービスへと向かっていた。今日ここの会社で引き受けていた仕事の一つを代わりに引き受け、作業員に成り代わって温泉パークに入り込み、内部からイチゴの新品種を奪いに行くのだ。

「すみません、葛飾ストアーからやってきた作業員です」

窓口で声をかけると、担当の米山さんが出てきた。

「あ、今日、現地でユニット交換をやってくれる方たちですね。こちらへどうぞ」

葛飾たちはユニットボックスのおいてある隣の部屋へと入って行った。

「これが温泉エキス用のユニットボックスですか」

作業用のキャップで黒髪をかくしたトモコちゃんが聞いた。米山さんが答えた。

「ここの温泉で使われているのは、地熱発電で使い終わったときに出る熱水です。ただそれだけでは温泉の効果が低いので、マグネシウムをはじめとする数種類の鉱物をいれたフィルターに熱水を通し、成分を調整しています」

「へえ、じゃあ、本当の温泉みたいな効果が出るんだ」

「美人の湯と言われている弱アルカリ性のお湯に仕上げているそうです。このユニットボックスをを入れ替えることにより、効果が持続します。温泉の浴場用とあとコインランドリー用のものがあるのでとっても手が足りなくて、来ていただいて本当に助かります」

「コインランドリー用もあるんですか?」

さらにトモコちゃんが聞く。

「実はこの弱アルカリ性の水には強力な汚れ落としの性質があり、お肌をすべすべにするだけでなく、洗濯汚れもよく落とすのです。そこでさらに成分を別に調整してコインランドリーにも使っています。ここは夏休みなど学生たちの合宿も多くコインランドリーもフル回転なんです」

しかもおどろいたことに、浴場でもコインランドリーでも専用の弱アルカリ性の洗剤だけを使うことにより、おふろの新井に使った水、コインランドリーの使用水をさらに調整して、野菜などの水耕栽培の英用水に使っているのだという。汚れた水のリサイクル利用だ。実は本当に野菜などが良く育つのだそうだ。

「じゃあ、すいません運搬をお願いします。なにしろ重いもので…」

だが力自慢のミスターGが片手でヒョイヒョイと台車に積み込み、みんなで車へと運んで行った。

「じゃあ、出発します」

米山さんの運転で、一味は何の問題もなく温泉パークへと正面から乗り込んでいったのだった。そしてお昼になり、全館に放送が流れた。

「ピンポンパンポン、予定通り今日は午後から総合メンテナンスがおこなわれます。温泉パークは全館臨時休業となり、立ち入り禁止になります。お客様は速やかにお帰りください…」

もともとかなり前から予告されていたことなので、温泉客は騒ぎになることもなく、それぞれの宿泊先へと帰って行った。機械のメンテナンス業者や、クリーニング業者などが入れ替わりに館内に入場し、夜5時から業種によっては夜7時過ぎまで作業が続けられる。

さらにそれらの人波に紛れて、多数の私服警官もパーク内に潜入し、手分けして警備にあたる。

矢場刑事は、道路の封鎖、犯人確保の体制もすでに整え終わり、号令を出すだけで警察は動き出すように配置されていた。

そしてそれからしばらくして、2台の車に分乗したツクシや村長たちが、シークレットファイブとともに到着したのだった。監視カメラシステムを搭載したあのミニバンは農園の駐車場に乗り付け、さらにビニールハウスの近くへと移動していった。

村長は吉宗先生とともに農園全体の監視カメラや害獣撃退ロボなどの配置について、最終的な決定をするという。さらに吉宗先生は、決定後、警察の矢場刑事とあって、警察との協力体制をとるという。さきほど引き上げたはずの温泉客だが、この中にもあやしいやつらが混じっていなかったか、帰ったふりをしてどこかに隠れていないかなど、気になることはたくさんある。メカに強い池橋礼とツクシは、さっそく大きな荷物を車から降ろして、エッグワンやオオカミロボの準備だ。力自慢の激昂も手伝って、ビニールハウスの方向へと、台車で機材を運んでいく。そしてもう1台の黒いメルセデスベンツが農園の駐車場に到着する。降りてきたのは黒の姫、セクシー美女安徳寺ミツことアンミツ、そして白の姫子と超能力美女、真加田宮夏、美女二人のそろい踏みだ。そしてメルセデスベンツからはもう一人、ぴっちり髪を結いあげゆったりと車を降りてきたのは、近くの有名旅館湧水館の大女将、有賀タミだった。そう、いつもは化粧もせずおばさん軍団のリーダーとして動き回っていたのは仮の姿、大島紬を粋に着こなす、シークレットファイブのリーダー、大女将、有賀タミだったのだ。

「あらあら、夏さんが来ただけのことはあったわね。すばらしく腫れあがったわ」

有賀タミさんの言葉に、夏は、不思議なことを口にした。

「今宵は満月、赤い月に、闇の牙が光るでしょう…」

それは予言だったのか、何だったのか…?。もう一人の黒の姫は現場の詳細なちずや資料に目を通し、周囲に目を配りながら静かに歩き出した。

「ではみなさんまいりましょう。こちらですよ」

葬儀会場の場所を出席者に知らせ導く葬儀屋のエリートである、彼女の頭の中には、もう温泉パークや農園の完璧な地図が入っていたのであった。

やがて秋の日が暮れ、満月がゆっくり東の空に昇ってきた。静かな温泉パークの中では点検業者やクリーニング業者が忙しそうに動いていたが、それも終わりをつげ、丸い今夜の月は時折雲に見え隠れしながらいくらか赤みを帯びた妖しい姿をのぞかせていた。秋の虫の音が宵闇に響く中、パーク内は徐々に音もしなくなり、再び静寂に包まれていった。

「池橋さん、やっとオオカミ1号から3号までの設置が終わりました」

「ご苦労様、今回は僕も勉強になったよ。きっと本番でも役に立つと思うよ」

自然農園側には害獣除けの電気柵が設置されているが、果樹園のほうにはまだ設置されておらず、さらに広大なビニールハウス側には全くない状態だ。池橋礼は台車を押して農園やビニールハウスの外側にエッグワンを等間隔で設置していき、組み立て終わったオオカミロボの1、2、3号は農園とビニールハウスの境目辺りに並べられた。

夜になって改めて驚いたのは、監視カメラも少なかったが、普段、夜に作業がないこの辺りはとにかく街頭や照明が圧倒的に少なかったことだ。

外の農園は原則真っ暗、、広いビニールハウスももともと入口にしか証明がなかった。センサーに何か反応があればエッグワンのライトが光るはずだが、そのほかにも緊急用で好きな場所でライトがつけられるドローンライトがいくつか用意されていた。

警察は、吉宗先生と打ち合わせした通り、こちらの監視カメラシステムを見張るミニバンに一人つきっきりになり、なにかあれば全体に知らせて動き出す体制がとられていた。あとは農園とビニールハウスを中心にいくつかのパトロール班画連絡を取りながら巡回していた。

今日は、ビニールハウスのすぐ隣にある4階建てのラボの1回の小部屋が控室となり、みんなそこでじっと待っていた。ここには電機も通り、トイレも自動販売機もあった。監視カメラシステムを積んだミニバンもすぐ前に停車し、ここから電気をもらっていた。

最初の1時間ほどは何も起こらず、みんなただ黙って緊張して待っていた。ただ一人、有賀タミさんだけはリラックスして、みんなに持参したリアルエビせんべいや抹茶味のプチケーキ屋暖かいコーヒーなどを進めてくれた。さすが大物だ。やがて有賀タミさんのところに一本の電話が入る。タミさんがガラケーの携帯を出して応対する。

「ふむふむ、もともとの温泉客に特にあやしい奴らはなく、さらに突然飛び込みで泊まりに来たり帰ったりするおかしな客もいないのね」

各温泉宿の調査結果を若女将がまとめ、大女将であるタミさんに報告してきたのだ。

「怪しい奴らが温泉客に交じって出入りした可能性はほとんどなさそうね。そっちのほうは安心して」

さすが大女将、知らない間にいろいろ調べておいてくれたようだ。たのもしい限りだ。

将軍こと、吉宗先生もどっしりと構え、地図などの資料に目を通し、作戦を練っていた。

黒の姫、安徳寺ミツことアンミツは、時々警察のパトロール舞台に同行し、辺りを実際に歩いて様子を探っていた。真加田宮夏と月光は、ただ静かに座して、精神を集中してその時に備えていた。村長は、情報を集めたり、あちこちと連絡を取ったりしていた。

ツクシは控室とモニターのあるミニバンとオオカミロボを設置したビニールハウスの間を行ったり来たりしていた。

雲が少し出て、月が隠れた時だった。最初の動きがあった。ミニバンに詰めていた池橋礼と、パトロールに出ていたアンミツが、二人同時に控室に飛び込んできた。

「ビニールハウスに侵入者!!」

1台のエッグワンが侵入者に反応し、遠くで警報が鳴っている。一体何者だ、ツクシたちはミニバンに入ってエッグワンの画像を確認する。

入口から一番遠い奥の山側の辺りだ。何人もの人影がカッターで切り込みを入れられたビニールハウスの隙間からもぐりこんでいくのがモニターに映る。エッグワンの設置個所から少し離れていたため、画像が小さく、誰なのかの判別は難しい。みんな目立ちにくい黒っぽい洋服で、マスクやタオルで顔を隠しているようだった。吉宗先生の目が光った。

「ああ、やつら農園泥棒だ。イチゴの鉢がどんどん運び出されてる?!」

「池橋さん、すぐに分析して!」

実は先日、害獣の体につける信号発信タグがあれば、どこの位置に移動してもわかると聞いて、アンミツが、すべてのイチゴの鉢に信号発信タグを取り付ける提案をし、池橋が取り付け、元の場所から動くと、スマホで警報を出すシステムになっていたのだ。そして池橋のところでは、場所と、その移動する数がくわしく確認できるのだ。

「ああ、やはり山側だ。5鉢、いや10鉢、どんどん動いてるぞ」

一緒にモニターを確認した警察官が連絡を取り、すぐにパトロール隊がそちらに駆け出していく。

「急いで!」

犯人たちは手慣れた様子で、いつの間にかバケツリレーのやり方で、イチゴの苗が運び出されていく。驚いたのは、エッグワンの警報が鳴っても、ライトが鋭く光っても、彼らは動きをやめない。ぎりぎりまで取れるだけ取ろうという作戦らしい。

と、近づく警察の動きが見えたのか、突然作業は終わり、なんと人影は道も何もない山のほうへと駆け出して行った。

「マテ、逃げても無駄だ!」

警察の掛け声がモニターから聞こえたが、犯人たちは全く答えることもなく、ただ無音で何も証拠を残さぬように、イチゴの鉢をいくつか持ったまま、走り去ったようだった。モニターを見ていた吉宗先生がつぶやいた。

「なんで山に駆け込むんだ。あっちには道らしい道はないはずだが…」

でも、なぜか信号発信タグの信号は、道も何もないはずの山の中に1列に動いていく。だが、追いかけた警察部隊は、山のなかに1歩入ると、その中に急きょ草や枝を刈りはらって作られたと思われる小さな抜け道を発見したではないか。これならものを抱えていても走って通り抜けることができる。ハンドライトを使って追跡すると、約20メートルほど進んだところで自動車の通れる山道に抜け出たではないか?!

「マテ、待つんだ!」

死に物狂いで追う警察、だが、目の前で小型トラックと軽自動車が走り出したのだという。

「奴らだってプロだ、抜け道を作ることぐらい予想できなかったか…」

作戦負けかとため息をつく吉宗先生。だがすぐに携帯で次の手を打つ。スピードを上げるトラックと軽自動車。中では目立たない黒い服に身を包み、マスクやタオルで顔を隠した泥棒一味がほくそ笑む。

だが、スピードを上げ、これから峠に差し掛かるというその時だった。

「な、なんだ。どうしたって言うんだ?」

トラックと軽自動車は5分も進むと、まさかの検問に引っかかる。そこでスピードを緩めたとたん、周りを警察官に取り囲まれてしまう。前にも後ろにも動けない。あっというまに御用だ。

「矢場刑事、農園泥棒と思われる一味を逮捕しました。盗まれたと思われるイチゴの鉢20鉢も確保しました」

あんな短時間で20鉢も盗んでいたとは…本当に危険な奴らだった。

だがもともとスタンバイしていた山道封鎖部隊が、吉宗先生から連絡を受け、きっちり仕事をしてくれたのだった。

連絡を受けて、みんなはほっとひと安心だった。だがその時、ミニバンに黒の姫、アンミツが再び飛び込んできた。

「まだ別の緊急信号タグが移動しています、確認してください…」

「なんだって?」

急いで場所を確認する池橋。

「今度は山のほうじゃない、ビニールハウスの入り口から、温泉パークのほうへ移動しているぞ」

「それじゃあ、すぐそばじゃない?!」

ミニバンを飛び出すアンミツとツクシ、すると闇に紛れて、こっそりと台車に乗せたごみ箱を運ぶ作業員の後ろ姿が見えた。一人はとても背が高い。

「ちょっと、そこの人、止まりなさい」

だが二人は止まらない。

「怪しいわ。ちょっと、止まって!止まるのよ」

だが二人は、今度は運んでいたごみ箱の中からイチゴの鉢を一つずつ取り出すと、それを抱えて走り出した。追いかけるアンミツとツクシ、捕まるものかとスピードを上げる二人組、だがあわてて背の低いほうの一人のキャップが外れる。ばらっと長い黒髪がほどけて見える。

「一人は女、ちょっと待ってこの間のあの女じゃないの?!」

それはあの組織の謎の女に違いなかった。そして背の高いほうは、あの祭りの夜、月光と戦った男か?

温泉パークの入り口まで走ったとき、謎の女に緊急通信が入った。

「警報装置や部屋と部屋をつなぐモニター画面はもうジャックしました。そして温泉パークのゲートのカギは内側からすでに全部あけてあります。ミスターGと急いでください!」

天才ハッカーの荒川伊代からだった。後ろに葛飾内蔵の姿も見える。中に鉢を持って飛び込んでいく二人、もう一人はミスターGか。アンミツが叫んだ。

「ツクシさん、私が追いかける。すぐに控室のみんなや警察に知らせて!」

「わかったわ!」

どたどたと走り回るツクシ。そのころ控室では、連絡を受けた月光が、すぐにアンミツを追いかけ、飛び出して行った。

「月光さん、私も参ります!」

真加宮夏も白装束のまま颯爽と走り出す。

「いよいよ本番が始まったか…?!」

吉宗先生が警察や池橋と連絡を取りながらつぶやいた。池橋からすぐに連絡が入った。

「確かにドクターホワイトとブラックビューティー、1鉢ずつの信号発信タグの反応が温泉パークの中に消えていきました」

「消えていったということは…」

吉宗先生の言葉に、池橋はすぐに答えた。

「発信タグの電波は弱いので、大きな建物の中に入ると追いきれません。また、中は広いし、入り組んでいるのでなかなか場所の特定も難しいです」

「今、矢場刑事と連絡が取れた、パトロール隊を総動員してパーク内に突入するそうだ。しかし、ゲートのシャッターはかぎが掛かっていたはずだが」

「鍵だけではありません、各部屋を自由にみられるはずのモニター画面も乗っ取られて好きにみることができません。、奴らがどこに逃げたのかわからないように細工されているようです。奴らの周到な計画でしょう。ただわからないのは、4か所ある、温泉パークのゲートや出入り口をおさえてしまえば、やつらに逃げ場はないということです。なぜそんな場所に逃げ込んだのか?もちろん外に出たとしても山道も封鎖してあるわけで…」

「わからない。矢場刑事たちはもうすぐパーク内に突入するはずだ。今はイチゴの鉢をまず取り返さねば」

「わかりました」

だが池橋との連絡が終わったとき、乗っ取られていたはずの控室の部屋のモニターが映った。そしてどこの部屋かはわからない、ただ机に一人の男が座っている映像が強制的に送られてきたではないか!

「いやあ、中村長とお仲間の方々、こんばんは。初めまして」

その男は腰から肩までしか画面に映らず、顔は誰だかわからなかった。

「誰だ貴様は、狙いは何だ」

切り込むダンディーな吉宗先生。その男は不敵に答えた。

「まあいいじゃないか。一度鹿に乗るサルを書いたドクターと話がしたいと思っていたんだ」

男は落ち着いた様子で不敵にも村長に話しかけてきたのだった。

ところが村長のすぐそばに座っていた有賀タミがするどく切り込んだ。

「何をかっこつけてんだい。もう正体はバレバレだよ。あんた、葛飾ストアーの葛飾内蔵だね。その声も、体系もごまかしようがないね」

さすが接客のプロ、旅館の大女将の目はごまかせなかった。だが、1発で正体を見破られてしまった男はそれを無視してつづけた。

「中村長、あなたに一つ聞いておきたいことがあってね…」

男は大胆にも村長に、とんでもない質問を投げかけてきたのだった。

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