寝取られ男は後輩ママに溺れてしまえ

夏川抄

第1話 ちょっと脳が破壊されただけの男子高校生



小学校からの初恋で、幼馴染の彼女が、僕の親友と〇ックスしていたと知ったら。どんな気持ちになるだろう。


僕がまだ中学生だった時の話。


彼女が誕生日だったので俺はサプライズでプレゼントを届けようと彼女の家まで歩いていた。


目視できる距離まで目的地に着きそうなとき、玄関には僕の親友の男。


疑問に思っていると、玄関のドアから彼女が出てきて、親友を迎え入れ、そのまま家に入っていく。


声を掛けそびれたまま、どうなるかと俺は顔面蒼白で、無言のまま心中パニックになった。


当たり前だ。

昨日まで普通に彼女とも寝落ち通話をしていたし、親友とも学校で普通に話していた。

二人が仲いいなんて今の今まで知らなかった。



………



訳も分からず、電柱に隠れたまましばらく座ってたら、偶然見えてしまった。


「嘘だ………」


一瞬、二階の窓から、彼女の恍惚とした顔と、その彼女を両手で抱きかかえながらの汗まみれの男を。


二人はすぐ窓から離れて姿が見えなくなったが、今ので確信を得るには十分だろう。


「そんな………なんで、なんで………」


取り合えず、この場を離れないとと思って、立ちながら、ふらふらとおぼつかない足で歩いた。



「あぁ…………あ”あ”あ”………」


もう一度言おう。


小学校からの初恋で、幼馴染の彼女が、僕の親友と〇ックスしていたと知ったら。どんな気持ちになるだろう。


失恋、気付けなかった不甲斐なさ、彼女と親友の信頼の裏切り。


破壊されるかのような強い衝撃が、脳に走る


そして僕………いや、俺はこの時。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


脳が文字通り破壊された。



自宅に戻ってベットに直行して、寝た。


目が覚めた朝、異様に冷静になっていたが、頭の痛みが引かなかったから、病院に行った。


俺はストレスが原因だろうと指摘されるとおもった。


だが実際に医師からは意外にも、気になるからもっと精密に検査さしてほしいと、願いを乞われた。


良く分からん白い機械に自分の身体を検査された俺は、やや興奮気味にこう告げられた。


「君ねぇ!!これ!!面白いねぇ!!ヒヒッ!」


「え、なになに怖いこわいなんなんすか………」


やつれ気味な俺は絞りかすみたいな声を出す。


「あぁごめんごめん。いや、君の脳みそ、あまりにも珍しくてねぇ………ヒヒッ!!」


言いつつも医師の興奮したまま、説明を続ける。


簡単に言うと、脳に不安やストレスを抱えると、それを抑えるように脳が異常に活性化してるらしい。


「こんな脳の状態。多分、君が初めてダヨぉ!!」と言われた。


正直、自分の頭の中がどうなっていようが今は嬉しくとも何ともない。


そりゃそうだ。面白いと言われたって、さっきまで俺は面白いの対局に居たのだ。

むしろ、不快にならないだけ俺は優しいのではないだろうか。


「じゃあこれ発症例って世界初なんですか?」

「そうだねそうだネェ!!」


驚いたけど、世界に新しい症例を出せたようだ。


ちなみに症状の名前は、俺の今回の経緯も説明した上で『NTR症候群』と名付けられた。


やかましいわ。


大変医師に感謝された後に、俺は自宅に帰った。

しばらくしたらニュースに取り上げられてその医師と一緒に話題になっていた。

ちなみに自分の名前は秘密にしてほしいと言っておいたので、症例者が自分だとバレる事は無かった。


このことは、誰にもしてない彼女にすら話していない。


ちなみに、その中学校で三年間付き合っていたその彼女とは三日前に俺から別れを告げた。


返事はあっさりしたもので、分かったの一言。

正直、ショックだった。


ついでに安心してほしい、俺はその女と一度も〇ックスをしていない。


〇貞だ。



まぁ、高校初日のスタートがこんなんだから、最初の一年間はぼっちのまま高校生活を過ごしす事になった。


と、ここまでが今までの話。


そして、そのまま何もしないでいると、時間が経つのも残酷なことで気が付けば高校二年生になっていた。


「はぁぁぁぁ、高校生活つまんねぇー」


いつものように人気のない体育館裏の段差に腰かけて昼飯を食べながら、ため息をつく。


中学生の時は明るいキャラやってたのと、部活やってたから友達もまぁまぁ多かったが、普段のクラスで根暗キャラよろしくソロ。正真正銘、言葉通りのぼっち。


このまま高校生活も終わるんかなぁ………


正直、諦めかけている。


いいじゃないか、平穏な生活。

いい気がしてきた安穏な生活。

これもまぁ、青春の一つみたいなもんだろ。

授業以外、好きな時に好きな本を読んだり、偶に購買のおばちゃんに挨拶を交わしたて、他愛無い世間話を軽くしたり。

ラブコメのラの字もないが、悪くない。

俺に女の子なんかもう、必要ないのではないだろうか。


キーンコーンカーンコーン



………………



予鈴のチャイムがなったから、トイレで用を足して教室に戻るか。



少しお茶飲みすぎたなと考えながら、階段を上った。


右側の廊下を歩き、そのまま男子トイレに入ろうとしたら、直後に手前の女子トイレから、やたらと髪がさらさらとした黒髪で、つり目の女子が出てきた。


それだけだったら気にも留めなかったが、少し気になる事があった。


おそらく弁当箱を包んだであろう袋を右手に持っていた。


もしや、かの有名な便所メシというやつだろうか。


確かにここはあまり生徒が通るような場所ではないし、悪くないチョイスではある。

まぁ、衛生面はすこぶる悪いだろうが。


「……何か私にありますか?」


彼女の方を見てたら、声をかけられた。


少し見過ぎていたようだ。


「いや、なんでもないよ」


「そうですか」


特に関心も無さそうな様子で、恐らく一年生である女の子は歩き出した。


それにしても、冷たい目をしていた。


勘繰ってしまうけれど、もしかしてさっきの子はクラスで上手くやれていないんだろうか。


少し考えてしまったが、もう少しで授業が始まってしまうので、急いでトイレに入り用を足して、チャイムが鳴る前に教室に入って自分の席についた。


授業が終わったら、そのまま校門を出てゆっくりと歩きながらコンビニまで歩くことにした。


俺は、この穏やかなゆるゆるとした時間が好きだ。


だからわざと遠回りして家に帰るなんて事もある。



俺のお気に入りルートの中には、小さいが綺麗な公園がある。

偶にの贅沢の時は、コンビニで買った菓子などを食べてそこでのんびり過ごす。


今日はその予定で、定席のベンチに座ってお菓子を食べる予定だった。


が、今回は先客がいたらしい。


靴を脱いだまま片足を手で抑えていた。


「どうしたの?」


「貴方は……昼休みの…」


「そう、あの時はじろじろ見ちゃってごめん。普段あそこに人がいないから、珍しくて。」


「……別に、居場所がないから居ただけですが」


「ふーん……。ところでさ、その足、怪我してるみたいだけどどうしたの?」


ずっと先ほどから気になってたから聞いてみることにした。


「………き……」


「ごめん、なんて?」


ボソボソと声を出すもんでよく聞き取れない。


「あっちの木に猫が登っていて、降りられなくなっていたみたいだから、助けようとしたんです。けど、失敗してこのざまです。」


指さす方をそのまま目で追うと、確かに木の上に猫がいる。


「なるほど」


どうやらこの女の子は、猫を助けようとしたが、助けられなくて自分が怪我をしてしまったと。


「……わたしは……猫一匹もまともに助けられない……無力です……」


少女は両手を顔で覆うようにボロボロと泣き出した。


「ちょ、ちょいちょい泣かないで…」


猫を助けられなかっただけで落ち込みすぎだろ…


そう思ったが、口には出さない。


しょうがない。


木を観察してどうやって猫を助けるか考える。



よじ登るのは確かに難しそうで。

普通だったら諦めそうだな。

でも、まあ大丈夫だ。


「……大丈夫だよ、俺があの猫助けて見せるから」


「……どうやって?もうあの木登るの無理ですよ。私が掴める部分折ってしまいましたから。」


「まぁまぁ」


少し深呼吸をする。


………よし。


あの感覚に入るのは久々だし、最悪な気分になるので入りたくもないんだが、仕方がない。

緊急事態というやつだ。


目を閉じ、意識を集中させ、彼女が寝取られた場面を想像する。


「……うっ」


久々に戻ってくる絶望感、そして、己の不甲斐なさ」


想像する。


彼女が、俺の親友とキスをしている姿。

ああ。

最悪だ。


己の心拍数が上がって、冷たい汗が噴き出る。


だが、そこまできてようやく、頭が異様な冷静さを取り戻す。


よし、入ったな。


「……何をしてるのですか?」


「ごめんごめん、ちょっと深呼吸してただけ」


「それにしてはちょっと顔色悪いですけど。あの、無理ならいいです。私がなんとかしますので」


「まぁ、見てなって」


流石に心配させてしまった。


というより、突っぱねますみたいな姿勢しておいて、やっぱこの女の子、優しいのな。


考えながら、猫のいる木まで歩く。



取り敢えず頭の中でいくつかシミュレーションをして、手順を考える。


よし、いけるな。


助走をつけ、勢いそのまま木を駆け登る。

木の枝に手をかけ、新体操の人がよくやる大車輪の要領で枝の上に立つ。


「にゃーー」


「ほらー大丈夫だよー猫ちゃーん」


猫も怯えていたようで、大人しく捕まえられてくれた。


片手で猫を抱えて、もう片方の手で木にぶら下がった後、そのまま地面に降りる。


「ほら、猫ちゃん」


彼女に猫を差し出す。


「あ、ありがとう…ございます…」


ニャーとなく猫を受け取った後、おそるおそる頭を撫でる。



良かったな



「それにしても……先輩、凄い人なんですね」


「え?なんで?」


「だって、さっき。普通の人間には出来ない様な凄い動きしてたじゃないですか」


「あぁ、そういう事。別にちょっとした事情であんな動き出来るようになっただけで、いつもはごく普通の男子高校生だよ」


「そうなんですか?」


「うん、そうなんす。」


「それでも、やっぱり……ありがとうございます。」


そういう彼女はもう一度大事そうに猫の頭を撫でて、俺に感謝の言葉を投げかけた。


あまり表情には出てないけど、心底嬉しそうで、まあ取り合えず、よかったよ。







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