19.手合わせ、二戦目(その1)


 〜トーリside〜

  

 毒が散らされクリーンになった地面。リオから貰った武器やアイテムを確認している僕の目の前にエイティア女王がやってくる。


「さぁ、やっと綺麗になったな。二戦目を始める。我が子らの中でも腕利きを用意した。先程の逆にならぬよう、期待しているぞ。」


「えぇ、僕の出来る精一杯でお相手しますよ女王。」


「トーリ!無理するなよ!虫との相性は俺の方が良いんだからな!」


「大丈夫ですってばクロウさん。心配しすぎです!クロウさんお留守番してたから知らないでしょうけど、トーリちゃん普通に私よりしぶといし強いですから。」


 クロウさんは心配してくれてるけど、過保護だよなぁ、あの人。まぁ実際、いい所見せられてないからね。襲われて、逃げて、連れ去られて、だもんな。蔦とか花とかで誤魔化してるけど本体は球根だから一番小さい。非力な存在として見られるのも仕方ない。女王の蜂達が僕を見る目も、何処と無く舐められてるように感じるし。


 僕の相手は5匹、リオの時と同じくアゴの発達したカルチュアビー・リーパーが2匹に、前肢が鍬のような形になっているカルチュアビー・ソルジャーが2匹。そしてそれらよりも三回り程体躯の大きなカルチュアビー・コマンダー。


 うーん、思ったけどリオの時と大分違くない!?指揮官付き一個分隊とかちゃんとガチじゃん。死なないだけならなんとかなる自信はあるけどこれに勝つの……?そもそも1対5の時点であれだけどね、全員格上ってこれもうリンチじゃんか。リオももっと戦い方を工夫してくれればなぁ……。相手の降参狙いで行くかぁ。


「双方準備は良いな。では、始め!」


「先ズハヒト当テ……ッッ!!敵前逃亡カ!」


「じゃ、ばいばーい。」


 コマンダーが何か叫んでるけど僕は開始早々にリオの武器やアイテムを持ったまま《土魔法》を使って地面へと潜り、小さなスペースを確保する。ちゃんと掘った穴は埋めようね。

  

「逃亡って、僕は植物モンスターだよ?地下が好きなのに理由が要るかい?……この辺でいいかな。」


 『育て、蔓延れ。ここを僕のものとする。《お手軽花畑》』


 短い詠唱に《模倣》、《擬態》、《植物操作》の合わせ技。魔法だけでなくアクティブスキルはこうしたいってイメージする方が効果上がるんだよね。効果はシンプルに僕の蔦の届く範囲内を《模倣》で生み出した植物で埋める。ただそれだけ。でも花畑、なんて付けているけど実際はそんな可愛らしいものではなく、《擬態》で色を誤魔化した「僕」がそこかしこに咲いている。


 うんうん、良く見える。植物って燃費自体はいいんだよね、生み出しさえすれば繋がっている限り感覚の共有が出来るし視覚の確保だってできる。


「っと、MPが切れたか。ポーションポーション、と。……リオのこれ、大丈夫だよね?」


 一応何かあっても大丈夫なように少しだけ蔦の先へ垂らす。うん、変な煙とかは出ない、蔦も熔けてない。大丈夫だね。本体である球根をポーションへ浸し、吸い上げる。


「……ふぅ。大体さぁ、僕は《擬態》とかで騙して捕獲するような搦手タイプなんだよ。正面切って戦うわけないじゃんか。」


「ソルジャー!掘レ、中心二奴ガ居ルハズダ、道ヲ作レ!片方ハ待機!リーパーハ周囲ノ伐採ヲシロ!ソノ後突入ダ!奴ノ好キ二サセルナ!《鼓舞》!女王二勝利ヲ捧ゲルノダ!」


 コマンダーからバフを貰ったリーパーが飛び回りながら僕の出した植物を切り裂いて、露出した地面からソルジャーが僕の元へと掘り進んでくる。切らないでくれよ、折角生やした僕のMPが無駄になっちゃうだろ。

 

「これ《土魔法》で回り固めて生き埋めにでき……ないよねー。掘る事に特化してるんだから土で固めたら駄目か。仕方ない、おかわりが来る前に掘ってきた道だけ埋めとこう。」


 一応試してみた生き埋め作戦は普通に通じず、すぐそこまでソルジャーが迫ってきている。次の手次の手っと。


「ココカ!ミツケッッッ!?!?」


「はい一名様ご案内でーす。《縛り上げ》、と。近づいてくるのにボーッと待つ訳ないじゃん?君、掘れるけど切れないよね?なら土じゃなくて植物で囲んじゃおうね。」

 

 僕の居るスペースを掘り当てたソルジャーが見えた瞬間に《縛り上げ》を発動。これだけじゃ心許ないから、土魔法で周り固めておこうか。窒息は……まぁ仕方ない。終わった時に生きてたらラッキーくらいで。


「とりあえず1匹ね。あと4かぁ……。リーパーが面倒臭いよね、リーパーが。折角の植物が切られちゃうからどうしようか、《土魔法》で埋めたくても飛んでるしなぁ。どの手で行こうかな……。」


 暫し考える。上ではコマンダーがリーパーとソルジャーに指示を出して何かをしようとしている。これ以上植物減らされるとさすがに困るな。


「よし、冷やそう。……ポーションは残り3本か。1本はいざと言う時の為に体に埋めとこう。この世界だとどうか分からないけど蜂は変温動物だもんね、キャタピラーみたいに寒さにも弱いでしょ。ダメなら次だね。」


 《擬態》でそこかしこに忍ばせていた「僕」の目を開く。先程まで緑一色だった地面にちらほらと大きな黄色い花が出現する。魔眼を使う時は《擬態》が解けちゃうけど仕方ない、これで終わってくれると楽なんだけどなぁ。


「リーパー!黄色ノ花ヲ刈レ!何カスルツモリダ!」


 コマンダーの指示にすぐさま反応し、リーパーは近場の花をその大顎をもってバラバラに引き裂いていく。


「それは困るな。全部紛れもない僕なんだから優しくしてくれよ。」


「《凍結の魔眼》『霜の声』」


 《植物操作》を使い角度を調整しなるべく広く、それぞれの見える範囲内に手当り次第凍らないよう出力を下げて魔眼を放つ。それでも秋の終わりくらいの気温にはなるけどね。


「リーパー、マズイ早クシロ!ソルジャーモ手伝エ、花デモ茎デモイイカラ潰セ!」


 寒さは感じるみたいだね。でもこの気温でもあんまり動きは鈍くならないか。


「寒いよねぇ。この大樹海って冬、来るのかな?そうだ、雪とか氷って見たことあるかい?」


「《凍結の魔眼》『六花むつのはな』」


 一段階出力を上げる。この中に水を放置したら凍るね〜ってくらいの気温になった。

 このくらい寒いとコマンダーは流石に動きが鈍くなり、ソルジャーやリーパーに至っては弱々しく体を丸めて身を寄せ合っている。


「これくらいでどう?僕は別にリオみたいに殺す前提で動いてないけど、このまま降参してくれないともっと寒く……。」


「ネ、眠イ……寒イ……ダガ、コノママ終ワル訳ニハイカナイ。コレガ外ナラバ敗北即チ死!コノ程度ノ修羅場ナラ何度カクグッテキタ。舐メルナ!リーパー、ソルジャー、奮エ!《鼓舞》《クイック》《パワーアシスト》!」

 

 ヴヴヴヴヴ、と翅と体を震わせて立ち上がったソルジャーが先程よりも勢いよく地面を掘り進み、そのすぐ後にリーパー2匹が続いてくる。コマンダーは体の大きさ的に一緒に来れないようだけどそれでもピンチ。


「まっずい……。魔眼と《植物操作》で今MP無いんだよポーション吸わないと。そうだ武器!」


 急いでポーションを吸い上げつつリオから貰った槍や斧を構えて待つ。


「ミツケタ!ミツケタ!カコメ!」


「接近戦苦手なんだよぉっ!この!当たれ!頭かち割ってやる!」


 リーチに任せて突く槍や振り下ろした斧は素早さが上がっているリーパーやソルジャーに軽々と避けられ、仕返しにと蔦を断ち切られる始末。それどころか先程拘束したソルジャーも解放された。振り出しに戻るどころかマイナスだねほんと。


「不味い不味い不味い……!ほんとこれだから近寄られたくないんだよ!《凍結の魔眼》、《縛り上げ》!クソッ!」


 早すぎて範囲絞ると当たらない!だからと言って視界全部に放つとどんどんジリ貧になるし、振り回すだけの武器も当たらない。


「仕方ない……っ!自分諸共なんてリオの領分なんだけどな!《土魔法》『地ならし』!」


 適当に掘ったスペースの耐久度なんてたかが知れてる。狭い範囲でもちょっと揺らしてやれば……


 ボロボロと壁が崩れ、亀裂が入る。一回じゃ足りないか。


「ウマルゾ!タイヒダ!」


 慌てるカルチュアビー達。でももう遅いよ。


「させないよ!仲良く生き埋めと行こうじゃないか!それもう一度土魔法『地ならし』!ついでにこれも行っちゃえ!」


 『地ならし』を追加して更にリオから貰った穂先が爆発する槍を壁に突き立てると爆発し、今度こそガラガラと音を立てて地下が崩壊を始める。おまけに《植物操作》と。これで最悪でもリーパーは仕留めたでしょう!ざまあみろ!

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