8.困惑、そして遁走


「黒谷さん!良かった、俺も探してたんだよ!会えてよかっ――」


「そこの草まみれの骨は誰ですか?女の子ですか?浮気、ですか?貴方には私が居るのに?私には貴方しか居ないのに?私は私に出来ることを一生懸命してずっと一人で貴方を探していたのに?それなのに貴方はほかの女と一緒に?どうして?どうして?どうして?」


 首を傾げて牙をカチカチと鳴らしながら問う元美人(蜘蛛)。


 ッスゥーーー......。

 うわやっべえ!何だどうした黒谷さん転生前とキャラクター違いすぎない?すげぇ早口で捲し立ててくるじゃん怖っ!俺もう回れ右して会わなかった事にしたいんだけど。


「待って待って黒谷さん落ち着いて!俺達そもそも付き合ってないよな!?それにリオとトーリに会ったのは偶然!偶然なんだよ!キャタピラーに襲われてたりしたから助けたんだよ。」


「ええ、ええ。分かります。分かりますよ。入間くんはとても優しいですから。手の届く範囲に困ってる者が居るなら例え獣や虫、それこそ骨であっても助けると思います。分かります。……ところで、リオ、トーリ?名前で呼び捨てなんて随分と仲がよろしいようですね?私でさえ呼ばれた事などないのに。」


 はいバットコミュニケーション!前半は聞こえなかったのかな?口は災いの元だね!喋るんじゃなかった!


「そ、それはほら、ステータスに名称の設定があっただろ?リオやトーリはその名前なのであって決して仲良いとか、そういうのでは無いと思うぞ?それにトーリは男だし!」


「えーでもクロウさんトーリちゃんはもう女の子......もがもが」


「バカっ!リオのバカ!余計な事言ってこっちにヘイト向いたらどうするんだよちょっと黙ってて!」


 リオの顔を蔦で覆い隠し締め上げるトーリ。いいぞしばらくそうしてやってくれ。変なこと喋られるとバットエンド直葬だからな。


「女の子二人組……。それにクロウさん……?入間くんも名前で呼ばれてるんですね。私がどれほどその名前を呼ぼうと……ブツブツ……。」


 はいリカバリー!唸れ俺の脳細胞!


「俺の名称クロウにしたんだよ。ほら、このナリだし、他にいい名前も思いつかなかったから。良かったら黒谷さんもクロウで呼んでくれ。是非。是非とも。頼むから。このとおり。」


「ふぇっ?そ、そんな、急に言われても心の準備が……!な、なら、私もイトナで登録するのでそう呼んで下さい!出来れば呼び捨てで!さぁ!」


 よしグッドコミュニケーション!前足2本で顔を隠しモジモジする蜘蛛。なんだろう、サイズも相まって全然可愛くねえ。体長1メートルくらいないか?腹の部分だけでも俺よりでかいぞ。


「……分かったよイトナ。これでいいか?」


「きゅう……。幸せです。転生したばかりだけどもう思い残すことはありません。我が蜘蛛生に一遍の悔いなし、です。」


 情緒の乱高下激しいな。ジェットコースターかよ。


「ずっと探してたんですよク……クロウくん。へへ。良いですね。クロウくんかぁ。クロウくん。クロウくん。クロウくん。沢山呼びますね!」


「お、おう、そうか。好きなだけ呼んでくれ。ところで、イトナは転生してから何をしていたんだ?それにどうやってキャタピラーを操っていたんだ?魔眼って言ってたけど、どんな魔眼なんだ?」


「私は転生してからクロウくんを探してましたよ?ずっと。クロウくんに会うために何でもしました。ええ、私にはクロウくんしかいませんから。クロウくんしか頼れませんから。転生して近くにクロウくんが居ないなんて耐えられませんでした。一刻も早くクロウくんと暮らすためにレベルも上げて進化だってしたんですよ?クロウくんも蜘蛛だったらいいなとは思ってましたが、それはまぁ些細な問題ですよね。亜人になれれば関係ありません。種族を超えた愛、それもまた良しでしょう。一人では探せる範囲には限りがあるので私の《魅了の魔眼》でキャタピラー達に手助けをしてもらいました。便利なんですよ?《魅了の魔眼》。色々と命令聞いてくれるので。炎で正気を取り戻すなんて計算外でした。……チッ。」


 3聞いたら10返ってきた。おかしいな。俺なんか身の危険を感じるんだけど気の所為?それに進化までしてるのこの人?怒らせたら頭からむしゃむしゃされない?大丈夫?


「俺を探してくれてたんだな、ありがとう。とにかく会えてよかった。進化までしてるなんて凄いじゃないか!ステータス見せてもらってもいいか?《ステータス閲覧》。」


―――――――――――――――――――――――――――

名称:イトナ

種族:ひきつける黒蜘蛛アトラクト・アラクノス

Lv:3/20

HP:38/42

MP:27/37

SP:30/30

攻撃力:16

防御力:24

魔法力:20

抵抗力:12

素早さ:15

ランク:E-


パッシブスキル

《暗視Lv2》《???Lv1》《言語理解Lv―》《魅了耐性Lv3》《火属性脆弱Lv8》《???Lv2》《???Lv3》


アクティブスキル

《糸生成Lv3》《???Lv1》《魅了の魔眼Lv3》《ステータス閲覧Lv2》《魔力操作Lv2》《???Lv2》


称号スキル

《邪神の子Lv―》《転生者Lv―》《???Lv1》《外道Lv1》《美しき死神Lv2》《――――》


――――――――――――――――――――――――――


 つっっっっよ!ランク差が開いてるからかスキル見れないものがあるな。中々ゴツイステータスしてるが進化ってそんなに変わるのか。あと詳細も見れない。《ステータス閲覧》のLv上がればランク上の相手でも見れるようになるかな?俺と同じように空欄の称号もあるし《外道》の称号が心なしか光って見えるぜ。


「す、凄いステータスだな。1回の進化でここまで強くなれるのか。」


「いえ、2回進化しましたよ?スモールレッサーアラクノスから、スモールアラクノスに進化して、更に今のひきつける黒蜘蛛アトラクト・アラクノスになりました。クロウくんの安全のためですからね、少し頑張りました。」


 2回!?頑張りすぎだろイトナ!絶対怒らせられないぞ、頭からむしゃむしゃが現実になるかもしれん。


「心強いな……ははっ……。無事に会えたしこれからは仲間、って事でいいんだよな?」


「仲間だなんてそんな、家族・・、の間違いでしょう?大丈夫です、いいんですよ遠慮しないで!前世ならともかく、この世界でならうるさく言う人も居ませんし、ずっと、ずっと一緒に居れます。ご飯が欲しいなら私が用意しますし、強くなりたいならお手伝いもしますよ?家だって糸と植物を使えば用意できますし、クロウくんが望む事ならなんだってしてみせます!私が守ってあげます。私が守るんです。クロウくんは私とだけ居ればいいんです。ねぇ、クロウくん。今なら堂々と言えます。私は貴方が好きです。大好きなんです。愛してます。貴方しか居ないんです。食べちゃいたいくらい好きなんです。病める時も健やかなる時も、私の命ある限り貴方に尽くします。モンスターでも、亜人になっても、例え悪魔でも。変わらぬ愛を貴方に捧げます。だから、だからどうか仲間だなんて言わないで。」


「ヒェッ……!」


 何がどうなったらこんなに好感度バグるの??話が通じねえや!バーサーカーかな?恋人すっ飛ばして自称妻とか怖いんだが?


(トーリちゃんみてー、俗に言うヤンデレ?この人やばくない!?重すぎるって!クロウさんしか見えてないみたいだし、クロウさんに言い寄ってる間にこっそり逃げちゃお?)


(逃げれるなら逃げたいねぇ。逃げれるなら、ね。ステータス高すぎ。僕達の中で素早さ特化のクロウさんでも素早さトントンなんだけど。とりあえずいつでも魔眼撃てる準備しておいて。あと君の頭の中借りるよ。どうせ空っぽだからね。万が一、というより恐らく十が一があるから本体を移動させたい。)


「リ、リオとトーリはどうする?とりあえず合流出来るまで協力する、ってことだったけど。これからの話だ。俺はさっさと進化して強くなって亜人を目指すが。俺達もう仲間……だよな?そうだよな?」


「わ、私とトーリちゃんはほら、お邪魔だと悪いし、二人いれば何とかなる……と思います!ほら!お邪魔ですし!馬に蹴られて……もとい、蜘蛛に噛まれて死にたくないですし。」


「そうそう!僕らは僕らで上手くやるよ。まだ使えない魔法とかスキルも育てたりしたいし、早いとこ味を感じれるようになりたいしね!」


 こいつら逃げようとしてやがる!させるか道連れだよ!


「いやーほら、4人いた方が安全だぞ?数は力だ。頭数いた方がスキルの検証だったり研究だったりもしやすいぞ?それにリオ、お前そのうち錬金するんだろ?俺の羽、欲しくないのか?」


「うぐぐ……それは欲しいです、が!自分の身が一番なのもまた事実なのであってですねぇ!」


 そうやってリオとトーリとあーだこーだと言い合っていると


「ふふふ、なにも心配ありませんよクロウくん。強くなりたいんでしたよね?でしたらほら。いいところに。」


 そう言うと糸を吐き出しリオの体を縛り上げてしまう。


「ええっ!?何するんですかイトナさん!」


「ですから、クロウくんは強くなりたいんです。その糧になって下さい。普通のモンスターを倒すよりも転生者を倒した方が成長しやすいんですよ?」


「……そうだったのか。それをイトナが知ってるということはつまり?」


「ええ、二人ほど。魅了したキャタピラーに誘導させて狩りましたよ?最初の一人は向こうから襲ってきたので正当防衛ですね。心配しなくても大丈夫ですよ。私は怪我はしませんでしたし、彼らは私の血肉となって生きてもらってますから。」


「ほらやっぱりな!僕は嫌な予感がしてたんだよ!《外道》の称号持ってるって事はこっちに来てからやばいことしてるんだって!」


「俺にリオとトーリを殺せ、と?残念ながらそれはできないよイトナ。付き合いは短いけど二人ともいい人なんだ。一緒に行動できないにしても、見逃してあげて欲しい。」


「そうです!私とトーリちゃんはいい子ですよ!今ならなんとお二人を祝福しちゃいます!見逃してくれたら神父役だってしますし崇め奉っちゃいます!」


「逃がしてくれるなら是非とも逃げたいね!冥土の土産に一矢報いるのも悪かないけど折角生まれ変わったんだ、この世界を見て回る前に死んじゃうなんて僕は御免だね!」


「クロウくんのお願いなら叶えてあげたいです。でも、これはクロウくんの為なんですよ?魔眼のLvを上げたいなら、転生者を殺してその一部を取り込む必要があります。襲われた時に折角狩ったから、と相手を食べたらLvが上がりましたので。ほら、私言ったでしょう?彼らは私の血肉となって生きてもらう、と。リオさん、トーリさんには悪いと思いますが、クロウくんの成長の為の礎となってもらいます。」


「駄目だ。彼女達は殺さない。大切な友人だ。」


「大切、ですか。妻である私以上に?私はこんなにも貴方の事を思っているのに?貴方の為なんです。貴方が強くなる為に必要な事なんです。それにほら、リオさんもトーリさんもクロウくんと一緒になれるんです。私は二人きりがいいですけれど、クロウくんが連れてきた人なら我慢します。クロウくんを形作る要素に別の女が居るなんて吐き気がするほど嫌ですけれど、クロウくんの友人だから我慢するんです。クロウくんが強くなる為に我慢するんです。なんで分かってくれないんですか?クロウくん。ねぇ、クロウくん。私は、私は頑張って強くなったんですよ。クロウくんの為に。全ては貴方の為に。なんで?どうして?私よりあの二人を取るんですか?あの二人が悪いんですか?そうですよね?私のクロウくんを誘惑したんですよね?私からクロウくんを取ろうとする悪い人ですよね?なら、要りませんよね。……いいですよ。転生者の肉体を取り込めば魔眼のLvは上がるので。クロウくんは沢山食べて沢山強くなって下さいね。私が狩って来ますので。クロウくんが殺せないなら……私が手を汚せば済む話ですもんね。」


 やべえ言ってる事が支離滅裂だ!誰が妻で誰が夫だよ牙をカチカチさせながら脅すなそれめちゃくちゃ怖いんだからな!

 俺が好きだからリオとトーリを殺す?とんでもねえぞこの女。


「おいリオ、トーリ逃げろ!直ぐにだ!」


「リオ!魔眼で糸を燃やして走って!蔦はこの際燃えてもいい、後で消火するから!」


「了解!《灼熱の魔眼》!行くよトーリちゃん!わっ!」


 糸を燃やしたリオが走り出すと、すぐに足を取られたように転がった。


「私の《糸生成》ってLv上がると出せる糸の特性や太さが自由になるんですよね。見えにくいほど細いけど強靭な糸を張り巡らせていました。逃がす訳、無いですよね?」


 ゆっくりとリオを近づいていくイトナ


「クソッ!せめてリオだけでも!《重力の魔眼》!リオ頭掴んで飛ぶぞ!ここから離脱する!」


「連れてって下さい早く!トーリちゃんの本体も頭の中なので大丈夫です!」


 イトナに全力で《重力の魔眼》をかけて、リオの頭蓋骨をがっしりと掴み、飛び上がる。全速力で空を一直線に突っ切ってその場を離脱する。途中で何度か糸に引っかかって体に切り傷が走るが、関係ない。


「え?なんで?クロウくん?クロウくん?何処に行くんですか?やっぱり誘惑されてたんですね?そうですよね?やはりその二人ですね!忌まわしい泥棒が!魅了したんだな私のクロウくんを!許さない許さない許さないっ!やっと!やっと会えたのに!これから永遠に一緒に居るはずなのに!私のクロウくん!可哀想なクロウくん!私が、私がきっと救い出してみせます!その二人から!貴方の傍に居ていいのは私だけなんです!貴方の隣は私の場所なんです!誰にもやるものか!私のだ!私のなんだ!ああぁぁぁああぁぁあ!!」


 スキルが発動しそうな程の見当外れな恨み言がはるか後方から聞こえる。

 

「ピアノ線じゃねえんだから切れるなよいってぇ……何が誘惑だ自分が《魅了の魔眼》を持ってるってのに。抵抗力対抗なのか防御力対抗なのか知らないが上手く押さえつけられて助かった。」


「怖すぎです。なんですかあの人。あんな人を探してたんですか?あーあ私の魅惑のスリムボディがっ!」


「クロウさんの魔眼がなきゃ逃げれなかった……。切り傷大丈夫ですか?無理しないで下さいね。また助けられちゃいましたね。」


「多少無理してでも遠くに逃げるぞ。俺もなんでああなってるのかは分からない。普通の人だったはずなんだけどなぁ……。俺も恐怖しか感じなかったぞ。狂愛だろあれ。」


 後ろから未だにイトナの声が聞こえる中、少しでも、少しでも遠くへ。簡単には追いつけないくらい遠くへ。全速力で恨み言を振り払うように森の中を翔けた。


【称号スキル:《チキンランナー》がLv1から3に上がりました。】

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