7.襲撃、そして再会

7.襲撃、そして再会

「逃げろ逃げろほら!もっと早く!リオ!お前の全力はそんなもんか!?」


「「「「ギチギチィ!シャー!」」」」


 リオの上をパタパタと先行して飛び回りながら檄を飛ばす。


「待ってくださいー!無理ですってSP足りないです!めっちゃ減ってますって!疲れたー!トーリちゃん魔眼は!?クロウさんも便利な魔眼持ってるんだから助けて下さいよ!いざとなったらここら辺一帯に《灼熱の魔眼》ばら撒きますからね!えーい範囲指定マックス!MP注ぎ込んで視界全部燃やしてやりますよ!《灼熱の―》」


「リオステイステイ!落ち着いて!援護は僕がするから口を動かす前に走って!周り燃やされたら僕だって危ないんだからな!」


「だってほら見て!私やだよあれに轢かれるの!」


 さぁ行こうと黒谷さんを探し始めた途端にキャタピラーに周りを取り囲まれ、即座に逃げ出した。逃げてばっかだな俺。

 原因は十中八九あいつだ、さっきのキャタピラー。リオに魔眼で燃やされる時に断末魔にしてはやけにデカい声を出したと思ったら、《仲間を呼ぶ》で呼び寄せてたらしい。ある者は糸を吐きながら、ある者は体をくねらせながら突進してくるキャタピラー。その数約10匹ほど。

 

 トーリはリオの肋骨に間借りしていて動けず、俺は素早さが高いし空を飛べるため余所見をしなければ逃げ切るのに問題無いため、1番きついのはキャタピラーと素早さがほぼ変わらず走らなければいけないリオになる。骨しかないのに疲れるって大変だな。


「「「ギチギチギチ!」」」


「走れ走れー!ん?おい左前からもおかわりが来た!やばいぞ挟まれた!前は抑えるから右に曲がれ!《重力の魔眼》!」


「なら僕は後ろの足止めを!《凍結の魔眼》!」


「私別に食べるとこないですよー!トーリちゃんですか?トーリちゃんが食べたいんですか!?」

 

 前方からもキャタピラーが群れを成して突っ込んで来るのを《重力の魔眼》で上から押さえつけて足止めをする。

 なんで芋虫が魚鱗の陣で突撃してくるんだよ!統率されすぎだろ!


「クロウさん!広範囲で魔眼の連発はMP的にキツイですよ?ここはいっそ火事になるリスク取ってでもリオに後方を焼いて貰うのが1番かと!」


「やっちゃいますか?もうやっちゃっていいですよね!《灼熱の魔眼》!」


 止める間もなくリオは器用にも走りながら頭蓋骨を180度回して真後ろに魔眼を放った。範囲はそこそこながらMPを結構込めたようで勢いよく辺りの木や草が発火する。キャタピラーも何匹か巻き込まれ地面を転がって消化している。残りは火が天敵なのが分かっているのか散り散りになって逃げていった。

 

 良かった。助かった。危機は去り火の勢いもだんだんと収ま.......収まらねぇ!生木って燃えにくいんじゃないのかよ!キャンプファイヤーみたいになってるぞ。


「おいやり過ぎだリオ!ここら辺焼け野原にする気か!?トーリ、お前の魔眼で何とかならないか?」


「熱を奪う効果で何とかなるかな……?こう燃えてると凍るほど水分が集まるかどうか。《凍結の魔眼》」


 トーリが燃え盛る炎に向けて《凍結の魔眼》を放つと、つい先程までの光景が嘘だったかのように炎が消え失せ、残ったのは葉が無くなり黒々とした幹のみであった。


「ちょっとMP込めすぎちゃいましたかね.......へへへ。」


「どこがちょっとだよ!ちょっとでその辺に生えてる木はキャンプファイヤーにならねえんだよ!」


「消せてよかった.......。も、燃えるかと思った.......火の粉めっちゃ飛んできてて怖かったぁ。……リオ、もう少し節度を覚えて欲しいな?」


「ト、トーリちゃん!肋骨が!私の肋骨と背骨がミシミシ言ってるよ!ごめんって!痛くないけど締め付けないで!」


 リオの体に這わせた蔦でギリギリミシミシと締め上げるトーリ。さっきのでMP尽きてるだろうし折れたら今治せないから勘弁してあげて。


「全く.......リオ、気をつけてよね?僕だって《火属性脆弱》持ってるんだからよく燃えるよ?」


「ごめんってば。でもでも、MP全部つぎ込めばあれだけの事ができるって分かったし、プラスだよプラス!レベルも上がったしね!」


 そこそこ離れてても熱かったもんな。もっと狭い範囲で同じだけのMP使ったら木とかは炭になるんじゃないか?


「にしても、さっきのキャタピラー軍団は一体どうしたんだ?取り囲んだ上に挟み撃ちまでしてきたぞ。《仲間を呼ぶ》だけであんなに集まるもんなのか?」


「集まった中に司令塔でも居たのでしょうかね?位階進化した個体とか、突然変異とか?」


「でも、司令塔がいたにしてはリオが魔眼を使ったら四方八方に逃げていったよね?完全に掌握出来ていなかったのかな。」


「うーん、それは多分私の魔眼の効果が切れたからですかね?苦手な火で正気に戻ってしまったようですね。」


「へー、そうかなるほど魔眼.......っ!誰だ!?」


「ふふふ……やっと.......やっと見つけましたよ入間くん.......っ!」


「クロウさん!リオ!上だ!木の上に何かが居ます!」


 蔦の先に花を咲かせて辺りを見回したトーリが叫び、全員が上を見上げる。


 空間に墨を落としたかのように真っ黒で大きな体躯。それに走る鮮やかな赤と白のラインが目に入った。そして多数の無機質な目が俺を見つめていた。大きな牙を持つ顔に表情は無く、だがどこか柔らかな印象受けた。木の上に銀の糸で巣を張り、8本ある脚でするすると音もなく木から降りてくる。


「ほんとうに、ほんとうに、長かった。たくさん探しましたよ?やっと会えた。私には分かりますよええ、入間くんですよね?」


 俺を入間くんと呼ぶ存在はこの世界においてはただ一人しか居ない。間違いない、黒谷さんだ。

 ――彼女は蜘蛛だった。

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