第17話 盲目の依頼人

 被害者霊全てに知識共有を行い、組織の勉強部屋に放置した。


 結果、五十人近くの人達が様々な事を学び、全員がその知識を手に入れる。


 各々得意分野は当然違うので、得意分野の人達の知識が入りさらに伸びやすい。


 苦手分野は得意に敗北するため、自ずと全員が同じレベルの知識量になる。


 そんな風に知識を蓄えてから蘇生させる事で、今後の生活は問題ない。


 身体は高校生だが、数年は経過してしまっている。


 今後の生活に慣れるかは当人次第だろう。


 だけど、世間は彼女達を見るはずだ。


 なぜなら、死を経験し蘇った貴重で特別な人達であり、頭も良いのだから。


 先生がわたしの仲間になったので、その謝罪を込めており、蘇生後も知識だけは共有できるようにしている。


 わたしと死神ちゃんのような関係になるのである。


 わたし達の事を言わないのなら、他はなんでも言って良いと言っておいた。


 賢い彼女達なら、それらを利用する事だろう。


 ⋯⋯ただ、性格までは共有しないので、悪用される可能性がある⋯⋯善人も当然居ると思うけどね。


 そんな感じで、組織の力も借りて全員を家族の所へ返した。


 喜びに涙する者、遺影の前で報告する者、神へ祈りを捧げる者、関心の無い者、様々な反応を見届けた。


 彼女達は二度と、わたし達に関わる事はないだろう。


 既に彼女達の仕事は終わっている。


 「それじゃ風音先生。今後の対策会議と行きましょうか。もう、引き戻れません⋯⋯引き戻しませんから」


 「ええ。良いわよ。自分も⋯⋯冷静に考えたらなんであんな事したのか、分からないから。でも不思議ね。死神って本当に居るのね」


 それは同感だ。


 先生が覚えている範囲で死神教団について聞いたけど、目新しい情報はなかった。


 やはり、あの呪いに記憶の大半が眠っており、破壊したから消えてしまったらしい。


 「呪いを維持したまま、捉えて尋問するしかないのか」


 しかたないか。


 「先生の他にもわたし達の学校で奴らに関わりのある人に心当たりはありませんか?」


 「分からないわ。居るの?」


 「ええ。あそこは古来に神を降臨させる儀式に使われた土地です。関係はある」


 絶対にだ。


 なぜなら、わたしの今暮らしている家の土地もそうだったから。


 パパの部屋にあった資料的にもそのような形跡のある土地が必要だった。


 「ん? 案内人の仕事だ」


 地黒さんからなので向かう事にする。


 『なかなか前進とはいかないな』


 「そうだね。でも、根気強くしないと⋯⋯わたしが居られる時間も決して長い訳じゃない。もっと、もっと決定的で根本に近づける情報を掴まないと⋯⋯」


 『なぁ、悪善あん


 「ん? どうしたの」


 歩きながら死神ちゃんと会話をする。


 急に死神ちゃんが止まった。


 ただ、死神ちゃんはわたしと魂で根本から繋がっており、わたしにしか見えないモノ。


 簡単に言えば、今見えてる死神ちゃんはわたしの幻覚だ。


 一定範囲をキープするので、わたしが歩けば滑るように移動する。


 直立不動で動くので、ちょっと面白い光景だ。


 『そんなに奴らを追うのが大切か?』


 死神ちゃんが疑問符を浮かべながら聞いてくる。


 大切?


 大切だよ。


 「あたりまえじゃん。あいつらが居たから、わたしの家族は崩壊したんだ。死んだんだ。許せない。許せる訳が無い。だから根絶やしにする。わたしのような被害者も増やさない。死神ちゃんが協力しないならわたし一人でもやる」


 『そうは言ってない。我は主を手助けする⋯⋯ただな。怖いんじゃよ。もしもお主が死んだらって』


 「⋯⋯? 死神ちゃんが居るんだから死ぬ訳ないじゃん」


 何を言っているんだこの子は?


 『そうじゃが⋯⋯くれぐれも気をつけてくれよ。我も全力で護るからの。お主は』


 「うん。頼りにしてる」


 依頼人と会う場所に到着した。


 「来たか」


 依頼人は目を一枚の布で隠している。


 盲目なのかな?


 「はは。こりゃあ凄い人物が来たものだ。なんだい、そのエネルギー量は。私は初めて見たよ」


 「⋯⋯ギャグですか?」


 「ありゃま。私の目が見えないって気づいてた?」


 適当言って当ってたら、少しだけ言葉が出なくなった。


 「それじゃ、依頼を聞きます」


 和服のお姉さんは竹刀袋に長ドスを入れていた。


 魔力を纏っている武具なので、袋をしていても分かった。


 このままダンジョンには行けないから、どこかに置いてくるとは思う。


 地黒さんの司会進行を元に依頼人の内容を聞いた。


 「実は少し前から私の師匠が帰って来なかった。ダンジョンに行ったきりね。だから捜索したいんだ。案内人とお付きの者は腕が良いと聞いた。それに⋯⋯もしも師匠がこの世を旅立っていたら⋯⋯」


 悲しみとは違う感情を感じる。


 「その人に会って、何を聞きたいんですか?」


 わたしはド直球に聞いた。


 「(珍しいな悪善がここまで話すとは⋯⋯成長したな)」


 なんか急に地黒さんがほっこりした笑顔をしだした。


 怖っ。


 「ああ。実は師匠から教わっていた剣術の奥義、それをまだ教わってないんだ。それが心残りでね」


 「奥義を教えて貰えるなら、死者でも構わないと」


 「言い方が酷いけど、そうだね。師匠は人間だからさ、寂しさはあるよ」


 にしても彼女のような強者が一人で行くのを拒むダンジョンか⋯⋯。


 行きたくないな。


 「ちなみに彼女は依頼料を前払いであり、かなりの高額だ。この依頼を受けるなら、六十万は案内人の手に行くぞ」


 「準備してください」


 地黒さんから述べられた超重要情報により、わたし達はダンジョンに向かう。


 そこはAランクでも中々行かない、最悪な環境での探索となる、『マウンテン氷河』だ。


 吹雪が吹き荒れる、雪山である。


 「君はそのままで大丈夫かい? かなり寒いよ」


 「問題ないです」


 わたしは黒パーカーだけで十分だ。


 寒さも、意識すれば感じる事は無い。


 「そちらも大丈夫なんですか?」


 「ええ、私は感覚が無いので」


 地黒さんだけが防寒着を着込み、ダンジョンに向かった。


 依頼人の武器は長ドスである。


 「お、ラッキーだね。晴れ天候だ」


 基本吹雪のこのダンジョンだが、稀に晴れの時がある。


 その時は魔物は弱体化するため、良い感じの狩り時なのだ。


 天候はランダムなので、探索者がこぞって溢れかえる心配は無い。


 「それじゃ、手当り次第で行くしかないので、良いかな?」


 六十万。


 「問題ありません」


 「こっちもだ。長丁場になりそうだな」


 手がかりは師匠と言う人が最後に来たのがこのダンジョンだと言う。


 もしかしたら、依頼人から姿を消すための嘘かもしれない。


 だけど、それはないと依頼人は断言する。


 人間だから逃げたと思ったわたしに少しだけ怒りを見せていた。


 「信頼⋯⋯死んでいないと言う信頼か」


 だから彼女からは悲しさを感じない。


 『なぁコイツ、地黒じいちゃんと同業か?』


 「それは違うと思うよ」


 依頼人に取り憑いてる霊を吸収しながら感じる。


 この霊達はただ、彼女の傍に居たかっただけであり、恨んでは無いと。


 まぁ、ただの枷であり、守護霊でもない霊が長く取り憑いてると危険もあるので、成仏させるけどね。


 「(急に独り言を⋯⋯怖)」


 なんか一歩、依頼人がわたしから距離を取った。


 なんでやねん。


 『グロオオオオ!』


 「イエティか」


 雪男⋯⋯三メートルかな?


 でっか〜。


 「いや、ここは私が」


 長ドスに手を伸ばし、高速で動いてイエティの首を刎ねる。


 イエティは死んだ事に気づくのが少しだけ遅れていた。


 血が噴水のように出て来て、白い地面を赤く染める。


 「居合、瞬影斬」


 ただその光景を見ていたわたし達。


 「あれ? なんか反応薄くない?」


 え、なんか反応した方が良かったの?


 地黒さんを見るけど、目を逸らした。


 まずい。


 依頼人この技に結構な自信があったようだ。


 わたしから見たら、ただ速く動いて殺しだけである。


 あの次元のスピードは⋯⋯遅いと思う。


 いやまぁ、死神ちゃんや地黒さん、あの狂犬と比べるのも酷か。


 「なんか哀れまれてる? べ、別に今の本気じゃないですからね!」


 「大丈夫。それは分かってます」


 だって今の⋯⋯魔力の強化無しでやってましたからね。


 イエティの首を刎ねるなら、わたしも地黒さんも強化しないといけない。


 わたしってか、死神ちゃんが。


 『お主の身体がもっと強ければ⋯⋯』


 依頼人レベルは無理よ。


 ん〜10歳くらいの平均男子の筋力くらいなら、数ヶ月鍛えたら行けるかも。


 知らんけど。

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