交換ノート

智原 夏

交換ノート

 緑を基調とした、ヨーロッパの女王の肖像画が表紙に印刷された、厚さが薄めのノートには、子供の頃の思い出が詰まっていたはずだ。


 ノートは小学生の時に、美術館に行った時に買った物で、私はそれを、未紗みさという一つ学年が下の女の子との交換ノートに使っていた。

 ある時、そのノートが探しても見つからないことが起こった。

 家のどこかにはあるはずだった。

 だから私は、学校の近くの道で未紗に会った時に、

「明日は必ず持ってくるから」

 と、大したことがないように言ったが、未紗の顔を見るとどうも違っていた。

 様子が何だかおかしい。下を向いたまま何も話してこない。

 けれど、私は、じゃあまたねと声をかけて、その場を立ち去ってしまったのだ。


 次の日、教室で先生が未紗の転校を告げた。

 こういうことなら、もっとあの時もっと話しておくんだった。

 ノートをなくすんじゃなかったと私は後悔した。

 何で異変に気付いていながら、何事もないように去ったのだろう。


 結局ノートは家の本棚の隙間に挟まっていた所を後になって見つけた。

 こんな分かりにくい場所に置いた自分を殴ってやりたくなった。


 今はその交換ノートは手元にない。

 ただ書いていたという思い出だけが残って、未紗の記憶は年々薄くなるばかりだけれど、幸せに暮らしているといいなと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

交換ノート 智原 夏 @kansyon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ