第5話 給食係にしてください! 3

 2人の前に差し出すと、目が輝いている。

 さっきの僕じゃないが、久しぶりの食事! と、頬に書いてある。


 3人一緒にスプーンを持ち上げ、頬張った。


 イメージ通りの味だ。

 玉ねぎの甘さ、セロリ、にんじんがしっかりウサギ肉の臭みを消してくれている。

 ニンニクの風味も少し残せたみたい。

 ちゃんと骨からも出汁がでて、ウサギの脂も馴染んてる。

 器のふちに浮いた脂が旨味の塊のようで、僕は狙ってすくって、飲み込んだ。

 あったかい味がじんわりと胃に広がっていく。

 生姜の風味もいい。

 体がほかほかとするのがわかる。

 肌寒さが残る林のなかだ。ちょうどいい温かさになる。


「……タクト、懐かしい味がするぞ」


 唐突に言い出したのはルースだ。


「昔、母が作ってくれた味に似てる」


 そういうと、ガツガツと頬張りはじめる。

 エレナはもう泣いている。


「……ずっと……ずっとあったかい、味のついたご飯、食べたくて……お城、出てから……ぜんぜん、食べれてなかったから……うっ……おいしいよぉ……おいじい……」


 美人なのにぐしゃぐしゃな顔でスープを頬張る姿に、僕は笑ってしまう。

 気持ちが少し、ほどけた。

 わかる。

 僕の肩が落ちたからだ。


 僕もゆっくりスープを啜る。

 思えば僕もまともな食事をしていなかった。

 なんで僕ばっかり。

 そんなことを思って、祖母の死に顔すらしっかり見ないで……


「ばあちゃ……」


 喉が詰まる。

 確かに厳しかった人だけど、僕にとっては唯一の肉親で、親だった。

 貧乏で、辛いことの方が多かったけれど、それでも楽しかったこと、祖母と笑い合ったことがなかったわけじゃない。


 もっと大事に過ごせばよかった。

 最後の時間は、最後だけだったのに……


 ひと口頬張るたびに思い出す。

 祖母の優しい表情が、胸に、痛い。痛い。


「ごめ……ばあちゃ……」


 それでも僕はスープを頬張った。

 少し塩味が強かったかもしれない。


 



 ──気づけば、鍋の中は空になっていた。

 僕は持っていたハンカチで顔を拭って鼻をかむと、2人に向き合う。


「お願いします。僕を給食係にしてください! 近くの町まででいいので!!」


 土下座の勢いで地面に頭を下げたとき、肩を押し上げられる。


「頭をあげてよ、タクト。絶対あなたを近くの町まで送り届ける。それまで、食事、よろしくね!!!!」


 ルースも親指を立ててニッコリ笑う。


「さ、タクト、夕飯、どうしようか」


 僕の特技は残りもので2品作ること。

 今日の夕飯も2人に満足してもらえる。そう、確信しているが……


「この先、クエストで、小さめだけどドラゴン退治があるんだよ。しっかり腹に詰めておきたくてさぁ」

「だよね、ルース。タクトのご飯、とっても楽しみ!」


 近くの町まで、かなり遠い気がしてきたかも。


「行くぞ、タクト」

「行こう、タクト」


 振り返り呼んでくれる人が一時的にでもできたことが、僕にとって、今、支えになっている。

 不安と期待に押しつぶされそうになる背中を僕は無理やり持ち上げた。


 ──この一歩を、僕は人生で忘れられないと思うんだ。

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メシマズ勇者の給食係 yolu(ヨル) @yolu

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