ごめんねだけ耳に残った七変化

ねこ沢ふたよ

第1話 紫陽花の道

 雨の日、いつものよう一緒に帰る。

 付き合い始めた時には、一緒にいるだけでドキドキして楽しかったのに。黙っていても一緒にいるだけで心が満たされたのに。


 あなたが向こうを向いたまま、私の言葉に「ふうん」「ああそう」なんて、適当な言葉を返すのが辛い。


 ――分かっている。


 あなたの気持ちは、同じ部活で最近仲良くなった後輩の彼女に向ていることを。

 私には、もう興味がないことを。


 紫陽花の咲く道を無言で歩く私達。


 彼女がいなかったらまだ私を好きでいてくれたの?

 私がもっと彼女みたいに美人だったら……彼女みたいに明るい子だったら……色々思うことはあるけれど、私ではもう駄目なんだとは、分かっている。


 だから、唐突に出た「別れようか」の一言に、「うん」とあっさり返した。

 今日は雨だねくらいの味気ない別れの言葉。


 「どうしてよ」なんてなじる必要はない。だって、理由は分かっているから。


 いつもは、別れがたくてずっと立ち話をしていたいつもの分かれ道。


「ごめんね」


 あなたのその言葉だけを聞いて、私達は、別々の道を歩き出した。

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