第27話 コロニー
さらに森の奥に進むと、足元は険しい火山岩となった。細い道がかろうじて一本だけ通っていたが、霧香はその道を避けた。突然集落かなにかに出くわすとも限らない。なるべく音を立てないように崖を降った。十歩進んでは立ち止まり辺りの様子を探り、蔦が絡み合う草むらを掻き分け……やがて霧香はまたしても断崖に足止めされた。
だが道がある方向を見ると、吊り橋が架かっている。寄せ集めのプラスチックと荒縄の橋で人ひとり通るのがやっとという幅だが、さほど長い橋ではない。せいぜい50フィートで、20フィートほど下を流れる急流を跨いでいた。
その橋の向こうの対岸に集落があった。
霧香は岩陰に身を屈めて集落の様子を眺めた。断崖に沿って木杭や壁板が張り巡らされているためすべてを見通すことはできなかったが、小屋がいくつも並んでいた。中央の広場を囲むように建てられているようだ。物見櫓がひとつ。だが見張りの人間の姿はない。
50ヤードほどの広さがある広場に人が集まっていた。百人以上いる。なにごとか集会でも開いているらしい。
残念ながら声はここまで届かない。集音器付きの望遠鏡があれば……。そうした装備はすべて、メアリーベルの船倉に置きっぱなしだ。
(だがまてよ……)
霧香は背後に伏せている04を振り返った。この子には高性能センサーが多数搭載されている。霧香は携帯端末から04のパッシブモニターにアクセスした。
「04、前方50ヤードの人間たちをできるだけ観察して……」
04の頭部センサーが伸び上がり、ステレオレンジセンサーがフル稼働した。霧香はタコムのホロ画面に04が見ている映像を映し出した。
音……人間のお喋りも拾っている。大勢がいちどに喋っているので聴き取りづらい。記録しているからあとで分析できるだろう。04は正確な人数も数えていた。154人……。熱源探知センサーで捕らえた数だ。画面の右上に半径百ヤードのマッピングデータが表示されている。その画面が霧香の注意を引いた。
霧香の左側、30ヤードあまり離れた崖に人間か、大型の動物がいた……。
やはりじっとしている。
霧香は慎重に身を乗り出し、そちらの様子を見渡した。
いつの間にか集落の人間のひとりに後を付けられたのかも知れない。
「04、待機して」
霧香は何者かが潜んでいる岩陰の背後に移動した。
身を屈めて足音を忍ばせ相手の背後に接近した。
10ヤード手前でその姿を視認した。小柄な、女性の後ろ姿だ。服装は汚れていたが明らかに集落の連中とは違う……。霧香は小石を拾い、その女性の背中に投げつけた。
女性がサッと身を翻し、素早い動きで横に飛び退いた。なかなか良い動きだ。その手には小柄な体格に不釣り合いなショットガンが握られていた。
「ミス・コレット!」
「あらっ……」彼女が呟くのとショットガンが炸裂するのが同時だった。霧香はとっさに藪に飛び退いて火線から逸れた。
「ああ……だいじょうぶ?」
「だいじょうぶじゃない!」霧香は藪から這い出して叫んだ。「いまの音でみんな気付いたわよ!早く逃げなきゃ!」
「そ、そうね。だけど……」信じがたいことに彼女はふたたび集落のほうに向き直り、なにかカメラらしきものを向けた。
「なにやってるの!」
霧香はシンシア・コレットの側に駆け寄って肩を掴んだ。「シッ、邪魔しないで」その手を彼女が忌々しげにふりほどいた。霧香は集落に目を向けた。
広場の人間たちの動きが慌ただしくなっていた。
「なによ、撮影してるの……?」
「静かに!」
原住民が散弾銃の炸裂音の発生源を突きとめようとしていた。何人かが崖縁に立ちこちらのほうを指さしている。
「逃げなきゃ!」
「待ってったら!」彼女はなおも言い張った。じっとポータブルカメラを一点に向け続けている。「もうちょっと……来た!」
「なにが?」
霧香はシンシアが注目しているほうに眼を凝らした。集落のさらに向こうから小さな物体が飛び出していた。
「メカだわ!」霧香は叫んだ。
「そうよ……やっぱり近くにあったんだわ……」
「なにが……?」
「とんずらするわよ!」シンシア・コレットは突然身を翻し、林の奥に向かって駈け出した。
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