第19話 エリス・ノーラン


「おはよアクセル」


家を出ると玄関口に紅髪の少女が眠そうに立っている。


「昨日は緊張しちゃって全然眠れなかったわ…あんたは眠れた?」


「見ての通りだ」


キリッとした顔でティナにグッドサインを返す。

寝癖で跳ねまくった俺の髪の毛を見て、ティナは呆れた顔をしている。


「あんたやっぱおかしいわ…」


「別にいつも通りだけど?」


「それがおかしいって言ってんのよ!」


今日は国立魔法学院の入学試験合格発表日だ。

俺たちは今から学院に行って合格者掲示を見にいく。


まだ朝早いからか、大通りを歩く人はいつもより少ない。

お店もこの時間はほとんどが開店準備中のようだ。


「あんた、試験であれ・・、使ったんでしょ?」


「うん。手も足も出なかったけどな」


「他の人に見られて大丈夫だったわけ?」


「まぁ最後の一瞬しか使ってないしバレてないんじゃないか?」


「あんた呑気すぎるわよ…」


再び呆れ顔を向けてくるティナ。

別に何も変なことは言ってないと思うのだが。。


「ねぇ、あの子も受験者かしら」


ティナが指差す方向を見る。

そこには道の端で周りをキョロキョロしながら歩く1人の青髪の少女がいた。

年は俺たちと同じくらいだろうか。


「そうなんじゃないか?」


「行ってみましょ!!」


「え…おい」


ためらう俺のことなんか全く気にせず、一目散に少女の方へと駆け出すティナ。


(ティナはコミュ力高すぎなんだよ…)


少しため息をつきながらティナを追いかける。

別に知らない子と話すのが億劫とかいうわけじゃない。だって俺はコミュ障じゃないからな。うん。


「そこのあなた!」


「ひっ」


いきなり走って近づいてくるティナに驚き少女の動きが固まる。


「あなたも魔法学院の受験生?」


「あ…はい。そうですけど…」


「やっぱりね!!ちょうどよかった!一緒に学院まで行かない?」


ひきつっていた少女の顔が少し緩む。


「あ…ありがとうございます。でも、私なんかが貴族の方と一緒になんて…畏れ多いです」


「貴族とか平民とか関係ないわよ!これから一緒に過ごすことになるかもしれないじゃない!」


そう言いながらティナは俺の袖をぐいっと引っ張る。


「私はティナ!そしてこっちはアクセルよ!」


「よ、よろしくお願いします。私はエリス・ノーランと申します。」


ペコっと頭を下げるエリス。白いクリップ型の髪飾りがキラキラと輝いている。


「うん!よろしくね、エリス!」


「よろしくな」


俺たち3人は魔法学院へと再び歩きはじめる。


「ところでエリスはさっき何か探してたの?すっごくキョロキョロしてたけど」


ティナが不思議そうな顔でエリスに尋ねる。


「いえ…実はすこし道に迷ってしまって…」


エリスの顔が少し赤くなる。


「…わたし、普段はずっと下町にいたので王都に来ることが全然なくって…

お二人のおかげで助かりました。」


「なーんだ、そういうことね!じゃあ私が今度王都をいろいろ案内したげる!」


「本当ですか…!」


「うんうん!まかせといて!」


話が盛り上がり楽しそうな2人の横を歩くこの俺。

もちろん、話に入る余地など微塵もない。


(なんか俺だけ浮いてないか…?おかしいぞ、コミュ障じゃないはずなのに)


「あの…ティナさんとアクセルさんは幼馴染でいらっしゃるんですか?」


エリスの透き通った水色の瞳と目が合う。


「うん。私たち、親同士が魔法学院時代の同級生で小さい頃から一緒にいるのよ」


「うらやましいです。わたしはこれまで同じくらいの年の友達も全然いなかったから…」


「じゃあ今日から私たちがエリスのはじめての友達ね!ちなみに1番目は私だからね!」


ティナが俺の方をじろっと見てくる。

エリスの1番目の友達という座をどうしても手に入れたいらしい。


「そうだな、今日から俺たちが友達だ。」


「あ…ありがとうございます!とっても、とっても嬉しいです!!」


ニコッと満面の笑みを浮かべるエリスに俺たちはすこし見とれてしまう。


「あんた、めっちゃかわいいわね…」


「えっ,,,,,,,,,」


少し慌てているエリスにティナが腕を絡める。


「このまま行きましょ!」


楽しくお互いのことを話しながら俺たちは学院へと歩く。

朝の大通りに少しずつ、歩く人々が増えはじめだした。

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