第18話 『疾風』のシリウス



「次はお前か…番号と名前を言え。」


「129番、アクセル・ベーカーだ」


シリウスは名簿帳に何かを書き込みながら少しニヤッとしている。


(ドレッドの娘の次はジムの息子か…面白くなりそうだ)



「よし、いつでも来い」


俺はシリウスの正面で拳を握り、構えをとる。

…が、正面に立つからこそわかる。


(隙が全くない…)


横から見ていた時とは比べ物にならないほどその存在が大きく見える。

まるで自分が巨大な熊に挑まんとするちっぽけなウサギのようだ。


だが俺は鬼師匠フローレスとの修行からこのような状況には慣れている。

そう、自分が型にハマらず動き回って相手に隙を作らせればいいだけだ。


(『身体強化!!!』)


体中の魔力の流れを加速させ、一時的に身体能力を向上させる師匠直伝の魔法だ。


「おっ」


シリウスが少し重心を落としたのがわかる。


その瞬間、俺はシリウスの前へ一気に飛び出し、体を落としてローキックをする。


「甘い」


シリウスは軽くジャンプしてそれを難なく交わす。


(かかった!)


俺はその体勢から両手を一気に地面に突き、跳び上がったシリウスのアゴを目がけて逆立ちニ段蹴りを繰り出す。


シリウスはそれを首をわずかに逸らして避け、そのまま俺の腹めがけて蹴りを入れてくる。


「ぐぅっっ…」


なんとか両腕でガードしたものの、俺の体は簡単に吹き飛ばされた。


「いい動きだ。今のコンボも悪くない。」


ゆっくりシリウスが距離を詰めてくる。


「だがある程度実力があるやつには通用しねえぞ。実際俺が両手を使っていたらお前は7回死んでいた。」


「…」


「どうした、もう終わりか?」


俺は立ち上がり、息を整える。


周りの受験生達の視線が集まっているのがわかる。


(あまり見られたくはないけど…やるか)


もう一度シリウスに向かって一直線に走り出す。


「おいおい舐めてんのか?次は本気で蹴るぞ」


シリウスが右足を強く踏み込む。


(今だ……『魂の目ソウル・アイ』!!!)


周りの動きが突然遅くなる。


シリウスやその場にいる受験生たち全員の情報が一気に頭の中に入ってきて、動きや息遣いまで全てが「視える・・・」。


そしてシリウスの形をした薄い光を纏う『ベール』が右足を上げて俺に蹴りを入れようとしているのが「視えた」。


(ここだ!)


俺はシリウスの背後に体を回転させながら素早く回り込み、左手で首に手刀を打ち込もうとする。


(入った…!)


そう思った瞬間だった。


シリウスの動きが一気に速くなり、左腕を掴まれ、勢いのまま投げられる。


「がはっ…」


気づいた時には、首元にまるで刃物でも突きつけるかのように名簿帳があてられている。


先ほどとは全く違う殺気を放っているシリウスに圧され、俺は心の底からこの人のことを「怖い」と思った。


「…まいりました」


シリウスはハッとした表情をし、すぐに俺の首元から名簿帳を引く。


「悪い…つい本気でやっちまった」


そう言いつつ、シリウスが怪訝な顔で俺をみてくる。


「今の動き…一体なんだったんだ?」


「……」


なんて答えるのが正解なのだろう。

正直に答えていいものだろうか。

その場で黙り込む俺をみて、何かを察したのかシリウスがフッと笑いかける。


「ま、お前にも色々あるんだろう。余計な詮索はしないでおこう」


そう言いながら名簿帳に何かをカリカリと書き込んでいる。


「…よし、魔法試験の方に行ってきていいぞ。まぁ頑張ってこい」


「ありがとうございました」


俺はシリウスに一礼し、校庭を後にする。


「次やりたい奴は出てこい!」


芯の通った太い声が、また校舎まで響き渡る。


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