第9話 クレヨンの狼
それから10日が過ぎ、ティナの誕生日パーティの日が来た。
ガルシア邸の広い庭には、すでに30人ほどの貴族がいて、皆ワイン片手に立ち話をしている。
そこにはドレッドおじさんもいる。
この立食パーティには、招待された貴族の子供たちも参加している。
自分の子供に、同じ世代の貴族との将来的なコネクションを作らせよう、という目論見も兼ねてのパーティだ。
淡いピンクのドレスを身につけているティナは他の子供たちと話していた。
楽しそうに笑っている姿を見て、俺は少しだけ安心した。
パーティは3時間程度でお開きとなった。
ガルシア家の使用人たちは、
「これは我々の仕事であり、ティナ様とアクセル様の手を煩わせるわけには参りません。」
と恐縮していたが、俺たちはパーティの片付けを手伝うために残ることにした。
「ティナ…」
「ほら、あくせるもフォークを運んでよ」
スプーンがまとめられた箱を持ちながら、ティナはそう言ってテーブルを指さす。
片付けが一段落つき、俺たちはティナの部屋で休んでいた。
壁際には煉瓦色の魔石と赤い首輪が飾られている。
俺たちは何も言わずに壁にもたれて座っていたが、ティナが徐に口を開いた。
「お父さまが言ってたわ。アンバーはあたしたちを守ってくれたんでしょ?」
「…うん」
ティナが魔石を手に取り、ぎゅっと握りしめる。
目には涙が溜まっている。
「ティナは寝る前、毎日一人で泣いているんだ」
とドレッドおじさんは言っていた。
「あたしが外に行こうなんて言ったから…お父さまのいうことを聞かなかったから、アンバーは死んじゃったんでしょ?」
魔石はうっすらと魔力をはなっている。
アンバーの怒りの雄叫びを思い出す。
俺は胸が張り裂けそうな思いがした。
あの日、外に行こうとティナに言われた時、心のどこかで楽しそうだ、少しくらい大丈夫だろう、と思ってしまった自分が心底嫌になった。
「…アンバーの絵を描いてあげようよ」
何かを思い立ったようにティナが言う。
「…?」
「それでね、アンバーにごめんなさいって謝るの。前にお絵描きしたときもね、アンバーに見せにいったら、喜んでくれたの。」
そう言ってティナは、ベッド横の引き出しからクレヨンと、少し大きな画用紙帳を取り出す。
ティナはそれを開いて、綺麗な紙を一枚取り外す。
隣のページには、赤い首輪をつけた、茶色い狼らしき姿が描かれていた。
「あの日はとっても晴れていたでしょ」
そう言ってティナは青と緑のクレヨンを俺に渡す。
俺たちは湧きあがってくる涙を拭きながら、一生懸命に絵を描いた。
途中でドレッドおじさんが部屋に来たが、その様子を見て何も言わずに戻っていった。
「できたね」
「うん」
他の人から見るとただの子供のらくがきなのかもしれない。
でも、俺たちが心を込めて一生懸命描いたのは、所々ぬれてシミのついた、芝生の上でフリスビーをくわえる一匹の茶色い狼と二人の子供の絵だった。
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