『月下の決闘(二)』
————三日後、
一見、優男風に見える男だが、その眼光は龍を彷彿とさせるほどの鋭さを帯びており見る者に鮮烈な印象を与える。
湖のほとりに立つ男へ一人の女が声を掛ける。
「————
志龍と呼ばれた男が女に向ける眼差しからは先ほどまでの強烈な鋭さは消え失せ、柔和なものに変わっている。
「
「…………」
志龍に優しく声を掛けられた女————
「……奴はまだ来ていないのか?」
「ええ……」
凰珠が小さく答えた時、一艘の舟が緩やかにこちらに向かって来るのが見えた。舟の中心には
「……いーい月だねえ。ここで満月を拝むのぁ二回目だが、やっぱり俺ぁ湖に浮かんだ
そう言うと巨漢————
「じゃあな、オッチャン。ちょっくら行ってくるぜ」
「うむ、ワシは次の客の相手があるでな。凰珠さまによろしく頼むぞい」
「おうよ」
成虎は船頭に返事をすると、跳躍して一気に志龍と凰珠の前へ着地した。
「成虎さん……」
「よう、待たせちまったかい?」
いつもの魅力的な笑みを凰珠にぶつけた成虎は正面に立つ志龍へ視線を向けた。
志龍は
「気が合うねえ、相変わらず」
「…………」
対する成虎も
「……しっかし、人生ってのぁホント何が起こるか分かんねえモンだねえ」
「…………」
「ほんの数日前におめえと再会した時は、まさかこんなことになるなんて思っても見なかったぜ」
「…………」
「なあ、志龍。同じ女に惚れなきゃあ俺たちゃあ、こうして向かい合うんじゃあなく、肩を並べることが
「————もう
どこか名残惜しそうに話す成虎を志龍が強い口調で制止した
「これ以上言葉を交わせば、ようやく出来たお前を斬る覚悟が鈍ってしまう」
「…………」
「言葉は最早無用。何かを語りたくば拳で語れ。私も
言葉の終わりと共に志龍の両の手に光輝く剣が握られた。頭上から注がれる月光よりも
「……そうだな。
「————待って!」
「……お願い……、こんなことやっぱり
「…………」
「…………」
大きな瞳いっぱいに涙を溜めての凰珠の懇願だったが、成虎と志龍は無言のまま拳と剣を下ろそうとしない。
「……どうしたら
悲哀に満ちた凰珠の気持ちが投影されたかのように、満月が分厚い雲に覆われた。
「凰珠、そいつぁもう無理だ」
「え……?」
ようやく口を開いてくれた成虎へ凰珠が訊き返す。
「きっかけは勿論おめえだったが、俺たちゃあもう気付いちまった。眼の前の相手に勝ちてえ、俺の方が
「…………!」
成虎に同意するようにうなずく志龍を見た凰珠は、火の
「————さあて、それじゃあ、そろそろ始めようかい……!」
「ああ……!」
その時、雲に隠れていた満月が顔を覗かせた。再び注がれた月光が合図となって白虎と青龍が同時に地面を蹴った————。
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