第22話 体育祭①

体育祭の開催日を9月の下旬に選んだ先生は天才だと思う。暑くもなく寒くもないこの時期が1番疲れることがないし、10月は少し冷えてくるが文化祭でずっと外にいるわけじゃないので問題ない。


俺が出るのは蒼井が選んだ騎馬戦と楽そうという簡単な理由で選んだ借り物競走だ。


まぁ借り物競走はお題次第では結構荒れることになりそうだが、生憎と俺は好きな人や気になっている人は居ないのでそういうたぐいのお題が出たとしても答えることができない。


答えろと言われたら約束のこともあるので奏音を連れて行こうと思う。


「テントの準備ねぇ……。何クラスあると思ってんだよ先生、全クラス分設置しないといけないんでしょ?」


「1年だから雑用を任されてるんでしょ。別に2年生も準備してるからいいんだけどね」


3年生はほとんど見当たらないがそれは納得できる話だ。ほとんどの3年生は受験のために朝早くから勉強をしていると思うしそれを先生もわかっているからこそ準備に3年生が参加していなくても何も言わないのだろう。


まぁ俺達も3年生の立場になったらテントの設置より勉強を優先すると思うので文句は言わない。


「おはよぉ白神くん。お、蒼井さんも紅葉もおはよぉ、朝早くて僕はまだ眠いんだよねぇ」


「眠い状態だったら怪我しやすいと思うし気をつけてね。ちょっとの怪我じゃ済まないと思うし」


眠そうにやってきた奏音と会話すると、さっきまで隣で作業していた蒼井がこっちをジト目で睨んできてる。


「……女の子ばっかり」


「女の子を怒らせると怖いよぉ? 白神くんってそういう節あるから気をつけてねぇ」


なんのことか分からないが、俺が悪いのか? 俺は話しかけられた人と話してるだけで、その話しかけてくる人が女子ばっかりというだけだ。


とりあえずテントの設置を終わらせて休憩に入るが、昨日のことがあるので奏音の近くに座る。


「昨日まで話してる姿見た事なかったのに、随分仲がいいんだねぇ……」


「蒼井さんには内緒にしてたらダメだねぇ。ちょっと白神くんには手伝ってもらってることがあるんだぁ」


奏音はそう言って昨日のことを蒼井に説明して、そうすると蒼井は納得したようなので俺がジト目で睨まれることはなくなった。


「いやぁ面倒くさそうな事に巻き込まれてるね。男子たちってなんで諦めが悪いんだろう?」


「俺は告白とかしたことないからなんも分からないよ? まぁそろそろ体育祭始まるし移動した方がいいと思うよ」


俺たちはグラウンドの真ん中に移動して開会式という名の校長の独壇場が開かれるがそんなことより朝から紅葉を見ていないのが気になる。


校長の話の後は3年生による選手宣誓があるが俺は紅葉のことの方が気になってほとんど聞いていなかった。


「……何してんの本当?」


紅葉がいると聞いて救護室に向かったが某ロボットアニメの団長みたいな状態でベットの上で寝ている紅葉を見て俺はそう言葉をこぼした。


「テントの設置を手伝ったら秒で怪我した……。この体勢がいちばん痛くないから仕方なく」


「……とりあえずお大事に」


グラウンドに戻ると俺は参加しないリレーを行っていたがほとんど陸上部しかいないので人が変わるスピードが早い。


「蒼井ー、紅葉は怪我だってさ。競技に参加できないと思うから俺が代わりに出ることになったから」


「紅葉って確か二人三脚じゃなかったっけ? それって練習無しで上手くいくものなの?」


今のところ相手すら知らないのだが、確かに練習無しで上手くいくような競技ではないだろう。


というか紅葉のペアの人が俺の知らない人だった場合は気まずさが尋常じゃないことになるのでそれは避けたいが俺の知り合いである可能性の方が全然低い。


「紅葉のペアは僕だよぉ。まぁ転けないようにだけ頑張ろうかぁ」


「知らない人じゃなくて良かったけど勝てそうにないかなぁこれは」


今回の二人三脚は全てのクラスが一斉に走り出して先にゴールテープを切れば勝ちなのだが急ごうとすれば転けるし転けないようにすれば遅くなるだろう。


「臨時のペアだし仕方ないんじゃない? まぁ最下位を逃れるだけでも十分でしょ」


「そうだねぇ、じゃあそろそろ行ってくるよぉ。蒼井さん、嫉妬しないでねぇ」


「しない!」


とりあえず待機場所に向かって奏音と俺の足を紐で解けないようにちょっときつく結ぶ。


他の人達は男子と男子のペアや女子と女子のペアが多いが、緊急で組んだペア故に男女のペアなのだが俺たち以外に男女ペアはいなかった。


「まぁこれはこれで勘違いさせるのにはちょうどいいかもね?」


「こっちは緊急でペアを組んだだけだからぁ。向こうが勝手に勘違いしてくれるとありがたいねぇ」


そろそろ始まりそうなのでもう一度紐を確認して本部席のスタート合図を待つ。


そして数秒後にピストルを持った人がやってきてスタート合図を空に響かせた。


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